三人の部下
「世蓮、本当にあれで良かったのか?」
マダム魔王様は、あっという間にロリ魔王様に戻った。
「私を壁に埋め込んだ事以外は完璧でしたよ。さすが魔王様!」
「根に持ってるだろ」
「持っておりませんよ。私がめり込んでいても喋ることが出来る人材で良かったです」
魔王様はそっぽを向いて唇をとがらせた。これ以上言うと、今度は故意に壁に埋め込まれかねないので黙る。そういえば、と魔王様は突然私の方を振り向いた。
「如何しました?」
「世蓮、ちゃんと魔物の管理してるか?」
「しておりますよ」
管理というか、まだ調査の段階だ。蔵書室に行ったら魔族記帳なるものがあったので、今いる人物と増えている人物を照らし合わせている。
「ああ、その件なのですが、私に部下を付けていだけませんか? いくら救世主とはいえ、まだ不審がられていて、調査に協力してくださらない方が多くいまして」
「確かに、よくお前の陰口も聞くしなー」
「私、陰口言われてるんですか? 表口も言われてるのに」
私の質問をスルーして、魔王様は微笑んだ。
「いいぞ、部下を配置してやる」
面と向かって罵倒してくる魔族の方々が多いというのに、それでもまだ陰口を言われていることは気になる。しかし、部下の方が重要だ。
「ありがたき幸せにございます」
これで楽になるかと思ったのだが、そう簡単には行かなかった。
「世蓮の部下を募った結果だ」
翌日魔王様が連れてきたのは、あの真っ赤な扉の向こうで見た絶世の美男だった。あとは、コック帽を被った緑の恐竜と、なんだろう……霧? なにかもやのようなものが漂っている。
「イアーン! 僕、マルク! よろしくね!」
飛びついて来ようとした美男を満面の笑みで避ける。お嬢様の件で、スルースキルは身につけた。
「酷いよイアン、僕、せっかく来たって言うのに」
「ありがとうございます。ご協力感謝します」
ハニートラップだと思えば、自然と感情を無にすることができる。
「救世主さん、おいらも来たぜぇ。キッチンでの鮮やかな肉片避けに惚れちまってさ。俺はグリーン、よろしくな」
「それはそれは……嬉しい……ですね」
へへ、と恐竜は照れくさそうに頬をかいている。肉片避けに惚れたってなんだろう。
「そちらの方(?)は……」
《吾輩……俺様……俺様? われ……我はアース……。今、貴様の脳に入り込み、直接語り掛けている……。人間に興味があるので……志願……しました……》
なんでキャラブレブレなんだ、さっき考えたのか?
「よろしくお願いしますね」
《よろしくたの……候》
脳に入り込まれているためか、何もしていない手に握手したような感覚が伝わってきた。怖すぎる。面子が濃すぎて戸惑ったが、この城を歩く限り、個性のないものなどいなかった。むしろ、個性が無さすぎることが個性と化している魔族すらいる。居ないよりはマシ、と自分に言い聞かせるしかないだろう。