17. ヴァーリの愛情
初めの方はティアナの表情も硬く、笑うことも少なかった。
いつも何かに萎縮しているようで、ヴァーリへの距離も遠い。
そして、クラウスに貰った指輪が無いことに気付いては酷くショックを受けて涙を流す。
しかし、日々を繰り返すうちに、ティアナの表情は明るくなり、また、クラウスの話をすることも減っていった。
記憶は残らなくとも、穏やかな生活を送ることで本来の彼女を取り戻しつつあるのだろう。
指輪が無いことに気付いても取り乱すことは無くなったが、それはそれとしてさすがに申し訳ない。
「ティアナ、プレゼントだよ」
そう言って少しだけ摘んだカスミソウを渡すと、ティアナは少しはにかんで受け取った。
「これ、私に?」
「そう。……ちょっとだけ、持ってて」
そう言うと、ヴァーリは指先で空中に円を描く。
ティアナに渡した小さな花束は浮き上がり、一本ずつバラバラになると、くるくるとした指の動きに合わせて連なり、円となった。
花の円は魔力の輝きを帯びてティアナの細い手首に巻き付き、そしてカスミソウがいくつもあしらわれたデザインのブレスレットになる。
ティアナは目を輝かせた。
「わ、すごい……。それに、とっても可愛いです」
「気に入ってくれると嬉しいな。……ティアナはカスミソウが好きだから、喜んでくれるかな、と思って」
「言われてみれば……お花の中で一番好きかも。小さくて、可愛いから」
「自分で気付いて無かったの? 咲いてたら、嬉しそうに見てるのに」
そう指摘されて、ティアナは照れたように笑う。
その顔を見るとヴァーリまで嬉しくなって、やはり笑顔が一番好きだな、と思った。
「それを付けている時に僕を呼んでくれたら、どこでも駆けつけるから。困ったら呼んで欲しいな」
「ふふ、ヴァーリは過保護ですね。私も、結構強いんですよ?」
「それは、勿論知ってるよ。でも、やっぱり不安なんだ」
ティアナは笑っていたが、ふと、少し不安そうな顔をした。
「ねえ、ヴァーリは、なんで私をこんなに気にかけてくれるんですか? ……私が、エーファ様の生まれ変わりだから?」
ヴァーリは一瞬、言葉に詰まった。
確かに、初めはそうだった。
でも、今は――。
「ううん、違うよ。確かに最初に君に声をかけたのは、エーファの魂だったからだけど……。今僕がこうして色々君にしてあげたいのは、君がティアナだからだよ」
「私が、私だから……?」
「そう。本当は少し怖がりで、人と接するのも得意じゃなくて、どれだけ絶望しても、立ち上がる強さがある君だから。星空が好きで、雨音が好きで、小さな花が好きで、大きな音と真っ暗闇は得意じゃない。そんなティアナを、僕は愛してるんだ」
ティアナは驚いて目を見開いた。
「ヴァーリ……」
「ね、だから、考えておいて欲しいな。全部終わった後も、僕と一緒に暮らすことを」
言い終わると同時に、ぐにゃりと視界が歪む。
どうやら今回は、これで終わりのようだ。
次に会う君はこの告白を覚えていないけど、ぼんやりとでも心に残るものがあるといいな。
また告白する勇気が湧くかはわからないけど、ブレスレットは次も、その次も、何度だって贈ろう。
ティアナの喜ぶ顔が、とても素敵だったから。




