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境界線の先のパンドラ  作者: 琉生
3/77

第2話★




「どこだよ」


 思い当たる場所は全て探したが、見つからず落胆する。牧瀬に泣き叫ばれる嫌な想像ばかり浮かぶ。諦めかけた時、一人の女子生徒が階段を駆け上がって来た。


「あったあった!」

「本当?良かったね」


 踊り場で待ち合わせしていたのか、もう一人の女子生徒が手を叩く。


「どこにあったの?」

「落し物ケース」

「職員室の前の?」

「そう!誰かが届けてくれてたみたい!」


 聞こえた会話に胸を踊らせ、職員室へと走り出した。職員室の入り口の近くに、手作りの看板に「落し物はこちらへ」と書いてある透明な棚があったような、と向かう途中で思い出す。

 職員室の近くまで来ると、棚の前に男子生徒が立っているのが見えた。結構利用者が多いんだな、と思いつつ棚を上から下まで一通り見る。しかし、落とし主が見つかりそうにない鉛筆の大群や消しゴム、名前のないノートや教科書、見たことがないキャラクターのキーホルダー、「佐藤」さんの体操着が置いてあり、お目当のキーホルダーは見当たらなかった。

 

 期待していただけに、落胆の気持ちが大きい。通学路まで範囲を広げて探すしかないと、肩を落としながら教室に帰ろうとすると、先に落し物ケースを見ていた男子生徒と体がぶつかる。


「すいません」


 振り返り謝ると、その男子生徒の手に探し求めていたキーホルダーが握られていた。


「あっ、それ俺の」


 反射で声を出すと、男子生徒は顔を上げる。目が合った瞬間、硬直する。

 

 透き通るような白い肌に、口紅を塗っているかのような赤い唇、スッと伸びた鼻、整った眉毛、切れ長で黒い瞳には真っ黒な前髪が少しかかっている。

 

 時が止まった気がした。話しかけられるまで、ただただ無言で見つめ続けていた。


「どうぞ」


 キーホルダーを差し出され、かろうじて出した手のひらにキーホルダーの重さを感じる。顔から目が離せない。男子生徒は横を通り過ぎて行き、ただ去っていく背中を見つめることしかできなかった。

 

 映画のヒロインが敵に襲われそうになっている時に、逃げないでただ見つめるシーンを思い出す。すぐに動きたいのに動けない。もどかしいと思っていたシーンと自分が重なり、自己嫌悪に浸る。

 

 名前も学年も分からない、ただ彼の顔だけが洗脳されたように頭の中をめぐる。予鈴の音が響き渡るのを聞きながら、自己嫌悪よりも、感じたことのない高揚感が自分の中に生まれ始めたことに、自然と笑みがこぼれていた。 




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