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第三話

「いやぁ、助かりました。十一時間もずっと漕いでたんですけど、見つけたのは毛の生えたアザラシだけだったので、すごく不安になってたんですよ」

「十一時間もずっと漕ぎ続けてた? 君ー、嘘はだめだですよー。休みもなしに十時間以上なんて」

「あははははー、やっぱりそういう反応になりますよねー」

「やっぱり嘘ついてたんですねー、お姉さんをからかっちゃだめなんですよー」


 ようやく出会えたセンリ以外の人。

 その中には、二足歩行の猫も含まれているが、ここは異世界だ。そういう生物だって居てもおかしくはないと海兎は、あまり驚かなかった。


「それで、君達はどういった経緯でこの辺りを小船で?」

「……私は、乗っていた船が何者かに襲われたんです。それで、生き残ったのは私だけ……」

「それは、失礼なことを聞いてしまった。すまないお嬢さん」


 紳士的に謝罪する喋る猫アルヴィスに、センリは首を横に振る。


「いいんです。確かに、今でも忘れられないことですけど。私が、私自身で決めて話したんですから」

「心が強い子だ」

「そんなこと、ないです。一度は壊れちゃいましたから……」


 静かに答えると、海兎を見詰める。それに気づいた海兎は、首を傾げる。


「どうした?」

「な、なんでもない! こっち見るな! 変態!!」

「えぇー……」


 見たのはそっちのほうだろと言いたいところだが、あえて口にしないことにした。そんなやりとりをしているとエスティーネが顔を覗いてくる。


「あれあれぇ? なにかあったんですかー?」

「特に何も」


 言ってしまえば、それだけ粘り強く聞いてくるに違いない。彼女とは出会ったばかりだが、そういう性格をしていると直感した。

 

「それで、だ。君達に聞きたいことがあるのだが」

「なんですか?」


 貰った温かい飲み物を手に、自分が答えられることならなんでも答えようと身構える。


「実は、我々は傭兵をしているのだが。その仕事でこれからこの先の調査をすることになっていたんだ」

「調査、ですか」

「うむ。その調査内容とは、この西の海一帯を縄張りとしている海の化け物……デビルクラーケンの生死の確認だ」


 内容を聞いた刹那。

 二人は、身を強張らせる。


「たいちょー、仕事内容を簡単に話しちゃっていいんですかー?」


 確かにそうだが、出会って間もない、それも普通の少年少女に。


「良いのだよ。私の考えが正しければ、彼らは何かを知っている。そうだろ?」

「……海兎」


 これは逃げられない。観念したほうがいいだろう。


「はい。アルヴィスさんの言う通り、デビルクラーケンについて知ってます」

「やはり」

「マジですか? 少年! 全部吐いちゃいなさい!」

「……なんていうか、信じてもらえるかわからないんですけど。俺、そのデビルクラーケンと戦って倒したんです」

「ほうほう」

「本当ですか?」


 やはり簡単には信じてもらえないだろう。そこで、海兎は小船に乗せてきたデビルクラーケンの切り身を取り出した。一見すれば、ただのイカの切り身に見えるだろう。

 小船に乗せれる程度しか持ってきていないため、小さいものしか無理だったのだ。


「これがデビルクラーケンの切り身です」

「食べるつもり、だったのかな?」

「そこのお嬢様が、生きていくため必要だって言うもんで。確かにそうだと思うんですが、さすがに魔物の実はどうなんだろうって、俺は疑問に思いましたが」

「なによ、私が野蛮人だって言いたいの?」


 睨まれたので、苦笑いしつつ視線を逸らす。


「まあ、魔物によっては食べられるようなものもあるから間違った選択ではないだろうが……こうして見ると、普通においしそうだ。焼きイカにするべきかな?」

「基本魔物は生で食べるのは危険ですからね。食べてみますか?」

「え? マジで食べるんですか?」


 もし持ってきたまともな食料がなくなった時は、腹を決めて食べようとは思ってはいたが。彼らには、まったくの迷いがない。口ぶりから察するに、魔物の肉などを食べなれているのだろう。さすがは、この世界で傭兵として生きているだけのことはある。


「いや、今は食べない。空腹ではないからね。それよりも今は、君のことだ」

「……」


 まるで、獲物を観察する獣のように睨みつけられる。だが、不思議とそこまで怖いとは感じない。これも最初にデビルクラーケンと遭遇し、倒した経験がなせるものだと言うのか……。

 

「どうだろう? 取引をしないか?」

「取引、ですか」

「ああ。私達は、これからデビルクラーケンの下へと赴くことになっている。そこで、そこから来た君達に案内をしてほしい。その見返りに、私達は君達の安全と島へ送ることを約束しよう」


 案内するだけで、それだけの見返りがくるのであれば二人としては大助かりだ。ただ、もう一度あの場所へ行くともなれば覚悟が居る。

 あそこからは、逃げるように離れてきたと言ってもいい。特に、センリにとってあの場所は嫌な思い出しかない。ちらっと、彼女の様子を伺う。


「私はいいわ。案内だけで、島まで送ってくれるなら」

「いいのか?」

「良いって言ってるでしょ。二度も同じこと言わせないで」


 何事もない対応だ。しかし、内心ではまだあの船での出来事を忘れられないでいるに違いない。その証拠に、コップを持っている手が震えていた。

 それは、アルヴィスやエスティーネも見破っている。


「センリくん。君は、ここでエスティと共に残っていても構わない。無理についてくる必要はない」

「……ありがとうございます。ですが、ついていきます。じゃないと、いつまでも前に進めないですから」

「そうか。では、海兎くん。君は、どうかな?」

「まあ、センリがいいなら俺はいいですよ。オールで漕いで十時間はかかりましたから、この船だとその半分ぐらいですかね?」


 アルヴィス達が乗ってきた船には、ちゃんと帆がついている。風の強さから考えるとそれぐらいはかかるだろう。


「心配いらない。五時間もかからないさ。エスティ」

「はいさー」


 アルヴィスの言葉に、エスティーネが船の後方へと駆けていく。なんだろう? と覗くけば、そこにあったのは四角い鉄の塊。

 しかし、その背後に筒状のものがついていた。


「あれって……」

「それじゃ、魔力を注ぎますねぇ」


 鉄の塊にはめ込まれている宝石に魔力を注ぎ込むと。


「君達は見るのは初めてかな? これは、魔力エンジンと言って魔力をこの魔石に注ぎ込むことで動くものだ。魔力が残っている限り、噴出は続く。まだ小型のものしかないがね」

「えっと、それも異界人の」

「ああ。本当に異界人は、我々に貴重な知識と技術を与えてくれる。素晴らしい存在だ」


 激しいエンジン音を響かせ、筒状のものから出るのはエスティーネが注入した魔力だろう。


「では、行きますよー。めちゃくちゃ加速しますので、お気をつけをー」

「は、はい!」

「エンジンつきの船は初めてかも! ちょっとわくわくしてきたわ!」


 どこかテンションが高いセンリ。そんなに嬉しいものだろうか? 海兎もエンジンつきの船に乗るのは初めてだが、海兎からすればエンジンつきの船が当たり前のような世界、時代だったためそこまでテンションが上がらない。

 それよりも、魔力で動くエンジン。そのためどれぐらいの加速が起こるのか不明なため不安のほうが大きい。そのため、がっちりと船にしがみ付いている。


「さあ、行こうか。デビルクラーケンのところへ!!」

「しゅつじーん!」


 刹那。

 波に漂っていた船が、加速する。


「うおおおお!?」

「す、すっごい!! なんて加速!! 気持ちいいわねぇ!!」


 予想通り、とんでもない加速。それによりしっかり捕まっていても体が後ろへと持っていかれそうになった。


「にゃははは! 相変わらず、エスティは魔力コントロールが下手だね」

「いやー、多いほうが早いので。次は、気をつけまーす」


 どうやら、この加速はエスティーネのせいだったようだ。これならば確かに五時間もかからないだろう。

 だが、ここで気になることがひとつ。


「これ! 止まる時はどうするんですかぁ!?」


 これほどの加速だ。見たところ、魔力エンジンは魔力を込める魔石と噴出口があるだけ。


「心配いらないですよー。止まる時は、魔石を外せばいいだけなのでー」

「な、なるほど!」

「でも、止まると同時に反動で海に放り出されることがあったりなかったりー」

「あ、そうっすか」


 この世界にあわせて作ったのだろうが、まだまだ改良の余地はありのようだ。

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