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プロローグ

「なあ、こいつって食えるのか?」

「さあ? でも、船に残っていた食料だけじゃ足りないと思うから。念のためよ」


 異世界に来た海兎は、到着早々精神不安定の少女センリと衝撃の出会いをし、海の化け物デビルクラーケンをどういうわけか撃退してしまった。

 衝撃的な初日だった。

 それから数時間が経ち、大分太陽が沈んでいる。大船に残っていた少ない食料を小船に乗せれるだけ乗せたのだが、それでも足りないかもと出発するためにデビルクラーケンを切り取り食料として乗せている。しかしながら、数時間前まで戦っていた化け物だ。

 選りすぐりしている場合ではないと言えばそうなのだが、やはり抵抗はある。


「……」

「どうかしたか?」


 最初は二人で漕いでいたが、今は海兎一人で漕いでいる。彼女の細腕では、数時間も漕ぐことはできない。海兎も海兎でもう腕がパンパンになって休憩している頃なのだが、そんな様子もなく今でもすいすい漕いでいる。これも、異世界に来た影響か? 

 そんな中、センリが周囲を見渡しているのに気づく。


「普通なら、海の魔物の一匹や二匹が襲ってきてもいいはずなんだけど」

「偶然、魔物がいないところを進んでいるってだけじゃないか?」

「……もしかしたら、あなたが居るからかしら」

「俺が?」

「たぶんだけど、デビルクラーケンを倒したことでその強さが周囲の魔物達に知れ渡って、魔物のほうから避けている、とか」


 確かに、その可能性はなくもないだろう。相手は、海の化け物だ。そいつを倒したともなれば、そいつよりも格上。下手に近づかないのが吉というものだが。


「そういうのってやっぱりオーラとか雰囲気とかでわかるものなのか? 俺自身、何かこうそういうものを感じたりはしないんだけど」


 大船にいた時に、海が透明になったかのようになった現象。今では、そんなものは一切起こらず。海面を見詰めても綺麗な青い海が見えるだけ。

 海の中に何が居るのかが見えない。デビルクラーケンを倒したと同時になくなってしまったのだろうか。


「私も何も感じないわ。でもまあ、あなたのおかげで……」

「ん? どうした?」


 先ほどまで悠々と離していたセンリが、突然静かになってしまう。海兎も船を漕ぐのを止めて、俯いているセンリの顔を覗く。


「いっえーい!!! 久しぶりに登場だぜー!!」

「うおっ!? え? え? センリ、なのか?」


 急に黙ったと思った今度は急に明るく叫び出す。しかし、いつものセンリではないのは明白だ。大分きゃぴるんな雰囲気だ。


「やー! やー!! 驚いてるねー! 唖然してるねー! そういう反応、僕は大好きだぜー!! あっ」

「ちょっ!?」


 狭い小船で活発に動いたせいで、案の定バランスを崩し海に落ちてしまう。急いで、手を貸して引き上げると笑顔で飛びついてきた。


「ありがとー!! 助かったよー!!」

「な、なんなんだお前?」

「僕? 僕はねー……あ、残念だけど名前ないんだ僕ってば。僕は、センリの体に入っているある力の意識。その力っていうのはね、この子が狙われた理由でもあるんだー」


 先ほど海に落ちたのにもかかわらず、また船でくるっと踊りながら語る名もなき存在。だが、彼女の口から出てきた情報はかなり重要なことだ。

 海兎は、呆気に取られていた表情を引き締め問いかける。


「その力ってのは?」

「……これだよ」


 踊るのを止め、手をかざす。

 すると、海兎と少女の間の上に巨大な地図が現れる。しかも、SFチックな映像っぽいものだ。


「この世界の地図か?」

「そうそう。しかもね、これは世界に一枚しかない地図。この世界には、まだまだ未知の島や未知の宝が眠っている。もちろん地図にない島もね……これはそれを表示するもの。【千里眼の地図】って呼ばれてるんだ、これ」


 理解した。どうして、あの大船がセンリが狙われたのか。彼女自身もどうしてああなったのかがわかっていなかった様子だったが。


「センリは、お前のこと。その力のことは」

「もち、知らないよ。まあただ彼女の親とそれを護衛する者達は当然知ってたみたいだけどー。ちなみにね、こことここはねなーにもない無人島なんだけど」


 頭上にある地図を自在に拡大し、二つの無人島の全体を露にし、説明を始める。


「僕のすごいところは、島に入らなくてもその全体図を知ることができるってところなんだよねぇ。しかも、本気を出せばその島に居る生物全ての数も表示しちゃったりー! つ・ま・り! こんなすごい力を悪人どもが手に入れちゃったらどうなるか、わかるかな? お兄さん」

「誰も手に入れていない宝も取り放題なうえに、襲撃し放題ってことか」


 思った以上にとんでもない力を持っていたようだ。これならば、彼女が狙われるのも頷ける。


「いえーす!! 本当だったら、僕だって自由に動きたいんだけどさー。そうもいかないんだよねぇ。大分前に肉体を失っちゃった僕は、友人の助けもあって精神とこの力だけは守ったんだけど。何の罪も無い子達の中に入ることになっちゃってさ」


 先ほどまで天真爛漫に話していた名もなき少女は、突然顔に陰が。


「それって、センリ以外の体にも入ったことがあったってことか?」

「そだよ。今入っているこの子は、十五人目になるかな」


 しかし、すぐ影は消えて笑顔で海兎の問いに答える。


(どうしてそんなに体を、なんて聞けるわけないか)


 予想はつくし、あまり聞いてはならないようなことだ。普通ならば、答えてはくれないようなことだ。


「どったの?」

「あ、うん。なんでもない。ところださ、今更だけど名前がないっておかしいなって思うんだが」


 もし力として生まれてきたのであれば可能性はあることだが、彼女に関しては生前人として生きていたということだ。ならば、人として生きていた時の名前があるはず。

 まさか、記憶喪失? 


「そこに気づくとは、冴えてる!」

「別に冴えていないと思うんだが……」

「実はさー、あったよ名前。でも、こうして他の子達の体に寄生して、離れて、寄生してを繰り返していくうちに昔の記憶が徐々に失っていっちゃったわけなのさ!! なので、名前という大事なものが欠落しているのだよ!! お兄さん!!」


 その割にはあまり気にしていない様子。空元気か? それとも本当に気にしていないのか……どちらにしろ、名前がないというのは不便だ。


「あっ、そろそろ僕は退散しないと。あまり表に出てると、この子にも失礼だからねー。そんじゃ! また出てきた時はお話しようぜ! お兄さん!! さらばじゃ!!」


 まるで、嵐のように出てきて去っていこうとする名を忘れた少女。


「ま、待った!! えーっと……ち、地図子!!」

「ほえ? 地図子? それって、僕の名前?」


 正直ないだろうと思う名前だ。地図を出せる力を持っているからと言って、安易過ぎる。名前というよりもむしろこれは愛称のようなものだ。海兎は昔から、ネーミングセンスがないと周りから言われていたが、ここまでくるとセンスがないにもほどがあると自分自身頭を抱える。

 だが、少女はどこか嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「いいじゃん! 地図子! それ、いただき!!」

「マジで言ってるのか? 俺が言うのもなんだが、これは名前というよりも愛称っていうか。安直過ぎるうえに、地味じゃ」

「ノン! ノン!! そんなことないよ、お兄さん。名前を忘れてからというもの僕自身も自分で名前を考えていたけど、どうせ誰とも話すことなんてできないからいいかなーって思ってやめちゃったんだよね。だけど、十五人目となるこの子との相性がかなりマッチングしているためか、こうして表に出ることが可能になった!! だから、名前がないと不便だなーってさっき思っていたわけなのだよ」


 そこへ海兎が安直ではあるが、名前をつけてくれた。それが嬉しかった? だから、その名前でこれからは貫いていくというのか? 

 

「というわけで、今日から僕は地図子! よろしくねー!! 名づけ親くん!!」

「誰が親だ」


 よほど嬉しかったのか。最初に出てきた時よりも眩いほどの笑顔でセンリの体内へと戻っていく地図子。立ったまま意識がなくなったことで、また海に落ちそうになるも海兎がそれを受け止める。


「おい、センリ?」

「……あれ? 私どうして」


 どうやら本当にセンリのようだ。雰囲気もがらっと変わってしまっているが、この体は元々センリのもの。同じ体でも性格が違うとここまで違和感があるとは。


「疲れてたんだろ。とりあえず、ほら。持ってきた枕だ。しばらく休んでろ」

「そう、ね。そう、させて、もらうわ……おやすみ」

「おう。何かあったら俺が起こす。それまでゆっくりな」

「変なこと、しないでよ」


 そう一言注意し、再びセンリは目を閉じる。まだ体の疲労が回復しきっていないのか、一瞬にしてぐっすりだ。それを見届けた海兎は、オールを手に持ち静かに漕いだ。

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