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16. ヴァーリの魔法

 ヴァーリは彼女の家を聞き出すと、彼女を連れてそこへ向かい、とりあえず休ませることにした。

 責任感からか抵抗するので、眠らせた上で連れて行かなければならなかった。

 また、すぐ魔王城へと向かおうとするので出ることが出来ないよう結界を張り、また、結界の中は時間の流れが遅くなるように魔法をかけた。

 

「ティアナ、君の恋人から貰ったものは何かもっているかな?」

「え……? あ、そうですね、指輪を以前貰いました」


 そう言ってティアナは指に嵌めた指輪を見せてくれた。

 華奢で美しいその指輪に、いくつか魔法がかかっているが、まあ問題はないだろう。

 ヴァーリはそれを何の気なしに引き抜いた。

 

「ちょっと借りるね」

「えっ、あのっ、ちょっと」


 慌てるティアナを無視して、その指輪を触媒にして呪いをかける。

 今朝を起点に、送り主が死ぬと時間が巻き戻る呪いだ。

 

 呪文を唱え終わると、指輪はサラサラと塵となって消えていった。

 

 流石にこんな大魔法を使うのは久しぶりで、正直あまり自信はない。

 恐らく成功しているだろうが、何回か繰り返すと綻びが生まれるかもしれない。

 対象者に近い位置にいる他の人を巻き込んでしまう、とか。

 

「まあ、些細な問題だね」


 そういって満足気に頷くヴァーリは、目に涙をいっぱいに溜めて自分を見上げるティアナを見て焦った。

 

「私の指輪……大事にしてたのに……」

「わ、わ、ごめん、ごめんね?」


 ヴァーリはオロオロしながら彼女を慰めることしか出来なかった。

 人間に関わるのが久しぶりですっかり忘れていたのだ。

 人間に、モノを大事にする習性があることを。

 

「本当にごめん、何でもするから許して……?」

「じゃあ、元に戻してください……」

「うーん、ちょっとそれだけは無理かな……」


 呪いの触媒にしてしまったので、何回巻き戻ろうがあの指輪は返せないだろう。

 それを聞くと、ティアナはますます落ち込んだ。

 

 結局、ティアナに許してもらうのは次の日になってしまった。

 翌朝起きてきたティアナはヴァーリの側まできて拗ねたような口調で言ったのだ。

 

「エルフは……あんまりモノを大事にする文化じゃないって、どこかで聞いたことがあります……。だから、まあ、仕方ないのかなって思いました……。あの、ヴァーリさんのお話を聞かせてくれませんか? もっと知りたいです。そして私のことも知ってください。すれ違いが起きないためにも……」


 ヴァーリをそれを聞いて、思わず瞠目した。

 

――ヴァーリのこと、もっと聞かせてほしいな。そして、私のことも知ってほしいの。そうしたら、きっと、いずれすれ違いは無くなっていく筈だから――

 

 彼女の……エーファの言葉が、はっきりと思い出される。

 以前エーファに言われたことと、同じだった。

 価値観の違いを許容し、歩み寄ることが出来るのが彼女の美徳だった。

 

 

 その後、暫く彼女と穏やかに暮らし、ある日突然終わりが訪れた。

 そういえば、結界の外はそろそろ満月。

 おそらく、スタンピードに飲み込まれ、ティアナの恋人だという王子が死んだのだろう。

 

 ヴァーリは目的が果たされるまで、何度でもこの日々を繰り返すつもりだった

 

 そうして、何度も何度も彼女と出会い、彼女との時を過ごすようになった。

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