第三夜 嵐の前の…?
朝起きたらブックマーク数が増えていて驚きました。
皆様本当にありがとうございます!
えぇ…。ここで逆ギレとは…。ゼルくんの様子を見るにお馬鹿さん達には伝えていたようだし、覚えていなかったお馬鹿さん達が悪いんじゃないかしら…。
「殿下、俺はお伝えしましたよ!義姉様…東宮殿下とその伴侶が国賓として殿下の立太子の儀の為参じられると…」
「き、聞いてない!!俺は聞いていないぞっ!」
ゼルくんが訴えるように王子に言うけれど、王子は聞いていないを連呼するだけ。
この期に及んでまだ喚き立てるだなんて…。これは確実に立太子の儀は中止ね…。こちらに来たのは時間の無駄だったかもしれないわ。
「その国賓を前にして切り替えができない者など、王太子はおろか王族としての自覚も薄いようですわね…。宜しくて?婚約破棄の件ですが、まぁ百歩譲って婚約解消するのは良しと致しましょう。ですが、このような祝福の場で醜聞を作るなど、恥を知られては如何か!このような者にアリアさんが嫁ぐ羽目にならなくて良かったわ…」
「お義姉様…!有難うございますッ!わたくし、怖くて…」
そう言って抱き着いてくるアリアちゃんを抱き止める。すると…。
「何…でよっ!あんたの、あんたの所為なのねっ!?いつからだかストーリーがおかしくなったのよ。ここはあたしの為の世界よっ!?どうして、どうしてなのっ!!あんた達が、悪役やモブが何で幸せそうなの!?」
突然に猫を被っていたシャロル嬢が小声で喚き立て始める。
その様子に玲様は眉を顰め、リオリア嬢並びに可愛い義弟義妹がすっと表情を無くした。
「其方…何を言っている?我が妻は世界でも一目置かれる大国の東宮だぞ?その様な発言、男爵令嬢如きが不敬と心得よ!」
「なぁっ!そんな言い方をせずとも良いだろうアシュレイっ!」
あら、いつの間にやら…宰相令息殿が玲様に喰って掛かっていた。玲様もわたくしの伴侶なのだから、玲様ご自身の言葉が当てはまるのだけれど…、まさか、失念しているのかしら…。
「黙れルードヴィク。私とて日嗣の御子の伴侶だ。それ以上は不敬と見做すぞ」
「…!? ぐぅっ…!」
顔を顰める宰相令息殿。そういえばルードヴィクと仰るのねぇ。
「ねぇ、シャロル嬢。わたくしね、貴女の仰ることの半分もよく分からないのだけれど…、わたくし達を軽んじているというのは分かりましたわ。故に…、『聖火の神罰』に処させて頂いても宜しゅうございますわね?―――エフェリス国王」
「あぁ、輝夜殿下、愚息が失礼した。これに我が国を継がせる価値はあるまい」
後ろを振り向いて見せると、そこには顔を歪めて己の子供を睨みつけているこの国の国王が。護衛をその場に置き、足音も荒くこちらへやって来た。その様子に気付いたお馬鹿さんが、慌てて取り繕う。声がひっくり返りかけているのは無様ですけれど。
「父上ぇ!?ど、どうしてこのような矮小なパーティーにっ」
「矮小、な。その未来ある令嬢令息の晴れ舞台を醜聞で汚したのはどこの誰だ?そなたが王太子位に上る事など、金輪際ない!輝夜殿、愚息の王子位並びに継承権剥奪及びそこの不届き者三人の相続、継承権剥奪、うち二人に関しては敬杯を賜らせることで手を打ってはくれまいか?」
恥も外聞もかなぐり捨て、頭を下げる陛下にお馬鹿さんが声を上げかけ、近衛に取り押さえられた。当然の処置ね。小国の王族が、大国の王族、それも東宮位にある人間を侮辱した、それだけでも醜聞ものですのに、無礼を働いてもなお態度を改めない。取り押さえられて当然というべきだわ。
「な、にを゛…!」
「お黙り下さい兄上。失望致しましたよ」
振り払おうとした時、まだ幼さを残した声が響いた。そちらを振り返ると、国王によく似た面差しの、幼さの残る少年が顔を苦渋に歪めていた。
「お前、はっ…!」
絞り出すように呟く兄の声に眉を顰め、けれどそれを気取られる事なくその少年はわたくし達に向き直った。そして国王と同じ見事な暗い金糸に空のように澄んだ瞳の持ち主は、最上級の礼をとった。あら、兄君よりもおできになるのね…。よっぽど彼の方が、血筋的にも王に相応しいのではないかしら?
「輝夜殿下、玲殿下、我が兄の暴挙、償いきれぬ事とは存じますが、一旦矛をお収めくださいませんか?僕はアビゲル・リ・エフェリス、ご存じと思いますが、この国の第二王子です。この度は愚兄がご迷惑をお掛け致しました」
「わたくしは月天宮 輝夜と申します。分かりました、国王と王子の顔に免じてこの場は抑えましょう。別室で詳しいお話をさせて頂いても宜しいのかしら?」
「はい。皆、皆の晴れ舞台をこのような醜聞で汚してしまい申し訳なく思う。どうかこの場で見聞きした事、内密に頼みたい。この後は自由にしてくれ」
話の通じる方で良かったわ…。さぁ、ここからが本番、ですものね?わたくしとわたくしの家族を侮辱した罪、きっちりと、償って頂きましょう?
わたくしは扇の裏で怒りと激情を抑え込むように、笑みを作った。