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私、これからやっていけますかねお嬢様?

ああ、全く私の事情を考慮していない、なんと清々しい青空なんでしょう。見上げて心も晴れやかに全然なりません。お嬢様に手を出して解雇されたせいで、再就職先がゼロです。無です。いっそ負です。

どうしてですか旦那様、合意ですよ。もはやお嬢様の方が乗り気だったんですよ。


「そんなことを考えながらICカードを改札にピッとタッチしたところ、眩い光に包まれた所までは覚えておりますよ」


執事奥義・とても礼儀正しい立ち姿で、目の前の玉座にふんぞり返って座る少女に事情を説明する。禍々しい雰囲気の空間や逞しすぎる周りの一員のせいで、角のついた少女はより一層少女らしくなっている。


「光に包まれたと言っていますし、この貧弱そうなのが本当に魔族の救世主なのではないでしょうか、魔王様」


バキバキ男1号に声をかけられた「魔王様」、玉座に座る少女は、ふむ、と可愛らしい声で返事をした。


「だがこやつ、人間だぞ」


バキバキ2号が声を上げると、私を囲む屈強な男たちが盛り上がり出した。その男たちを見ても、皮膚、髪共に紫や青でカラフルなところを見ると、私はそういうあれになってしまったらしい。


「黙れ」


魔王様の一声で、どす黒い歓声がピタリと止む。コツコツとブーツを鳴らして階段から降りてきた魔王様は身長が低いので、膝をついて目線を合わせる。


世蓮(せはす) シアン、貴様は人間を恨んでいるか?」


魔王様と呼ばれる者からの質問だ。魔族の救世主として呼ばれたらしいので、ここですべき返答は1つ。


「もちろんでございます、めちゃくちゃに恨んでおります!」

「採用!」


こうして、私の魔族救世主ライフが始まった。再就職先が決まってとってもラッキーですね、私!


……と思っていたのも束の間、食事の時点で直ぐに考えを改めた。スープは紫、謎の虫、緑のステーキ。明らかに人間の食物じゃないぜ……。味は美味しいかもしれない、と思って口に入れたそれは、金持ちに付き従っていた私の舌には耐え難い味だった。一文無しライフとどちらがいいかと尋ねられれば、恐らく一文無しライフだったろうと思う。


「どうした、食べないのか?」


横では、小さな美少女が不相応な大きな椅子に座ってもぐもぐと鮮やかな食事を口に運んでいる。口の周りにはつき放題だし、ナイフもフォークも子供の握り方だし、足を思い切り振っている魔王様に、私の精神はボロボロのボコボコのベコベコになっている。

ああ、狂人ながらもマナーのしっかりした淑女のお嬢様、私、ここで生きていけるでしょうか……。


キッチンで見慣れた野菜を探し出し、自分で調理して食べる。横では、赤黒い粘度高めのスープがゴポゴポ音を立てながら煮え立っていた。


「お前、そんな栄養のねぇもんで大丈夫かぁ?」


頭にコック帽を載せた気のいい恐竜が、鍋をかき混ぜながらこちらを心配している。


「平気も平気、救世主にはこれが平常でございます」

「そういうもんかぁ。やっぱ一味ちげぇなぁ」


後ろで爆発音がした。何が爆発したのかは、確認するのをやめておいた。


「上手くできたぁ」


爆発音のした方向からそんな声が聞こえて何が上手くいったのか気になったが、持ち前の自制心で振り返らなかった。

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