運命の出会い
転生して12年が経過した。
突然だが俺は転生者だ。転生というのはまあ今の自分とは違う自分の記憶があるって事であってるのか?仏教がうんちゃらとかしか知らんけどまあそう言うタイプの人だ。
転生者特典はなかった。悲しいね……いやホント。俺ってば戦争孤児だからなんの力もなしに生き抜くのはだいぶキツかった……前世の記憶とメンタルが無かったら余裕で死んでたなこりゃ……いやでもどうせ死んでもまた転生出来るかもしれんし別に良いんじゃね……?
何というか俺の心は死に対して忌避感が薄れていっていた。それは俺が死後もこうやって転生できてるからとか周りにしたいがゴロゴロ転がってるからとか昨日あった人が死んでもおかしくない環境だとかの影響だろう。
そんな俺に転機が訪れた。いつものように森に行き果物が無いか、不審な点がないか、罠にかかった獲物がいるかを見に行くと見たことのない道を発見したのだ。
「こんな道あったか?」
魔物も結構出没するこの森に長居したくは無かったが最近の生活では刺激が無くなっていた俺の好奇心は震えまくり危険な領域に突入してしまう。ま、最悪死んでもええかと気軽に木々が生い茂った道を進むとそこには台座に刺さった剣が存在していた。開けてんなと思ったらここ断崖絶壁の上かよ、落ちたら死ぬな。
いや知らんが?何だこの剣……ここ5年は使ってるがこんな場所マジで知らん怖わ……
俺は恐怖したがすたすたと剣に近づく。前世から今世まで剣なんてものを見た事は殆どないウルトラドドドド素人の俺が見てもわかるくらいよく切れそうだ、業物なんだと思えるくらいの鋭さを持った綺麗な剣だった。降ってみたくなったので柄を握って抜こうとするとあっさり抜けた。
「えっ抜けんの?」
えっ抜けんの?こう言うのって伝説の勇者とかしか抜けないんじゃ……いやまあ普通そんな細工しないか、夢見すぎたかな……いやしかしこれは貰ってって良いのかな?
「貰って大丈夫そうですかー?」
誰も聞いてないと思うけどとりあえず空に話してみるが何も返ってこない。空は空、一切は空であったため俺は虚しくなった。コヘレトね。
大丈夫っぽいので剣を持ち帰ることにした。12歳の体に対して普通にこの剣デカくて重くて一瞬捨てようかなと思ったけど流石にそれはやめておいた。因みにあまりに重いので引きずって持っていくことにした。今夜は焼肉っしょ!!!!!
元の場所に帰ってふぅと一息をつくと後ろにはあの道が存在していなかった。俺は少しちびったが、これは雨だよと心の中でマスタング少佐が言っていたので雨が降ったんだろう。ハガレンね。
元より、元より俺はここで木の実を収穫して死体から拝借したナイフやら罠やらで動物を捕獲、殺してババアに渡して幾ばくかの金額を頂戴している生活をしていた。理由としては一人で生き残る力と知恵がなかったためである。ここの動物は前世地球産よりデカく、荒々しい。タイマン状態になったら俺は即逃げるし罠に掛かっても罠が壊れないように祈りながら石を投げて衰弱死させてからナイフで解体を行う。火なんて使えないので肉は全て端金で売って食える肉と交換した貰う。炭水化物の少ねえ人生を送っている。知識なんてこの森から10キロ離れたら何あるか知らんしな、生きてくのって厳しいわ。俺は泣いた。
さて、俺が回想を終えると目の前の生き物が俺に突っ込んできた。そうですただいま大ピンチ。どうやら立体視能力が欠如しているご様子であらぬ方向へ突っ込んでいったそいつは俺に向き直りブルルと唸り声をあげた。
たぶんおそらく確定はしないし断言もしないけどイノシシのような何か、俺はイノシシって呼んでる。この森の中で5番目くらいにやべー生き物だ。こいつらは雑食で基本群れて生息している。今回は単体だったのでラッキーだった。まあ獲物を独り占めできるとイノシシが絶賛喜んでいるラッキーなわけだが。因みに俺は絶賛いっぱい悲しい気持ちになった。
シクシク……
よし、悲しい気持ちをポイっと捨てると俺は舌なめずりをした。
正直よぉ~今の腐った生活に飽き飽きしてたんだヨ、お前なら俺の飢えを満たしてくれるのかナ?
俺はよく切れそうな剣をもって調子に乗った。かなしい気持ちが地面に落ちた今俺の中にあるのはこの剣を使ってみたい少年心と戦いの高揚感と死んでもまあしゃあねえというあきらめに似た何かだった。あまりの自信の心のアンバランスに驚いた。どっひゃー!
「ひゃっはー!」
俺の驚きが戦闘開始の合図となった。俺はバッと駆けた。しかし剣は重いので俺はクソほど遅かった。俺の声に驚いたイノシシが俺に向かってくるがやっぱりノーコンなのであらぬ方向へと突っ込んでいった。俺は一瞬考えて悲しい気持ちを地面から拾いペッペと砂を払うとそれを飲み込んだ。俺は泣いた。
お前、まさかマジでノーコンなのか?驚愕とともに悲しい気持ちがあふれ出す。
そうか、こいつが一匹だったのはまぐれじゃねえ、こいつは狩が下手過ぎて孤立させられたんだ。聞いたことがあった。狩りが下手な動物はコミニティから追い出されると。この気持ちは同情か……?しかし俺の同情はかき消された。
なんて目をしてやがる……!そいつはまだ死んでいなかった。だからどうしたと、俺は孤高なんだと誇って見せたのだ。俺は涙が止まらなかった。そうか、お前は孤独を孤高に変えたのか……西日が当たるそいつの毛並みはお世辞にも綺麗だと思えなかったそれはまるで命の炎のように煌めていた。
俺は高鳴る心臓を抑えきれなかった。こいつを殺したくなったのだ。この孤高を蹂躙して俺はこいつの意志を引き継ぎたいと真に思った。ドクドクと心臓が高鳴り俺は口から蒸気を吐き出した。
「ぶもも」
次で決める。俺にはそう聞こえた。
もちろん。
俺はそう返した。俺には剣術がない。だから剣をバッドのように持った。俺には身体能力がない。だからカウンターを狙った。俺には意思がある。だからイノシシに俺の言葉は通じた。
速い!イノシシが弾丸のように突進してくる。しかし俺も伊達にバッドのように構えていたわけではない。この剣の刃渡りは大体80㎝、彼我の距離が150を切ったこのタイミングで!口から蒸気が垂れ、顔が赤くなる中、俺は最高のタイミングで剣を振った____
しかしイノシシはノーコンだったためあらぬ方向へ突っ込んでいった。
俺たちは静かに顔を見合わせて……笑った。俺は何やってんだよと、あいつはすまんすまんと。きっと俺たちの中に罵倒は似合わない。そう確信した瞬間だった。西日は長い影を作って、木々の影に俺たちの影をそっと混ぜた。その影はきっと俺たちは繋がっているんだと思わせてくれるものだった。
プレイボール!野球は言語の壁を超える。
いやプレイボールじゃねえわ。そもそも野球じゃねえ。あの後お互い帰路に就いた。俺は木の実数個と罠に掛かった哀れなリスを手に持ち、やっぱ重いわと考えを改め剣をそこらへんに埋めてババアに合いに行った。
「遅かったじゃないか小僧、野垂れ死んだかと思ったんだがね」
仲介所【シャルワール】。
そこで様々な浮浪者から商品をボリまくるババアがぬっとこちらを見たあとそう抜かした。
俺は正直このババアが苦手だ。全てにおいて俺を上回っているからだろう。人心掌握も身体能力も知能も悪知恵も全てが俺の上位互換だ。よく言うぜと返しつつ俺はリスを汚ねえ台の上に乗せた。
「ふーん、今日も動物狩ってくるとはやっぱツイテるねえあんた。50ジェニーだ」
ババアは俺をちらりと見た。俺は少し前に同じくらいの大きさのリスが70ジェニーで売られたことを知っていた。そしてババアは俺がそれを知っていることを知っている。
「ありがとう」
少しも考えるそぶりを出さずに俺は答える。だがババアは俺を見続ける。バレタか?イニシアチブを取らせるのは良くないと俺は判断した。
「それじゃあいつもと同じ焼き鳥50ジェニーで」
面の厚さには自信がある。俺は飄々と注文を頼むと出来合いのそれを受け取って家に帰る。俺の背中をじっと見つめる粛清隊の視線を感じながら。
このスラム街の方が億倍マシな地域で何故仲介所なんてものが開けるのか、あのババアが手駒を雇っているからだ。1年前にやり過ぎたな……俺は1年前のことを悔いた。たった数カ月であの量はやり過ぎだった。もっと時間をかけてやるべきだったと反省する。
俺はそこで目をつけられた。当時11歳のガキだったのであの事件を起こしたわけじゃないだろうと判断されたが俺の眼は見逃してなかった。あのババアが俺をじっと見ていることに。俺は馬鹿にふるまう必要があった。
焼き鳥を頬張りながら俺は思案する。やはりここからの脱出が必要だ。周りをみれば男臭い連中が肩を組んでいたり男どもが喧嘩の末に殴り合い重症になったやつがいたりと散々だった。俺は女の子が好きだった。こんなXX体がババアしかいねえところさっさと抜け出そう。俺はそう強く誓った。そしていつもの場所で寝た。
起きたらなんか昨日捨てた剣があった。俺は恐れおののいた。それは剣の戻ってくる機能じゃない。俺の浅慮にだ。俺はこの剣を売ろうとしていた。もしこれが数万ジェニーにでもなってみろ、翌日戻った剣を持っている俺は剣を奪った泥棒で死刑だったろう。
危険すぎる。俺はそう判断した。なによりも俺がここで剣を持ってるとばれることがだ。俺は剣を担いでまた森に向かった。力が必要な場面だ。それは俺が思っていたよりも早くにやってきた。
どっせーい!
俺は罠に掛かった獲物を剣で切った。ぷしゃーと血が噴き出る。この断面……惚れ惚れするぜ……俺はこいつに夢中になった。眼が$になっていることに気が付くと踏ん張って直す。
少々重いがリーチが長く威力も上々、いや最上か、俺のゴミのような切込みで一刀両断だ。間違いない、俺は今この森で最強になった。
俺は天狗になった。すると剣からなにが画面のようなものが飛び出した。
【星創:剣】lv1/??? next300
skill:不滅
skill:献身
skill:拒絶
skill:4大魔法
俺は転生者なので気づいた。ははーんこれがステータス画面か。俺的には付属品じゃなくて自分にチート能力があった方が安心できたんだが……恐らくさっき獲物を殺したからだろう。経験値的なものが入ったのだろう。だ……駄目だ まだ笑うな……堪えるんだ……いや、しかし……
俺は笑いをこらえられなかった。勝ったと確信したからだ。俺の剣を見る眼が$からさらに怪しいものへ変化する。ギンギンと赤く光る俺の眼は美しい刀身に反射されその光を直視した俺は蹲った。眼が!眼がああああ!!
バタバタと転がっていると剣と意識が繋がる感覚がした。剣はよろしくお願いしますマスターと言っているような気がした。
俺とこの剣は今相棒となった。剣からギョッとした反応が返ってきた。今まで相棒ではなかったのかと言いたいようだが俺は剣を宥めてチロリと舌なめずりをした。
間違いねえ、こいつは最強になる。俺の長年の勘が叫びまくっていた。雄叫びを上げた俺はもはや一匹の獣と化した。視界の端、そこに小さなリスを見て俺はバッと駆けた。俺はその小さな命がもはや経験値にしか見えなくなっていた。この森最強の攻撃力を持った俺が哀れな小さな命に迫る!!
しかし剣はクソ重かったので俺は余裕で追いつけなかった。