勇者パーティはトランプがお好き
魔王様が呼び鈴を鳴らしたため、私はそこまで瞬間移動した。若干壁にめり込んだが、なんとか抜け出すことができた。
「ごめんな世蓮、今度からはちゃんと壁のないところで鳴らすからな」
私を壁から引きずり出した魔王様は、私のめり込んだ左腕をいたわる。
「平気ですよ魔王様。ご用件はなんでしょう」
いつもは気まぐれに呼んでくる魔王様だが、今回は事態が深刻そうだった。しょんぼりと縮んでいる魔王様は、硬いはずの角まで下に下がっていた。
「相談があって呼んだんだ。魔王討伐に来た勇者パーティ第五軍がいつもみたいに門の前でトランプしてたから捕らえたんだけど、地下牢がアレだから捕らえる場所がないんだ。」
「それはまずいですね。人間の勇者選出基準はどうなっているんでしょうか」
「とりあえず城のホールで見張ってもらってるんだけど、早くしないと逃げちゃうかもしれない」
「もう既に沢山逃がしてるから、余り大差ないのではないかと……」
私が責任放棄をしようとしたら、元気のなかった魔王様の角がふっと鋭くなった。
「ちゃんと考えろ、世蓮!」
こういう時に、可愛い声とアンバランスに鬼の形相になるのが魔王様の魔王様たる所以だ。
「そうですね……」
魔王様のお怒りが湧き上がってきて、オーラで出来上がった巨大生物が魔王様の後ろにうっすら見えだしたので、私は目を閉じて方法を考えた。
「魔王様手ずから拘束を解き、争いたくない旨を威厳たっぷりに示すことで、人間が嬉しくなって魔王様大好きになるのでは無いでしょうか」
「……威厳たっぷり……本当か?」
「……」
私が笑顔を向けると、魔王様はパチンと指を鳴らした。風に包まれた私は、突然城のホールに来た。来たはいいが、右目からしか景色が見えない。右目には、急成長した高身長のマダム魔王様が写っている。
「私の城に無断で入ったというのは貴様らか?」
マダム魔王様はこちらに背を向けているので気がついていないらしいが、勇者達は気がついているようだった。白い服に身を包んだ少女が、おそるおそると口を開く。
「……あの……後ろの人、柱に……」
威厳を重視してか、マダム魔王様はゆっくりとこちらを向いた。勇者から見えない角度になったところで、魔王様は反省全開の顔で苦しい言い訳を始めた。
「……あれは、そういう魔物だ。私の側近だ」
「え、どういう……」
「……妖怪めり込みバトラーだ」
さすがに嘘だろ、という疑惑の視線に対して、私は執事のものを言わせぬ笑顔で腹話術をする。
「妖怪めり込みバトラーと申します」
「えぇ……」
私のせいで威厳が消えかけている魔王様は、咳払いをして注目を集めた。
「勇敢な者達よ、手荒な真似をしてすまなかった。我々は争いを望んではいない。それでも私を殺したいのなら、鍛錬を積んでまた来るがいい。その時は、しっかりと蹴散らしてやろう」
するすると魔王様は勇者たちの縄を解いて、私から目をそらすように城の扉まで送っていく。
「あんた、妖怪だったのかぁ」
キッチンで何度かあったコック帽の怪獣が、めり込んだままの私に話しかける。
「いいえ、人間ですよ」
私は柱から体を引き抜きつつ、腹話術で答えた。