13. ユーリアの驕り
魔王城に向かう、とクラウスに告げられたユーリアは歓喜した。
ようやくあの女のことを見捨てる気になったのだ、と。
思えば初めから気に入らなかった。
ティアナが召喚陣から現れたとき、クラウスが一瞬で心奪われたのが分かったからだ。
クラウスの隣は、自分のものの筈なのに、こんなよくわからない女に獲られてはたまらない。
適当な理由をつけて追い出そうとしたが、クラウスが彼女を庇ったため失敗した。
どうして、どうしてどうしてどうして。
ずっと一緒にいたのは自分の筈なのに。
何故そんな、洗練されていない、貴族でもない女を選ぶのか。
何度殺そうと思ったかわからない。
本当にティアナが『救世の乙女』だとは信じていなかった。
生まれ変わりなどある訳がない。
おそらく、近くにいる、光の力を持つものを喚ぶ召喚陣なのではないかとユーリアは考えていた。
ユーリアがティアナを始末しなかったのは、流石にそんなことをすればクラウスにユーリアの仕業だと露見するだろうと思ったからだ。
一時的なことだろうが、クラウスが女に入れ込むのは初めてだ。
始末すれば、ユーリアのことを避けるようになるかもしれない。
ティアナを一人で魔王に挑ませ初めたとき、本当に嬉しかった。
帰ってこないということは、死んでいないにしても動けない状態にはあるのだろう。
放っておけばそのうち死ぬ。
光の魔力が強いユーリアは、魔王の近くまで行っても少し息苦しい程度で済むだろう。
二人で魔王を倒して、クラウスの領都へと帰って、そのまま結婚するのだ。
そう夢想していたユーリアは、己の考えの甘さにすぐに気づくことになる。
◆◆◆
まず、魔王城にたどり着くのにも大変な苦労を伴った。
ティアナは一日あれば行って帰ってきていたので、さほど離れていないところに魔王城はあるのだろう、と思っていたのだが、丸一日歩いても到着しない。
あとどれくらいでつくのか、とクラウスに問えば、まだ半分も歩いていないという。
「ティアナは身体強化して駆けていたのだろう。普通に向かえばこんなものだ。……それに、ティアナを探しながら向かうから、あまり急ぐことはできない」
ティアナの優秀さを認識するのも、クラウスがティアナを見捨てた訳ではないというのも嫌だったが、癒やしの術しか使えないユーリアにはどうすることも出来ない。
大人しくクラウスについていくしかなかった。
また、すぐに大怪我を負うクラウスを癒やし続け、何度ユーリアの魔力が枯渇しそうになったかわからない。
ティアナはこんなすぐに大怪我を負うようなことは無かった。
まさか、クラウスがティアナより劣るとでもいうのだろうか。
(……いや、そんな筈は無いわ。避けるのだけは上手かったみたいね、あの子)
自分に都合の良い考えを持つことで、ユーリアは己を慰めた。
なんとか魔王城に辿り着いたときには、月は赤く満ちる直前となっていた。
「結局はティアナは見つけられなかったが、まあいい。死んではいないようだから、魔王を倒した後ゆっくり探そう」
そう言ってクラウスは魔王に挑んだ。
結果は、惨敗だった。
勝負にすらならなかった。
何かする前に、クラウスは魔王によって蘇生のしようも無いほど粉々に破壊された。
「あ、あ、あ……」
何かを思う間もなく、本能のままにユーリアは逃げ出した。
魔王は追ってこず、ただ、背後で高笑いをしている。
(こんな筈じゃなった、こんな筈じゃなかった、こんな筈じゃなかった)
ティアナはいつも負けながらも生還していたのに、どうして。
必死に逃げるユーリアは、いつもならティアナやクラウスが瞬殺するような下級の魔物に嬲り殺された。
最期まで、自分の考えを改めることは無かった。




