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第四話

「センリよ」

「え?」

「だ、だから! 私の名前! センリ! センリ・バティーネ!!」

「お、おう」


 海から現れた化け物デビルクラーケンを倒してから、一時間半は経っただろうか。謎の疲労感に襲われ、船の甲板に辿り着いたと同時に倒れた海兎にどういう吹き回しか、最初は拒否していたのに突然名を明かした少女改めセンリ・バティーネ。

 おそらくデビルクラーケンを倒したことで、自分は助けられた。

 少なくとも海兎に敵意はないと理解してくれたのだ。ほっとする海兎であったが、正直体の疲労感が大きく単調な反応しかできない。


「……そのまま聞いてて」


 海兎の状態を理解したセンリは、隣に座り込み静かに語り出した。


「今までは、あなたの存在が謎過ぎてかなり警戒していたの。あなたと出会う前に、死にたくなるようなことがあったから……」

「……」


 本当は話したくは無いはずだ。

 少し落ち着いてきたとはいえ、話している表情はとても暗い。それなのに、話してくれるのは海兎が頼りになる存在だと認識したからだろう。


(まあ、あの化け物を倒したからなぁ……敵に回したくないって思っているのかもだけど)

「あなたが私のことを助けてくれたのは理解していたんだけど、それでも頭が混乱しててあなたを遠ざけてた」

「……ああ」

「そ、それに……」


 顔を赤くして、両足を抱えるセンリ。おそらくキスをされたことを思い出したのだろう。


「なんでもない! ……ねえ、これからあなたはどうするの? さっき見てたけど、あなた海を歩けるのよね」

「まあ、うん。俺もどういう原理なのかわからないんだけど」


 海を歩けるのならば、船を漕ぐよりも早く移動できるかもしれない。今乗っている大船は、長くもたないだろう。こうして、のん気に話している間にも刻々と壊れているはずだ。早いところ船から離れなければ共に海の藻屑となってしまう。


「とりあえずは、人の居る島にでも行きたいかな。色々と情報収集をしたいし」

「そ、そう……」


 てっきり私もついていくわ! と言ってくると身構えていたのだが、現実は中々そっけないものだった。もう警戒心は大分解けたはずだが……恥ずかしがっているのだろうか? そう思った海兎は機転を利かせて提案を切り出す。


「なあ、お前も一緒にどうだ? お前もここにいつまでも居るわけにはいかないだろ? それに、お前が居ると色々と助かるっていうかさ」

「どういう意味よ……」


 色々という言葉に怪しまれてしまったようだ。

 これは隠すようなことはしないほうがいいだろう。


「……実はさ。俺、別世界から来た人間かもしれないんだ」

「別世界? あなた、もしかして異界人なんだ、ふーん」

「なんか反応が薄いな」

「まあ、珍しくもないからね。異界人は召喚生物の中でも下位な存在だから。今までの歴史の中でも、異界人が強いなんて記録は数えるほどしかないわ。大体が、召喚されたけどこの世界の環境や魔物との戦いなんかに耐えられず死んでしまう人達が多いの。でも、異界人は下位な存在とはいえ、世界に影響を与えたもっとも重要な存在とも言えるけど。彼らのおかげで、色々と便利になったからね。例えば、電話とか」


 この尾世界にはない現代の知識で大活躍。

 そんな話は、海兎が読んでいたネット小説などでは定番のことだったが、実際にも世界に影響を与えていた言うことか。


「つまり、言い方はちょっとあれだけど。簡単に召喚できる知識本ってところかしら。あ、私は別にそうは思ってないからね? あくまでも一般的な認識だから。……それに、あなたはかなり違うわね。だって、デビルクラーケンを一撃で倒しちゃうんだから。もしかしたら、歴史の中にある力のある選ばれし異界人、なのかもね」

「選ばれしかぁ……」


 話に寄れば、この世界には海兎と同じ異界人なる存在が多く居るようだ。


「でも、異界人なら召喚師が居るはずなんだけど……あなた、召喚師は?」

「いないけど?」


 海兎は、こっちに来るまでの経緯を話した。地球という世界で、妹の麦藁帽子を取りに行き、その帰りに海に突然沈んでしまい気づけばこっちの世界に召喚されていた。

 いや、居た? そもそも召喚されたのかどうかもわからない。センリの話によれば、異界人は召喚師に召喚されるのが一般常識のようだ。だが、海兎の傍には召喚師なる者はどこにもいなかった。


「もしかして、あいつらの仲間が召喚してそのまま放置したのかしら」

「さあな。……って、あ! そ、そういえば帽子!!」


 海に沈んだ時に、亜美の麦藁帽子を首にかけていた。それなのに、気づけばなくなっていた。自分がこっちに来ているのであれば、麦藁帽子も一緒に来ているはずだ。

 ここを出る前に見つけて回収しておかなければど、勢いよく起き上がったが。


「あふっ……」


 まだ疲労が抜けていないようで、起き上がってすぐ倒れこんでしまう。


「麦藁帽子ぐらい私が探してきてあげるわよ。あなたは、そこで休んでなさい」

「た、頼んだ……」



・・・・・・



「よかったぁ!! 無くしたなんてしゃれにならないからな! サンキューな! センリ!!」

「べ、別にいいわよ。大したことじゃないし……だ、だから手、離しなさいよ。いつまで握ってるの」

「っと、わりぃわりぃ! でも、本当によかった。これで、亜美に怒られずに済む」


 あれから、十分ほどで大分動けるようになった海兎。その間に、センリが麦藁帽子を見つけてきてくれたようだ。自分とは違うところに召喚されていなくてほっと胸を撫で下ろすも、ゆっくりしている場合ではない。

 回復する間にも、船は大分崩れてしまった。元が大きいため、すぐに全壊することはなかったが、これ以上長く居ることは無理だろう。


「それじゃ、さっきの話の続きだけど。一緒に来るか? センリ」


 と、手を差し出す海兎。センリは、一度咳払いをしてゆっくりと海兎の手を握った。


「し、仕方ないから一緒について行ってあげるわ。一人でここに居るのも、退屈だしね」

「決まりだな。じゃあ、俺がお前を背負って一気に海を駆け抜けるってことで。船を二人で漕ぐよりは早いだろうからな」

「ええ、それでいいわ。しっかり運びなさいよ? 異界人さん」

「おうよ! あ、それとほい」


 出発する前に、麦藁帽子をセンリに被らせる。そんな海兎の行動に首をかしげるセンリ。


「しばらく預かっててくれ」

「……はいはい」


 しっかり麦藁帽子のゴムを顎の部分にかけ深々と被り、センリは海兎の背に身を預けた。


「へ、変なこと考えるんじゃないわよ!」

「え? 変なことって? ……あぁ、背中におっぱ」

「言うな!」

「あでっ!?」


 海兎もそこまで鈍くは無い。あえて何も言わなかったが、センリとの会話の流れ的につい口走ってしまった。

 女の子を背負うことは、久しぶりだ。亜美は早々に兄離れをしたせいでおんぶすらもできなくなったのだ。それに加えて、センリはそこまで大きくないにしろ女の子としてのふくらみはある。背負えば、背中に胸が当たるのは必然。それについて考えるなというのは、難しいことだろう。


(まあでも、柔らか素材のリュックを背負っているって考えれば多少は……うし!)


 いまだにデビルクラーケンが海面に浮かんでいる。その横に下りようとしばらく見詰め、意を決し飛び込んだ。


「しゃあ! 海の散歩の始まりだ!!」


 海を駆けるなどやろうと思ってもやれないことだ。できるならば、思いっきり楽しむべきだ。

 あの時の感触を思い出し、再び海面に着地を。


 ざぱーん!!


 できなかった。


「……あれー?」


 ずぶ濡れになった海兎は、思っていたのと違うことに首を傾げる。


「ちょっと、冷たいじゃない。ふざけてるなの?」


 背負っていたセンリも当然一緒にずぶ濡れになったわけで、かなり不機嫌そうだ。その証拠に、首を絞めようと腕を回していた。


「ま、待て!! これはあれだ! ちょっと失敗しただけだって!! こ、今度こそ!!」


 それから何度も海面に立とうとするも、全然うまくいかない。その後ろで刻々と大船は崩れていっているが、そんなこと気にせずに何度も何度も……結果。


「まったくもう! 期待した私が馬鹿だったわ!!」

「面目ない……」


 二人で小船を漕ぐことになった。

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