第二話
今回は久しぶりということもあり、リハビリも兼ねてそこまで長くはならないと思います。
よろしくお願いします。
少女を静かになったところで、海兎は状況整理をしつつ自分が乗っている大きな船を軽く探索した。全てが木材で作られており、現代の船からは考えられない。まるで、過去から飛び出してきたかのような船だ。大きさから、現代でいう貨物船のようなものだろう。船の中には、荷物を多く詰めるほどの空間が多く存在していた。
しかし、その部屋の中には荷物はひとつもなく空だった。少女の言葉かと船の現状を考えるに、何者かに全てを奪われたのだろう。
「にしても、なんで俺は船に乗ってんだろうな……」
一通り探索し終わった海兎は状況を整理しつつ少女が眠っている部屋へと移動している。廊下もひどい有様だ。まるで、戦闘が繰り広げられたかのように床も壁も切り裂かれ、砕かれている。
(もしかしてって思ったけど。ここって、日本じゃないのか? いや、もしかしたら地球じゃないって可能性も……)
海兎は、自分が溺れて意識を失った後のことから徐々に整理していく。まるで、謎の力に引き込まれるかのように海底に沈んでいき、意識を失った。そして、気づくと目の前には謎の兎耳少女が立っていた。だが、それはおそらく夢であろう。
現実の自分は、なぜか水が溜まった樽の中に入っており窒息死するところだった。どうして、樽の中に入っていたのかは今でもわからない。どうして、海底に沈んでいったはずの自分が木船に乗っているかも。そう……わからないことだらけなのだ。何度も、考えているが辿り着く先は、本来な非現実なもの。
「うーん、わからん」
船のあちこちにある本。その表紙や中に書いてある文字はあきらかに日本語や英語など海兎が知っている文字ではない。もちろんフランス語ともイタリア語とも違うだろう。全てを知っているわけではないが、文字の形などは少しだけ見たことがある。
「そろそろ戻るか」
ある程度だが、船の探索は終わった。そして、自分なりに考えてみたがわからないことだらけで、これ以上は無理だと判断。だったらどうする? 決まっている。これから向かう場所には、海兎が気絶させた少女が眠っている部屋だ。
おそらく彼女は、海兎よりはここのことを知っている。彼女の言葉から、乗船者というのは確定だろう。ただ問題があるとしたら彼女が素直に話してくれるか、ということだ。
(あの子の精神状態は普通じゃない。それに加えて、俺があんなことしちゃったからなぁ……)
今思い出しただけでも、海兎は自分がやったことに恥ずかしさが込み上げてくる。彼女を止める方法が思いつかなかったとはいえ、まさか母親が持っていた少女漫画のようなことをしてしまうとは。あの時の自分は、彼女の痛々しい姿と自分の身に起こった状況のせいで少しおかしくなったいたのかもしれない。少女を丁度いい部屋に運んだ後も少女とのキスシーンが脳内から消えず、ずっと羞恥心と戦っていたのだ。
今では大分羞恥心が無くなったが、少女と対峙するとどうなることか海兎は、心配になりつつも足を止める。
「起きてるか?」
少女が眠っているはずの部屋のドアにノックを数回し、呼びかける。しかし、反応はない。しばらく考えた後、海兎は意を決し部屋へと踏み込んだ。
「……起きてたか」
部屋の隅っこにあるベッドの上で、目を覚ました少女が何やら顔を赤くしたまま身を抱いている姿を発見した。おそらく海兎とキスをしたことを思い出し、恥ずかしくなっているのだろう。
(これは、思っていた通り話しづらいな……)
とはいえ、このままというわけにもいかない。海兎は頭を掻きながら、床に転がっている椅子を持ち上げベッドの横に置き、腰を下ろした。
しかし、少女はこちらを向こうとはしない。気づいていないのか? それとも恥ずかしくてこちらを見ようとしないのか。気まずい空気がずっと続く中、少女から話しかけてきてくれた。
「ねえ」
「へっ? あ、え、うん。ど、どうした?」
こちらから話しかけようと思ったので、驚きを隠せない海兎。正直、あんなことがあったため少女のほうから話しかけてくるとは思ってもいなかったのだ。だが、これはこれで好都合だ。これ以上気まずい空気に耐えれるかどうか自信が無かった。
「あなた、本当にあいつらの仲間じゃないの?」
「……あいつらが何なのかは俺にはわからないけど。敵じゃないってことは言える。それに、あんな状態に女の子を襲うほど俺は下種じゃない」
「……普通に襲ったくせに」
平坦な声でばっさりと言われ、海兎はぐうの音も出なかった。別の方法が思いつかなかったとはいえ、あれは明らかに彼女を襲ったことになるだろう。
普通ならば謝るところだ。
しかし、海兎は。
「あ、あれは……! そっちのほうから誘ったんじゃ……」
まだ落ち着いていないのか。謝るどころか、少女のせいだと言い張ってしまう。いや、間違ってはいないのだ。実際、精神が不安定だったとはいえ少女のほうから誘っていたのは間違いは無いこと。
「さ、誘ってない!! どうして、私が!!」
記憶が無いのか、それとも恥ずかしくて否定しているのか。
おそらく後者だ。キスで気絶するぐらい純情な少女だ。ファーストキスを、名も知れない男に奪われたなど認めたくないのだろう……。
「大体、あなた何者なのよ! さっさと正体を明かしなさい!! それと、もっと離れてよ!!」
自分の体を庇うように、海兎から離れていく少女。これは相当嫌われているようだ。当たり前といえば、当たり前だが……助けたのにこの反応は、正直つらい。
「海兎だ。宮本海兎」
「みやもとかいと?」
「海兎が名前で、宮本が苗字だ」
「そう……」
その後、また重苦しい空気が部屋を包み込む。
「なあ、俺も名乗ったんだからそっちも名乗ってくれないか? じゃないと、話が続かないっていうか」
「あなたに名乗る名前なんてないし、話したくも無い。しばらく一人にして……」
「……」
確かに、あれだけの精神状態だったのだ。今は落ち着いているとはいえ、しばらくは一人で落ち着く時間が必要だろう。海兎は、わかったよと短く答えそのまま部屋から出て行く。
そして、そのまま再び甲板へとやってきた。
最初は霧が濃かったため周りの風景が見えなかったが、今はすっかり晴れておりどこまでも見渡せるほどだ。
「青いなぁ……」
見渡せど見渡せど、岩場すらない一面の海。船は、帆が破けているため風があったとしても進むことはできない。エンジンがついている現代の船だった場合は、風がなくともすいすいと進んでいくのだが……この船は、完全に帆で風を受けて進んでいく昔の船。
小さな船だったら波で多少は動くだろうが、海兎が乗っている船は貨物船と同じぐらいの大きさだ。動いていたとしても、ほんの僅かというところだろう。
「これからどうしたらいいか……船に電話があったけど完全に破壊されてたし。食料もほとんどない。釣竿があるから、魚を釣ればいいけど」
餌がないため釣れるかどうか。
「……あれ?」
そもそもこの辺りに魚は泳いでいるのだろうか? と海を覗いたところ不思議なことが起こった。まるで、透視をしているかのように海のそこまではっきりと見える。
どんな魚が泳いでいるのか。
どんなものが海の底に沈んでいるのか。だが、どうしてだ? 元から海がそれだけ透明なのか?
「いつっ!? なんだ、目が……!?」
不思議に思っていると、今度は海兎の目が痛み出す。まるで焼けるように疼く。
そして、次の瞬間。
何かがこっちに近づいてくるイメージが浮かんできた。
(なんなんだよ、これ……本当にどうなってるんだ……!)
海に沈んで、目を覚ましてから不思議なことばかりが起こる。やっと落ち着いてきたと思いきや、また不思議なことが起こってしまっている。
「こっち、か?」
流れ込んだイメージの通りならば、海兎の背後から何かが接近してくるはずだ。目の痛みは薄れてきたが、まだ頭痛が激しい。
頭を抑えつつ、何かが接近してくる方向へと足を進める。
っと、そこへ。
「うおっ!?」
地震か? いや、違う。船に何か衝突したせいで揺れたのだ。
「な、なんだこれ」
バキバキ!! と何かが破壊される音がしたと思いきや、甲板を突き抜けぬるりと触手のようなものが現れたではないか。
まるでイカのような。
「って、こいつが出てきたところって!!」
まだ名も知らない少女が休んでいる部屋があるところだ。頭痛を堪えながら、急ぎ少女の下へと駆ける海兎。階段を下り、激しく揺れる中辿り着くと……。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「うわあ!? ななななによ、この気持ち悪い触手は!?」
ボロボロのドレスをまるでバスタオルかのように体に巻いた少女。
どうやら、どこにも怪我はないようだ。
が、まだ安心するのは早い。このままでは部屋が、船が壊れてしまう。
「こっちに来い!! 早く!!」
「……わ、わかったわよ」
一瞬躊躇ったが、部屋に居るよりはマシだと判断したようだ。少女を連れて、三度甲板へとやってきた海兎は、船を襲っているものの正体を目の当たりにする。
「やっぱり……イカ、だよな」
そこに居たのは、この巨大な船よりも大きなイカ。海兎の常識内では、こんなイカなどまずありえない。こんな巨大なイカなど居たら、ほとんどの漁師達は気ままに漁などできないだろう。
世の言う大王イカなどでも、これほどの大きさはまずない。
これではまるで、ファンタジー世界などで有名なあの。
「う、嘘……! どうして【デビルクラーケン】がこんなところに!?」
「やっぱりそうなのかよ……!」
これではっきりした。ここは、地球などではない。
こんな化け物が当たり前のように居る異世界。
そして、今まさにその化け物に海兎は襲われている。




