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幼気な少女に甘い言葉を囁く不審獣物

「…………何?」


 少々の沈黙の後、少女は僕と視線を合わせる。


 よく見ると少女はひどい有様だった。年の頃は十代半ばほどだろうか。ぼさぼさの髪、薄汚れた服、据えた体臭……これ以上乙女の名誉を傷つけるのはよそうかな。


 そして目。個人的にこの少女の最大の特徴。


 僕はこの時死んだ魚のような瞳というのを初めて見た。瞳自体は翠緑色で美しいのに、よくもこんな腐臭を感じさせれるものである。


 この子、素材自体はすごくいいんだ。くすんではいるが腰まである長い金髪、少々痩せぎすだが中々のプロポーション、顔立ちも中々整っている。磨けば光るはず。


「力が欲しくないか? 圧倒的な力が」


 もう一度誘いをかける。暗がりで小さくうずくまっていた少女は、僕の言葉を鼻で笑ってニヒルな笑みを浮かべた。


「どこの魔術師の使い魔か知らないけど、私で遊ぶのはやめたほうが賢明。あなたの思い通りになるつもりはない」


 使い魔ね。そういうのがあるのか。あとそのちょっと皮肉めいた感じ、嫌いじゃないよ。


「何か勘違いしてるみたいだけど、僕は誰かの使い魔じゃない。フリーさ。君と契約を結びたいんだ。君、見たところ大分生活に困窮しているようだね? 僕なら君に現状を打破する力を授けてあげられるよ」


 先ほどから契約と言っているが、これは出まかせではない。本能的に分かるのだ。僕は候補となる少女と契約し、力を授ける存在であると。そういう生物なのだと。


「……くだらない戯言。けど、それに縋りたいと思ってる愚かな自分に反吐が出る」


「えっと、契約してくれるってことでいいのかな?」


「……殺したい奴がいる。その為なら対価にこの命を捧げたって構わない」


「大分ヘヴィーな感じなのが気になるけど、契約するってことでいいのかな?」


 薄々感づいてたけど、どうやら僕は大人向け魔法少女のマスコットらしい。エロ系じゃなくてグロ系のR

 R18な感じ。


「その認識で構わない。よろしく、フリィ」


「フリィ?」


「さっき自分でそう名乗った」


「ん? ああ、そういうことか。まあいいや。僕はフリィ。君の名前は?」


 どうやら契約してないって意味のフリーを名前と勘違いしたらしい。人間だった頃の名を名乗るのもなんだか変だしな。よし、今この瞬間から僕はフリィだ。そう決めた。


「私はメルティ」


「メルティ……いい名前だね。ではメルティ! 僕の胸元の宝珠に触れるんだ! それで契約成立さ!」


 毛とベストで隠れた僕の胸元には青く輝く珠が埋め込まれている。これが僕という存在の核だ。弱点ぽいの普段はなるべく隠す方針だ。


「これでいいの?…………っ!」


 メルティが宝珠に触れた途端、暗い路地裏が光りに包まれた。


 虹色の光の中、少女が変貌する。


 まず一瞬で服がはじけ飛ぶ。なおその際には謎の光で乙女の秘密は守られるから安心である。

 最初は腕だ。黒いグローブが嵌められ、鋼の装甲で覆われたガントレットが出現する。

 お次は足。黒のニーソックスで膝上まで覆われ、鋼のレガースのようなものが出現する。

 腰には赤いホットパンツ。ふともも丸出し。

 胸には腰とおそろいのハーフトップのインナー。おへそ丸出し。


 最後に空中から赤い宝珠が生まれ、そこから無骨な大剣が生成される。メルティはそれを掴み、大剣を炎を吹き出させながら振り回してしてウインクして決めポーズ。


 ちなみに時間間隔が引き延ばされているので一瞬の出来事である。お約束である。


「胸に宿すは復讐の炎! 家族の仇を悪・即・斬! マジカルメルティここに見参!」


「す、素晴らしい! 素晴らしいよマジカルメルティ!」


 僕は感動した。魔法少女の変身シーンを生で見られるとは……。セリフがちょっと物騒だけどそこは目を瞑ろう。


「……命を投げ捨てる覚悟はしていた。けど、こんな恥辱を受ける覚悟はできてなかった……」


 これまで無表情がデフォルトだったメルティが決めポーズのまま赤面してプルプル震えていた。


 それと割と派手な音とか光とか発生したせいだろう、周りの建物の窓がいくつも開いた。住人達はマジカルメルティを見ては珍獣でも見たような顔をしている。


「と、とりあえず場所を移そうか」


「……そうする」


 軽く殺気を向けられたので僕はメルティと一緒にその場を逃げるように去った。

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