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第四話

「ふむふむ。これが【デビルクラーケン】か。素晴らしい、核を一撃で粉砕している。これを海兎くんがやったのか」

「まあ、はい」

「うわー、本当に大きいですねぇ。私も一度でいいからこんな大きなのと戦ってみたかったです」


 魔力エンジンのおかげで、二時間も経たずにあの場所へと到着した。あれから半日は経っているが、まだデビルクラーケンの死体がセンリと出会った大船の傍で漂っていた。


「それで、どうします? これで私達のお仕事は終了。後は、この死体を持ち帰るですが」

「その前に彼らとの約束がある。それをやり遂げてからだ。しかし……思った以上に大きい。この死体を持ったまま移動するのは至難だ。かと言ってこのまま放置すれば、他の誰かに見つかり持って行かれる可能性がある、か」


 アルヴィスの言うようにいつまでもこの死体がここに放置されているわけではない。誰かに見つかり処理される可能性はかなり高い。かと言って、これだけの大きさだ。いくら魔力エンジンの推進力があったとしても死体全てを持っていくというのも難しいだろう。

 そして何よりも、海兎達をこれからどこかの島へと送っていくのだ。デビルクラーケンを持って行っては、目立ちすぎる。


「切り刻んで小分けにしましょうか?」

「そうしては、船長殿がなんというか……いや、すでに海兎くん達が切り分けてしまっているかあまり変わらないか」


 そのうえデビルクラーケンの体、いや頭? には海兎の攻撃にて空けられた大穴が空いている。どうやら、そこには魔物にとって大事な核なるものがあったようだが……海兎やセンリはそんなものを見たことがない。おそらくアルヴィスの言ったように核は粉砕されたのだろう。


「じゃあ、切り分けます?」


 と、剣を鞘から抜く。


「うむ。船長殿はデビルクラーケンの死体を持ってくるようにということだったが、その方法については言っていなかった。足一本でも持っていけば十分なデータが取れるはずだ」

「じゃあ、持っていけるだけの分切り分けますね。お二人とも、ちょーっと離れてくださいよー」


 鼻歌交じりにデビルクラーケンに近づいていき、片刃の剣をくるくるとペン回しの要領で回し、止める。

 刹那。

 エスティーネの雰囲気が一変したかと思いきや。


「ほい、終了でーす」


 すぐに剣を鞘に収めた。


「え? え? 何かしたの?」


 センリが首を傾げている中、デビルクラーケンの足と尖った頭が切り落とされ海に落ちる。


「……すごいな。あの一瞬の間に、両断するなんて」

「おや? 私の斬撃速度を目で追えたんですか?」


 海兎自身も不思議に思っている。どうして、目で追えたのか。センリにはまったく見えなかった攻撃を。


「おや? 海兎くん。君、いつの間に目が」

「目?」


 アルヴィスの言葉に、海面を覗いてみるとあの時と同じく目が赤くなっていた。エスティーネの言葉から先ほどの攻撃は常人では目で追えないもの。海兎が目で追えたのは、この目のおかげ? 

 

「もしかして」


 エスティーネが切り落とした足と尖った頭を縄で回収している中、海兎は海面に足を添える。


「……できた」

「ほう、これは奇妙な光景だ。海面に立っているとは」


 突然できなくなった海面に立つ不思議な力がまた発動している。これで理解できた。海面の透視も、海面立ちも目が赤い時じゃないとできないことのようだ。


「とことん不思議な少年ですね。よしっと! 隊長ー、船に縛りつけ終わりましたよ」

「ご苦労様。では、海兎くん」

「はい?」

 

 もう少し海面の感触というものを確かめるため歩いていると、アルヴィスからこんなことを提案される。


「このまま船を引っ張っていってくれないかな?」

「……マジすか?」

「十一時間も休まずオールを漕ぐほどの有り余る体力、そしてその海面を歩ける不思議な力。君ならばできるはずだ! ……と本気で言っているとしたらどうするかな?」


 冗談なのか? 本気なのか? わからない。常人離れした体と力を手に入れたとしても、それはただ戦う力を手に入れただけ。

 こういうことに関しては、全然からっきしだ。


「正直、この力もいつまで続くかわかりませんから、途中までだったら」

「いや、さすがにそこは断りなさいよ」

「でも、魔力エンジンはご覧の通り使い物にならなさそうだし」


 デビルクラーケンの体の一部を縛り付けたせいで、魔力エンジンを使えば船がひっくり返ってしまうだろう。ならば、帆を下げて風に乗って進めば言いだけの話なのだろうが。それもデビルクラーケンの体の一部のせいで、あまり進まない恐れがある。

 海兎達が持ってきたのは、小船に乗せれるほどのほんの小さな切り身。しかし、アルヴィス達が持っていこうとしているのはその何十倍もあろう大きさだ。


「あの、もう少し小さく斬ったほうが」

「それだと本当にデビルクラーケンのものか疑われる心配がある。後で調べればいいだけの話なのだろうが。そうやって、騙された例がかなりあるためなるべくこれぐらいの大きさで持って行きたい」

「だから、もう少し大きな船がよかったんですけどねぇ」


 どうやら、デビルクラーケンのことについて研究するために持っていくようだ。確かに、これだけ大きければ交渉は楽だろう。

 

「それじゃ、船を引っ張るためにロープを探してきますね」

「やっぱり引っ張るのね」

「道案内はしてもらうけど」

「あ、だったらこれを使ってください。さっきの残りです。術式を刻んだものなので、刃で斬られようとも簡単に斬れるものじゃありません」


 デビルクラーケンの足などを縛っている縄の残りのようだ。エスティーネの言うように何かの文字が刻まれている。ただの文字ではないのは、今の海兎にもわかる。

 特殊な力がみにつく赤い目おかげなのだろう。文字に魔力を感じる。


「ありがとうございます。……とはいえ、こんな大きなものを繋いでいるものを引っ張れるかな?」


 縄をしっかり船にくくりつけ、海兎は前に出るがまだ不安が残っている。休まずに十一時間もオールをかぎ続けた体力で筋力は本物だ。

 だが、今から行うのは大量のものを積んだ船を引っ張っていくこと。


(いや、大丈夫なはずだ。今は、デビルクラーケンを倒した時の赤い目の状態なんだ。むしろ、オールを漕いでた時よりもパワーアップしている可能性がある。よし!)


 気合いを入れ、海兎は縄を肩にかける。


「それじゃ、引っ張りますよ! 道案内よろしくお願いします!!」

「うむ、任せてくれ。海兎くんも、疲れたらいつでも休憩してくれて構わない」

「はい! ……すう、せーの!!」


 アルヴィスが指し示す方角に海兎は動き出す。

 思いのほか力を入れすぎたようで、一瞬船が傾いたようだがそのまま進んでいく。

 軽い。

 なんて軽さだ。まるで毛布と同じぐらいの軽さだ。あんな大きなデビルクラーケンの足や頭をくくりつけ、三人も乗っている大き目の船だと言うのに。

 しかも、地面を踏んでいるのと同じ感覚で海面を蹴っているのがなんだか変な気分だが、すぐに違和感は消えるだろう。


「おぉ、これはすごい光景ですね。まさか海面を走ってるなんて」

「この人間離れした能力……これが異界人の力なのか。これはますます興味深いね」

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