夢の中へ
「世蓮にはいつも迷惑をかけているからな」
魔王様が……魔王様が女性を連れてきた。四人の女性は、魔王様の後ろで大喧嘩を繰り広げている。
「世蓮、我ーー」
「ふざけんじゃないわどきなさいこのチビ!」
「あんたもチビでしょ!」
「ギャーギャーうるさい!」
「我の話を遮るでない!」
三人の妖精サイズの美女と、鋼に包まれた美女。四人の口喧嘩は、徐々に手が出て殴り合いに発展している。
「女に囲まれたいって言ってただろう?」
満面の笑みの魔王様……。城、壊れてますよ。
「起きろ世蓮」
バチンという音と、首があと少しでもげるんじゃないかという衝撃で目が覚めた。体の上に乗って次の張り手をかまそうとしているのは、夢にまで見た魔王様である。
「珍しいな、私が来るまで寝てるなんて」
「……申し訳ございません」
「疲れてるのか? たしかに、世蓮にはいつも迷惑を……」
「そんなことございませんよ! 迷惑なんてこれっぽっちもございませんから!」
夢と同じ台詞が出てきて、私はその言葉を遮ってまで言わせまいとした。それを魔王様が行ったあと、また扉の向こうで大乱闘が始まる気がした。
「そうか?」
「ええ、ございませんよ」
「なら、全責任は世蓮にあるな」
魔王様の構えていた張り手が握られ、真っ直ぐに私の頭を狙ってくる。
「殺す」
「考え直してください魔王様!」
死を覚悟した瞬間に目が覚めた。夢あるあるだ。
「あーもう起きちゃったじゃないの!」
小さく甲高い声は、枕の真上から落ちてくる。そこには、三人の妖精……サキュバスが飛び回っていた。
「仕方ないじゃない、人間に失敗してから一度もかけてないんだから……」
「いいわ、もう一回寝かせばいいのよ」
「じゃあ行くわね! えーいっ」
掛け声で振り下ろされたフライパンを、咄嗟に寝返って避ける。寝かせるというより逝かせようとしている勢いだ。もう一度振り下ろさせないようにフライパンを取り上げて、ベッドから飛び起きた。
「あーっ! シアンちゃん、もう一回寝てちょうだい!」
「いい夢見せるから」
「今度こそ!」
グイグイと洋服を引っ張られて、もう一度ベッドへ引きずられそうになる。私の力と机を綿菓子のようにちぎる三人組の力では、洋服が負けるのが先だった。
絶対に寝ない執事VS絶対に寝かせるサキュバス戦が始まり、半裸で魔王様を迎えることになった私は、サキュバス三人組と共に悪による正義の鉄槌を食らうことになった。