第2話★
「どこだよ」
思い当たる場所は全て探したが、見つからず落胆する。牧瀬に泣き叫ばれる嫌な想像ばかり浮かぶ。諦めかけた時、一人の女子生徒が階段を駆け上がって来た。
「あったあった!」
「本当?良かったね」
踊り場で待ち合わせしていたのか、もう一人の女子生徒が手を叩く。
「どこにあったの?」
「落し物ケース」
「職員室の前の?」
「そう!誰かが届けてくれてたみたい!」
聞こえた会話に胸を踊らせ、職員室へと走り出した。職員室の入り口の近くに、手作りの看板に「落し物はこちらへ」と書いてある透明な棚があったような、と向かう途中で思い出す。
職員室の近くまで来ると、棚の前に男子生徒が立っているのが見えた。結構利用者が多いんだな、と思いつつ棚を上から下まで一通り見る。しかし、落とし主が見つかりそうにない鉛筆の大群や消しゴム、名前のないノートや教科書、見たことがないキャラクターのキーホルダー、「佐藤」さんの体操着が置いてあり、お目当のキーホルダーは見当たらなかった。
期待していただけに、落胆の気持ちが大きい。通学路まで範囲を広げて探すしかないと、肩を落としながら教室に帰ろうとすると、先に落し物ケースを見ていた男子生徒と体がぶつかる。
「すいません」
振り返り謝ると、その男子生徒の手に探し求めていたキーホルダーが握られていた。
「あっ、それ俺の」
反射で声を出すと、男子生徒は顔を上げる。目が合った瞬間、硬直する。
透き通るような白い肌に、口紅を塗っているかのような赤い唇、スッと伸びた鼻、整った眉毛、切れ長で黒い瞳には真っ黒な前髪が少しかかっている。
時が止まった気がした。話しかけられるまで、ただただ無言で見つめ続けていた。
「どうぞ」
キーホルダーを差し出され、かろうじて出した手のひらにキーホルダーの重さを感じる。顔から目が離せない。男子生徒は横を通り過ぎて行き、ただ去っていく背中を見つめることしかできなかった。
映画のヒロインが敵に襲われそうになっている時に、逃げないでただ見つめるシーンを思い出す。すぐに動きたいのに動けない。もどかしいと思っていたシーンと自分が重なり、自己嫌悪に浸る。
名前も学年も分からない、ただ彼の顔だけが洗脳されたように頭の中をめぐる。予鈴の音が響き渡るのを聞きながら、自己嫌悪よりも、感じたことのない高揚感が自分の中に生まれ始めたことに、自然と笑みがこぼれていた。