新たな記録-(Rar)
8分ほど歩いただろうか、ようやく入国審査所に着いた。馬車から降りてここまでの道の間何度も間違ってるんじゃないかと不安になったがそれも終わりだ、さてと、中へ...。
「うっわ、なんだよこりゃ」
目の前に広がったのは人を審査するための場所とは思えないほどに金装飾が施され、壁は純白、天井は高く何やら宗教画のようなものが描かれ、その光景は歴史上の黄金時代そのものを見ているほど煌びやかだった。人があまり居ないこともあり余計に緊張感が増している。
あたりを見渡し待合席らしき場所を見つけそこに向かう。ハビメリアのスター御用達!と言える様な待合席に座り軽い目眩を起こしながら呆然としていると
「リンさん、こちらへどうぞ」と呼び声が聞こえた、聞こえたと同時に意識も瞬時にハッキリとしてくる。
「はっ、はい!」
少々間抜けな声を上げて呼ばれた方向、審査席C5と書かれた場所へと向かう。
「こんにちは、どうぞ、おかけになって下さい」
「ど、どうも」
「審査を担当いたします、シェルエラルと申します。よろしくお願いします」
シェルエラルと名乗ったその男は、髪は金で目は青く、綺麗な顔立ちをしている、まさに美青年と言った所だろう。だが、実に奇妙な姿をしていた、左目は至って普通の碧眼だったが右目の方が少し光を放っている様に見えた。そして、何より身体の内、頬、頸、右腕から指先、左手の指五本、確認できるだけでもその部位が人間の柔らかそうな肉と皮膚ではなく、鎧の様な冷たさを感じ、なおかつ、よくわからないが暖かさを感じる物になっていた。
「気になりますか?」
「えっ、あ、すみません」
こちらの熱烈な視線を感じ取ったのかシェルエラルは聞いた。
「構いませんよ、慣れてますからね」
ん〜テンプレート、と言わんばかりの言い方だ。
「それ、なんなんですか、鎧かなにか?」
またも、ん〜テンプレートという言い方で
「すみませんが今は答えかねます、入国後に国王様にお聞きください」
「では、審査を始めますね。身分を証明出来るものと許可証をお出しください」
「あーっと、運転免許証と...はい許可証です」
コートの内側から取り出し机に並べる。
「ありがとうございます」
「えーと、リン・ジェイデ。出身センヨウ...」
シェルエラルは免許証と許可証を手に取りジッと見つめブツブツと独り言を言っている。すると右目の方でなにかが忙しなく動いている様に見えた、なんだ?気になり、見つめると、歯車の様なものが少し見えた気がした。人間に歯車?なんだ、ん〜?
「...さん、リンさん、あの〜、聞こえてます?リンさん?」
「うわぁ!」
声がするので向くとシェルエラルの顔が近くにあり大きな声を出してしまった。
「良かったです。気を失われているのかと、あまりに一点を見つめている物ですから」
「すみません、ちょっと気になったもので」
「?、そうですか。あ、そうこの部分なんですけど」
許可証の一部を指差している。
「名前の欄にジェットマン、とあるのですがこれは」
「え?ジェ...あ、あのジジイ!」
"ジジイの悪戯その一"許可証の名前をジェットマンにしちゃおう!が発動した。
「ジジイ?」
「あぁ、いやこれはですね!何というか〜、あだ名的な?自分で名乗ってるからそれは違うか?んーー」
「えっと、通り名の様なものという解釈でよろしいですか?」
「通り名!そう!OK!それ!」
シェルエラルが困った顔をしていたので「すんません」と謝る。
「あのですねリンさん、正式な書類でふざけるのはあまりよろしくないですよ」
「ハイ、すみません」
「まぁ分かりました。ではあのデータがこのデータと...。はい完了です、ようこそジュガへ」
「ん?はい?」
「ですから、ようこそと」
「えっ審査終わり?」
「ええ」
「あっ、どうもっした」
「はい、どういたしまして」
あまりにも早い審査だった、驚きから少しぎこちない動きで席を立ち、「ジュガへようこそ」と書かれたプレートが上に付いた出口まで歩こうとした。
「ジェットマンさん」
「はい!?」
さっきまで名前で呼んでいたシェルエラルがジェットマンと呼んできたので驚きながら振り返ると
「夢、叶うといいですね」
と太陽のような笑みとともに言った。
「アンタ、なんで、夢の話を」
「いいえ、ただあなたの気持ちを感じたんですよ。大きな夢があるって、だからここまで来た。でしょ?」
「ああ、そうだ」
「ジュガは求めるものに応え、拒絶するものには関わらない、求めたものが忘却するなら忘却する」
「なんですそれは?」
「この国の名前の由来にして、この国の主神ジュガ、それがどんな存在か分かりやすくした言葉です」
「アナタが求め続け、そして、心を忘れなければジュガはアナタを守る、忘れないでくださいね」
「あぁ、わかったよ。忘れないようにする」
なにか内側を心を全てを見透かされたような気分だ、体内を撫でられているかのような。恐らく俺はこの言葉を一生忘れない、忘れられない。
ようこそのジュガへの、文字を超えしばらく歩く。
そして、広がるのは生まれて初めて、いや何時迄も見れはしない光景だった。これがジュガ、これこそが。
美しい白の外壁が織りなす街並み、色鮮やかな花が道の脇に咲いている、黄金時代を感じさせる審査所、アレの何倍も華やかだった、だが不思議なことに不快感も威圧感も、そんなものは一切感じないものだった。
行き交う人々は伝統的な衣装に見える服を着る者、ハビメリアのティーン達が好むような服を着る者、学生服の者、スーツを着た者、子連れの者など様々だ。
だが共通していることがある。それは先ほどのシェルエラルの様に身体の一部、または大半が人間とは違う物です覆われていた。明らかに異様な光景だった。しかし、なぜかそれがごく自然で当たり前なものに感じた。
「リンさん」
「はい、あぁアナタはあの馬車の」
そこにいたのは迎えの馬車の御者だった。馬車に乗っているときにはよく見えなかったが、耳の中と両目、両足が人間とは違う物だった。
「今から城へ向かいます、宜しいですか、散策はその後で」
「ええ、もちろん構いませんよ」
「ではどうぞ」
馬車に乗り込む、やはりいい座席だ!
馬が徐々に加速し馬車が走り出した。ここである質問をしてみることにした。
「その身体のはなんなんですか?」
「身体の、とはこういうので?」
御者が手袋を外した、やはりそこもまた、だった
「そうです、気になりましてね、さっき審査所では国王様に聞けと言われて、教えてくれなくて」
「そうでしたか、役人はだいたい''あぁ"なんですよ、守秘義務がありますからね」
「じゃあアナタも答えられないですよね」
「いえ、私はただの御者ですから答えますよ、これはねナヤっていうんです」
「ナヤですか、何のためにそんなものを」
「進歩のためですよ、国王様に会っていろいろ話してみて下さい、わかるはずです」
「ありがとうございます、国王様かぁどんな人だろうか」
強面か?はたまた綺麗だったり?俺より歳下だったり?ナヤはどれだけ使ってるんだろうか、神秘との邂逅に胸を躍らせる。
街のはずれの広い草原地帯を馬車は走る、次第に美しい建物が大きくなってきた。
大きくなった建物の前で馬車止まる。
「はい、つきましたよ」
「色々ありがとうございます」
「いえいえ、ただ仕事をこなしただけですよ」
「国王様と話せるだけ話して下さい、そしてアナタの道を決めるんですよ」
「道ならもう、あります」
「ならば、その道に標識を立ててもらいなさい、そして旅の準備をしてもらいなさい」
「んーなんだか分かんないけど、ありがとう。そうだアンタ名前は?」
「私の名前ですか?リークです」
「リーク、よし」
コートから手帳を取り出し先ほどのシェルエラルと共に名前と職業を書いた。
「記録してるんですか?」
「ん、そうです、名前だけだとどんな人か忘れるので職業も一緒に。忘れなくないんです、出来るだけ」
「そうですか。いいですねそれ」
「でしょ?」
手帳をしまいリークに向き直り
「ありがとうございました!」
「ではまた後で」
「はい!」
馬車を見送り城を見上げる、城なんかセンヨウのか教科書でぐらいしか見たことない程度の浅い知識だがが、どことなくセンヨウのものに似ていた。
ふぅ、と一息つき城内へと進む。