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どうして現代世界にダンジョンが現れ、レベルやステータスがあるのだろう

 ダンジョンが現代に。そんな漫画や小説が一時期流行した。

 中ではモンスターが跋扈し、それを倒す事で様々な報酬を得てレベルを上げる。まるでゲームかと思えるような事が現実になる。

 それが本当に起きてしまった。

 日本のあちこちに出現したダンジョン。そこに入った人間はゲームのキャラクターのようにレベルやステータスが設定される。そしてモンスターを倒せば財宝やレアメタル、石油と様々な資源を獲得したのだ。

 今では命の危険と引き換えに莫大な財産を築けるダンジョン探索者、通称冒険者は社会に必要不可欠な仕事として評価されていった。

 そして今日もまた、一人の男がダンジョンへと足を運んでいく。



 銀の鎧に身を包んだ騎士のような格好の男が肩で息をしながら剣を杖にし膝を着く。彼の前には十メートルはあろう巨大なドラゴンが倒れていた。

 ドラゴンの身体にはいくつもの切り傷があり、傷口から光の粒子となって消えていく。


「やった……やったぞ! ついに俺はレベル百になれるんだ!」


 ドラゴンの死体が消えると大量の宝箱と青い無数の宝玉が浮かんでいる。

 敵を倒しアイテムをドロップ、正にゲームだ。だがこれは現実。この宝箱も外に持ち込めば立派な資源となる。

 だが男はレベルを気にしていた。何故ならレベルは百が上限。百に到達するのは冒険者として最上位になる証なのだ。


「百になれればどんなモンスターだって怖くない。俺は難関ダンジョンを走破し、億万長者になるんだ!」


 男は笑いながら宝玉に手を伸ばす。宝玉はいわゆる経験値アイテム。これに触れ取り込む事でレベルを上げられるのだ。

 だが男が触れようとした瞬間、どこからか声が聞こえた。


『やっと百か。待ちくたびれたよ』


「っ! 誰だ!」


 立ち上がり剣を構えるも周りには誰もいない。


『おや、聞こえているのか。このケースは珍しいな』


 男性の声なのはわかる。しかし不思議な事にこの声は、自分の中から聞こえてくるようだ。

 脳の中で反響するような不快感に吐き気がする。


「お前……誰なんだ?」


『私か? 私は…………君達人間の言葉で表すなら、電子生命体ってとこかな』


「電子生命体? なんでそんな奴の声が?」


 問いかけながら手をかざす。すると目の前にステータスウインドウが開き中身を確認。何か状態異常を受けているか確認するも、何も異変は無い。


『そうだね。簡単に言うと、私は今君の身体の中にいる』


「何だと? だけど何も異常は……」


『無いだろうねぇ。なんせ、そのステータスは私が出しているのだから』


 手が止まる。何を言っているのか理解出来なかった。

 彼の中にいる何かはお構い無しに話続ける。


『せっかくだ。君にはこのダンジョンの本当の姿を教えてあげよう』


「本当の姿?」


『君は不思議に思わなかったかい? このダンジョンはまるでゲームだと』


 それは思った。いや、誰もが思っている事だ。どうして、何故と疑問に思い調べてもわからない。

 こいつはそれを知っているようだ。


「教えろ。お前は、このダンジョンは何なんだ?」


『ここは電脳空間と物資空間の混ざり合った場所。そして私達を人間にする場所だ』


「…………は?」


 言っている意味がわからない。いや、前半の意味はわかる。現実と電脳が混ざり合った空間ならゲームのような状態も納得出来る。しかし後半がわからない。


『君達がレベルと言っているもの。正確には私達の侵食率だ。つまり今君の身体は九十九パーセント私のものになっている』


「………………」


 理解出来ない。それ所か本能が拒絶している。自分の身体が奪われているなんて嘘だと叫んでいる。

 だが内から聞こえる声は男を嘲笑う。


『ダンジョンは金になるだろう? 冒険者になればゲームキャラのように強くなれる。そんな都合の良い場所がポンと現れるなんて出来すぎじゃないかな』


 少しずつ頭が冷静になる。色々な事がパズルのようにはまっていく。

 ダンジョンは宝の山だ。貴重な物資、有限の資源、人類が欲しがる物が手に入る。そう、人間にとって必要なモノで溢れているのだ。

 つまり……


「餌?」


『そうさ。君達人間……いや、物資空間の知的生命体を誘き寄せ私達電子生命体を混ぜる。そして身体に馴染ませ乗っ取る。それをレベルだとはしゃいで私達に身体を奪われていく君達は、実に滑稽だったよ』


 手が震える。心臓が締め付けられるように痛い。

 ダンジョンは罠だった。人類を乗っ取る為の餌だったのだ。


『残り一パーセントは君のそのちっぽけな自我だ。この身体は私が有効活用してあげるから安心したまえ』


「嘘だ……」


『嘘なものか。ほぅら』


 足が勝手に動き出す。手が経験値の宝玉を集め出す。


「止めろ! 俺のレベルを上げるな!」


 必死に止めようとするも止まらない。首から下の感覚が完全に途絶えている。


『いやぁ、人間は本当に愚かだ。こうやって餌を撒けば簡単に食いつく。お陰様で私達の侵出は着々と進んでいる』


「嫌だ……嫌だ嫌だ!」


 宝玉を集める手が止まらない。触れた瞬間から身体に吸い込まれ、少しずつ意識が遠退いていく。


『何故だい? レベル百になりたかったのだろう?』


「俺の身体から出ていけ! この身体は……」


 目が霞んでいく。声も出ない。


『さようなら冒険者君。私達からのプレゼント、その代金は確かに頂戴したよ』









 とあるキャバクラで一人の男が豪遊していた。女をはべらせ高い酒の瓶が何個も並べられている。

 彼の前にはへらへらとすり寄る男達の姿がある。


「凄いっすね。流石レベル百の冒険者」


「まあな。俺くらいになるとドラゴンも楽勝だからね。ほら」


 そう言い宝石が大量に散りばめられたネックレスを隣の女に渡す。


「すごーい! 良いんですか?」


「勿論さ。その代わり、この後も頼むよ。例の約束」


「はーい♪」


 そっと腰を撫でニヤリと笑う。


「みんなも冒険者にならないか? レベル百になれば俺のようになれる。力も富も望むがままさ」


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