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就職

 熊をやったぞ!わぁい!

 俺は未だに勝利の高揚が抑えられなかった。ドクドクと心臓が走り俺の腹をぶち破って俺たちと一緒にぴょんぴょん跳ねる。剣はギョッとしたように心臓を見るがまあいいかと勝利の舞を行った。

 その後荷台を作り熊を乗せた。俺は手先が器用だった。熊を押しながら森を出るとギョッとした顔で俺を見る浮浪者ども。ッチ、鬱陶しいな……男から目線を向けられても嬉しくないので俺はギロリと真っ赤に光る眼から光線を繰り出した。野次馬どもの網膜がジュっと焼かれる。

 ヘッ安心しな、10分後には治ってらぁ……。

 更に野次馬どもがギョッと俺を見るがぐるると唸りながら目をチカチカさせて威嚇すると蜘蛛の子を散らすように消えていった。ペッ甘ちゃんが。


 その後、仲介所に着くとババアが俺を待っていた。まあ熊なんて持ち出してんだ。千里を走るってわけじゃあないがババアの耳には直ぐに入っただろう。だが、そのまま俺に会いに来なかったのは減点だな、どうやらまだ俺を格下だと思っているらしい。いや、それは合っている。俺はババア、てめえには敵わねえよ。認める。だが、何も傷つけられねえことはないんだぜ?護衛は2人……いや、中にもう2人か。

 ばあさん直々に来るとは、祭りでもやってるのかい?

 俺は面の皮の厚さを利用していつも通りに話しかけた。


 「クソガキが、馬鹿の振りしてるとは思ってたけどここまでとはね」


 ああそうだ、この熊買ってくれよ。ん?なんか怒ってんな、そういや昨日帰ってなかったカ……帰るのが遅れてすまねえな。ばあさんも心配してくれたのかい?

 やはり舐められてるな。俺は面の皮の下で笑った。開口一番で荒げるたぁ随分と下に見られてる。まあ勿論俺がそう印象付けたわけだが。


 「そんなもん買わないよ。全く、そんなデカくてまずい肉に金を付ける奴なんていないよ」


 嘘だな。俺は断言した。

 ババア、お前は今恐れてるんだろう?自分の安寧の地で急に圧倒的な暴力を持つ奴が表れたんだ、今まで粛清隊という暴力でここを支配してきたババアからすれば由々しき事態……奴が出てきた理由は察するに真偽の確認、俺の武力の確認といったところか。肉を買わないだぁ?馬鹿言え、ここは浮浪者の天国だ。デカいだけの肉がどれだけの価値になるか分からないはずがねえ。俺を警戒してるな?俺とそんなに相対したくないか。

 ええ~じゃあ俺の武勇伝くらい聞いてくれよ。ほら、この断面図とか見てさ。ほら、中でゆっくりとさ。

 俺は駄々をこねた。ババアの性質だ、熊を殺したなんて部下に確認させればいいことを俺の前まで来て確認する。お前は他人を信用できねえんだよ。さて、この断面を作った俺の手品を話すって言ってんだ。この話に乗るしかないよなぁ!

 そういうことになった。


 「それで?」


 仲介所の一室に入った俺とババアはソファに座り4人の護衛は俺を囲むようにして立った。どうやら俺に話を促すようだ。とりあえずジャブでどれだけぼれるかだな。俺は舌なめずりをした。

 なあばあさん。俺はあんたに感謝してるんだぜ?戦争孤児だった俺に職をくれたのはあんただ。だからそうだな……こっから最寄りの街までの地図と100万ジェニー、それと街までの足で手を打とう。

 俺は吹っ掛けた。明らかな暴利に護衛がざわつく。


 「浮浪者がふざけるなよ、お前はどうやってこいつを殺したか吐けばいいんだ」


 こいつは……外回りにいたやつか。粛清隊に入って3年もたってねえな。

 おいおい、ばあさんは素晴らしい部下を持ってるんだナ?まさか交渉にも口出しできる護衛とは……どこで買ったんだ?俺にも教えてくれヨ……


 「やめな。ガキとはあたしだけで話す」

 

 くくく……いいねぇ、俺を敵として見る目だ。ようやく俺好みになってきたじゃないか……

 俺はババアと視線を合わせる。


 「まずさっきの金額もろもろだが、あのデカブツを殺した情報をそれで売るって事かい?」


 勿論。

 俺は適当に言った。どうせ断られるからな。これは基準点だ。


 「100万は無理だ。10万で良いなら後の2つは明日にでも用意しよう」


 あっえ??え?

 俺は動揺した。本来は「そんなん無理だね。話にならん」とか言ってくれると思ったのに!どこだ……どこで計算ミスをした?いや普通に考えてこのババアが熊を単独で殺せる反旗翻そうなやつを近くに置いとくわけがないか……俺は自分のミスを悟った。これなら外に出ていく意思を見せるんじゃなくて君臨する意思を見せるべきだったか……毟り取れる金が2割程度になった事を察した。熊の強さを理解していなかった。よく見るとさっき反論していたやつ以外は俺がここに来る前からいるやつらだ。そいつらの俺を見る目……恐れられてるな。どうやらババアと同じように早くどっかへ行ってほしいらしい。俺は悲しかった。育ての故郷のようなこの場所からどこかへ行けと言われているような気がしたからだ。俺は確かに出ていきたかったが追い出されたいわけではなかった。

 例えば赤ちゃんプレイをする時に甘やかしてほしいが俺の思った通りに甘やかしてほしいと思う感覚に似ているだろう。あと手際が悪いと直ぐに修正しようとしてしまうので丁度良く子育てに慣れていないようにしてほしい感覚にも似ているのだろう。俺は経験したことないがそう思った。

 育ての故郷にそんなことを言われるなんて心外だ!そんなに出て行ってほしいなら出て行ってやるよー!


 俺はキレた。ふるるると肩を震わせている俺に周りはギョッとした。


 「それじゃあそういうことで良いね」


 そういうことになった。


 朝。

 ひゃー!俺は叫んだ。

 夢の中でキレなチャンネーに会えなかったからだ。どうやら剣には俺の脳みそを読み取るステキ能力がないらしく俺が綺麗なチャンネー出してくれよと頼んでも「出会った女性体として仲介所の女性を抽出します」とか抜かしてきて俺はキレたね。

 話がちげーじゃねえか!

 いや別にそんな話されてなかったわ。俺は落ち着いた。朝日に剣を当てチラリと輝かせると俺を囲む粛清隊がビクっとする。チラリチラリ、ビクッビクッ歩きながらチラリ、歩きながらビクッ。俺は楽しくなった。ババアから「あそんでんじゃないよ」と言われるまで俺は遊んでいた。

 どうやら今日来るようだった近くの街行きの馬車が来たようで動くとびびるおもちゃと別れてそれに乗る。運が良かった、のか?流石に俺にタイミングを合わせるなんてことは出来ないはずだ。そもそも剣握ったのも4日前だしな。

 そういえば、ここの事を教えるなとか約束しなくていいのだろうか?ババアが中のやつを外に出したがるのを渋るのはもっと強いやつが統治する可能性があるからだ。ここの情報はなるべく気取られたくないのだろう。それとなく聞いてみた。

 

 「まあ、昨日アンタはここを育ての故郷だって言ってくれたろ?案外あれが嬉しくってね……アンタならここを誰かに教えることもないだろう?」


 ババアは照れくさそうな笑顔をしていた。

 俺は普通に有用そうだったらここをばらす気でいたので割とドギマギした。周りの粛清隊もへへっと鼻を掻いている。えっぉ、俺が可笑しいのか?わからない……これはババアに俺の罪悪感を引き立たせる罠!?いや違うっぽいぞこれ!じ、純粋に人間を信じている……?こ、根拠はどこだ……?このババアなら人間をただ信じるなんて真似はしないはず!人間の心が読めない……わ、わかんないっぴ……タコピーね。

 結局育ての故郷を発展させたいという俺の子供的な純粋な感情だからOKだと結論付けた。そんなこんなでババアが話をつけてくれたらしい。商人よりはヤの付く人っぽいガチムチなおっさんが俺の前に現れた。


 「お前が急に出来た同行者かぁ?なんだまだガキじゃねえか。まあ短い旅路だが迷惑かけたら降ろすからな」


 どうも、よろしくお願いします。

 俺は生返事した。しかしこいつの視線……俺は視線に敏感だった。どこを向いているか、どんな感情を持っているかをおっぱいがでけーチャンネー並みの感覚で理解できる。俺の剣に興味津々ってとこか……無理もない。鞘もないこの剣はその美貌を惜しげもなくむき出しにしてるからな。一回適当に作ったら剣が動いてないのに鞘に納めた瞬間にスパッと真っ二つにされて俺はふぇぇぇぇぇとなっていた。俺はなんか傷つかないらしい。便利だと思いました。

 俺はこう見えて結構やれてね……あんた商人サンなんだってな?こっから馬車まで……5日か?へー、3日で?そりゃ凄げえ、良い馬車なんだな?へぇ馬?が……いやあ馬を見る事なんて生まれてこの方一度もなかったもので……いやぁ素人から見てもって言い方であってるのかわからねえがいい毛艶やしてるもんだ。動物に優しい人間は幸運って聞くが……なるほど、あんたを見るとどうやらその通りみたいだな?そういえば、この馬車……見たところ護衛もいないようだが、俺を護衛としても雇う気はないかい?ちょっとばかし食料を恵んでくれれば十分なんだが……ああ、実績としてはこの森にいる熊……あのクソデカいバケモンみたいな動物なんだが、知ってるかい?ああ、そうそれ。俺はあれを単騎で行けるんだが、お前は?トリコ。


 「トリコではないが……ペラペラとよく回る舌だな。面白い気に入った。その年でオオイヌ倒してんなら才能は上の上か……良いだろう。才能の投資で3日間の食料を俺が回してやる」


 あいつオオイヌっていうのね。てか馬デッカ。

 俺達は握手をした。その時も奴の目線は俺の剣を見ていたのを俺は舌なめずりをしながら見逃さなかった。ぎゅっと握られた力強い手だった。やはり……こいつ強い!俺はバトルもの漫画のシーンを再現した。しかし本当に強いか分からなかったので剣に聞くことにした。どうなん?そこそこらしい。熊より下くらいらしい。つまり俺よりは全然強いな!なるべく対立せずにもし戦う時は離れて魔法で殺そう!

 そして馬車に乗って平穏に時間が過ぎる中……人間って経験値いくらなんだろうか……俺は商人に首を熱っぽい視線を送るが馬を扱っているためこちらには気づいていない。俺は愕然とした。まさか、人間を経験値に思っているだと……!祟りじゃ!これは剣の祟りじゃあ!剣から心外だと念が飛んでくるが俺は無視した。


 あれから偶に野犬が襲ってくるくらいで何の起伏もない時間を過ごして俺はこの人生2度目の街、【ムカーッノ】に着いた。そして今俺はヤの付く人の事務所っぽいとこの地下にいた。

 まあ、浮浪者がいるところに馬車を回すような人たちがまともな商売してるわけないよねという……俺は剣を没収され10万ジェニーも没収されて地下室にいた。俺はほわんほわんと回想を始める。


——————回想——————


 「おし、ムカーッノに着いたぞ。今から商店に向かう。そこまでこい」


 俺は不法滞在した。やったあ!本来住民票か免許証のようなものが必要でなければ1万ジェリーかかるらしいのだがタダで行けた。普通に荷物の中に隠れろと言われたので俺のせいではない。その後揺られて数十分後、俺は豪華な屋敷の中でヤーさんと対峙していた。俺は見て一瞬で漏らしそうになったので膀胱を右脇に置いて対面する。周りの人はギョッとしていた。


 「は?え?あー……一つ聞きてえんだがお前人間?魔族じゃあねーよな?」


 俺は悲しい気持ちになった。俺ほどまでに人間の善意を体現した人間などいないのに。

 人間です!

 俺はエレンの気持ちを味わった。進撃の巨人ね。


 「マジか……魔法かなんかか?キモすぎるだろ……あーとりあえず、ちょっとお前はうちで預からせてもらうことにした。理由としてお前はこの街の人間じゃねえからな、後ろ盾としてだ。んで、そこまでするのはお前の才能に投資する目的がある。お前さん戦争孤児だろ?別になんかしたくてここに来たわけじゃねえなら悪くねえだろ?」


 このおっさん、相当偉い立場だな……この決定を即座に出せると。ボスの可能性は……ないな。周りの目線がそうはいってない。ナンバー2か?視線は俺の眼と足、そしてベルっぽいやつに向けてる。剣に向けないのか……俺本人を見てる。やりづらい相手だ……。

 その、後ろ盾はうれしいんですが、その丸いやつは?


 「ああ、そりゃ見たことねえか。これは真偽判別機だ。聖職者が使える真偽裁判……嘘か本当か分かる魔法っていえば伝わるか?それを精度を少し落として魔具にしたもんだ。嘘を言うと音が鳴るから嘘ついてでもばれるぜ。あと、んな喋り方じゃなくていいぞ。俺はボスじゃねえからな。お前の上司になるが、堅ッ苦しいのは苦手でね」


 ニヤリと笑いながら答えるおっさん。なるほどな、そんな便利なものがあるのか……俺は面の皮の下で舌なめずりをした。

 へぇ、サンキューな。俺もあんまり敬語に慣れて無くてね。浮浪者だから大目に見てくれると助かるぜ。それで、ボスじゃあないって?俺からしちゃあ見たこともない貫禄がありそうなんだが……じゃあナンバー2当たりなのかナ?へぇやっぱりか。あんたがナンバー2なんて贅沢な団体なんだな?お世辞?いやいやマジだよ。俺はあんたにはそんくらいのすごみがあると思ってるゼ?ま、ボスを見たこともないから分かんねえけど、あんたがナンバー2なんだ。ボスも相当なんだろ?あ、後ぜひともここで厄介になりたいね。


 「お前凄い勢いでしゃべるな……まあいい。それじゃあ先ずは俺の下の組員に入って仕事を覚えてくれ」

 

 そういうことになった。


 それから俺は借金をしてるやつのヤサに上がる仕事に向かうことになった。

 俺が新入りだからとまずは見て覚えろとセンパイ方に言われて見ているが……

 どけ、俺がやる。お前らさあ、効率悪いんだよ。いつまでもいねえ奴のヤサ漁ってよぉ……夜逃げされてんだよ。舐められてんだよウチは。おい、今日何個のヤサ探すつもりだ?ノルマは2個ぉ?てめえらふざけんじゃねえぞ!兄貴に泥ぬるつもりかぁ!リスト寄越せ、俺が見てやる。紙に書いてあるとはさすがに金があるな……こいつは嗅覚がよさそうだな。夜逃げの準備をしているだろうし……ほかの組からも金借りてそうだ。こいつは……借りる期間がバラバラだな。身体的特徴は?顔が良い?ヒモだな。こいつん家近くの一人暮らしの女性宅だ。んでこいつは……まだいる。おいとっとと行くぞ!

 俺は手際が悪いやつを見ると修正したくなっちまうんでね。剣を担いで借金取りをする。何を言われようが金を返さないやつらが悪リィんだ。正義は俺たちにある!俺は俺を拾ってくれた兄貴のメンツを保たなきゃいけねえ……後ろ盾になってくれるってんなら俺は兄貴をトップに……ボスにするんだ!!待っててくれよな!兄貴!!

 その日俺たちは17人の債務者を締め上げたぞ!やったぁ!後他の組との小競り合いがあったので俺一人でぶちのめして帰ってきた。その頃からセンパイ方から敬語を使われるようになったのは何故だろう……同じことをして、理解を深め合っているのに心が離れていく……

 そして俺は兄貴に債務者を捕まえたのはよくやったけど抗争に入るのはやり過ぎだと注意されて反省の地下室へ連れてかれた。



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