生物として欠陥品
僕は夢の中で神と出会った。
神は言った。
「もし君が異世界に転生するとしたらさ、君は何になりたい?」
僕は言った。
「魔法少女」
僕は魔法少女系のメディア作品にハマっていた。それも日曜朝から大きいお友達用まで幅広く。
「んー、君が魔法少女になりたいってこと?」
それはなんか違う気がした。
「いや、魔法少女の物語を近くで見たいというか……」
「それじゃあさ、マスコットっていうの? 魔法少女って大体近くにあざとい見た目の生物いるじゃん。あれに転生すればいいじゃん」
「確かに」
神の言う通りだった。
「それじゃ転生させるね」
「サンキュー神様」
こうして僕は転生した。
「サンキュー神様……じゃねえってば! は? なんで? 単位も終わって就職も決まってのんびりできるってとこでなんで僕はこんな畜生に転生してんの?」
僕はマジカルビースト的な何かに転生していた。何故マジカルなのかは魔法少女のマスコットがモデルなのだろうというのもあるが、僕自身魔法っぽいものが使えたからだ。たった今、体全体を確認するのに鏡が欲しいなって思ったら目の前に浮いてる鏡が出た。
僕は魔法で作った鏡で改めて全身を確認した。
「……なんかアニメとか漫画ならわかるけど、実際こんな生物いたら不気味だよな」
僕は簡単に言うと直立する三頭身の猫と兎を足して2で割ったっぽい何かだ。少女漫画かよってツッコミたくなる大きい瞳、上半身にはちょっとお洒落感出してる青いベストに、長い尻尾の先端には赤いリボンが結ばれている。無駄に長い耳が頭頂部で揺れていて、毛並みは黒。
「てかここはどこなのさ。見るからに日本じゃないよね。自動車の代わりに馬車とか走ってるし、何時代だよ。いや、そもそもここって異世界か」
目に映るのは石造りの街並み。多数の人が行き交う大通りを見ながら僕はため息をついた。
そのまましばらく観察しているとこの世界に普通の人間以外の人種がいることに気づく。耳の形が違うのだ。
妙に長い耳だったり、毛でフサフサの耳が頭頂部から生えてる人がいる。
多分エルフとか、獣人とかその辺りだろう。あの妙に背の低いおっさんはきっとドワーフだ。
どうやらここは随分とファンタジーな世界のようだ。あと剣や鎧などで武装してる人が多い辺り割と物騒な感じなんだろう。もしかしたら魔物とかもいるかもしれない。
魔物か……魔物? やばいな。僕って魔物っぽくね? こんな生物、自然界にいないでしょ。
「隠れないと……」
なんとなく建物の陰に佇んでいた僕だが、暗い路地裏へと引っ込んだ。四足歩行で。やっぱ獣なのかこっちのほうが早い。
人に見つかると最悪害獣認定で殺されかねないし、とりあえず町から出たほうがいいかなとか考えてた時だった。
ピクリ、と本能的な何かが僕の中で蠢く。
今僕には向かうべきところがあり、会わなければいけない人物がいる気がする。
自然と足が動く。暗い路地裏を駆ける。この体は中々の俊敏性を誇るようで、遠く離れてた割には一瞬でそこにたどり着いた。
そこで僕はある人物と邂逅した。
一見するとただのみすぼらしい少女だった。
だがそんな見た目は関係ない。本能が疼いていたのだ。
この少女こそが僕の運命の相手だと。
ならば僕が言うことは一つ。
「ねえ君、僕と契約して魔法少女になってみない?」