私だって女性に囲まれたかった
同じく夢魔であるマルクさんが部下の仲間入りをしてくれたということで、サキュバス激減問題解消のためにドピンクの扉を開けた。開けた瞬間、顔のスレスレをガラス片が飛んでいった。そのまま広い廊下を通過したガラス片が、壁に当たって粉々に砕ける。
「どうしてあいつが選ばれて私がダメなの!?」
「私に聞くんじゃないわよ!!」
「当たったんだけど! 私の美しい肌になにするの!?」
部屋の中では、妖精サイズの美女たちが飛び回り、机や装飾品をちぎっては投げちぎっては投げの大乱闘を繰り広げている。机がまるで綿菓子のよう。また物が飛んできた。今度はドアを閉めて食い止める。魔族用のドアは頑丈なようで、美女たちの罵倒と共にガードすることが出来た。
「マルクさん、どうしてサキュバスの皆様はあんなことになってしまっているのでしょう」
マルクさんに意見を仰ごうと右を向いたら、マルクさんは綺麗に手入れされた爪を噛み、全くデフォルメをかけていない悪魔のような顔でピンクの扉を睨みつけていた。
「……クソ、裏切り者共め……魔王様の命令がなきゃ皆殺しにしてるって言うのによ……」
いつもは高い声を出しているのだが、その呟きは重低音強化の体にズンズンくる音だった。
「マルクさん、顔と口から本性が漏れだしていますよ」
「あわわっ、ごめんねイアン、本当の僕はいつもの可愛い僕だよ! ……絶対殺してやる……」
マルクさんの顔は、悪魔フェイスから変わることは無かった。
「……マルクさん、他の部屋に行きましょうね」
「あー、アイツらなぁ」
恐竜の皆様の数は多いらしく、グリーンさんに人数のチェックを頼んでいる。アースさんは見つからないので、グリーンさんにサキュバスの事情を聞くことにした。
「人間の中に、なんか凄い奴がいるって噂だぜぇ。ものすごく強くて、仲間がほとんど女なんだってよ。周りの女がすぐ恋に落ちるらしくて……。サキュバス達も、そいつのせいじゃねぇのかな」
「それって私の役割じゃないんですか? 私召喚されたんですよ? ロリ魔王に」
「あはは、様をつけなきゃ魔王様にぺちゃんこにされるぞ」
「この城にいる女性、私が見たかぎり失恋で妖精サイズになって器物破損の限りを尽くしてるサキュバスと気を狂わせる音を出す女騎士とロリ魔王様だけですよ?」
よくよく考えれば、女騎士の姿は見てすらいない。なんの躊躇もなく魔王側についた報いだろうか、それともお嬢様に手を出した報いだろうか。あぁ、お嬢様……。私、泣きそうでございますよ。
《世蓮、我、生物学上は女だ……》
突然脳内に響いた音に、ウワ、と声を上げるのを留める。
「大変申し訳ありません、魔族の生物学を一から学んで参ります」
《夢魔程ではないが、貴様の脳を弄って理想の女を見せることもできるぞ》
「……」
どうだ? そう尋ねられても、じゃあ脳を弄ってもらっていいですか、とは言いにくい。
「お気持ちだけ頂戴致します」