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【休載中】剣嵐戦記 ~無名録~  作者: いくやみ
第一章 晩冬と大獄
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第七話

【夕方 王都ルナティア 尋問場近く】


 トンバルーを出発した翌日の夕方には、捕らえられた人々は尋問場近くに到着した。

 尋問場周辺には聖兵の死体が吊るされており、「叛逆罪」と書かれた服を着せられていた。


「中隊長、司教、私はこれから王宮に行き、フラドル王に助命を頼みます」


 師匠は未だに気絶しているノーリを司教に託した。


「浪人殿、念のため兵士二名を監視に付けますがよろしいですな」


 師匠が頷くと、隊列から二名の兵士が師匠の両脇に付いた。

 司教は師匠を案じる目をしていた。


「師匠殿、本当によろしいのか。私が思うに、あなたがやるのは」


 司教が言いかけると、師匠は人差し指を唇に当てた。


「ノーリには、すまなかった、と伝えておいてください。ノーリの気絶は私が離れれば解けますから」


 そう言って、師匠はノーリを見た。親が子と別れを惜しむような目をしていた。


「助命を乞うなら急がれた方がいい。刑の執行は、明日か明後日になります故」


 中隊長は、兵士に師匠をすぐさま王都に連れていくように命令した。

 師匠は、兵士に連れられ王都へと向かった。


 師匠が去った後、捕らえられた人々が止まっていたので、騎兵が鞭を打って動くように命令した。


「ほらっさっさと動け!」


「早く歩け!」


 師匠がいなくなったためか、兵士の態度が大きくなった。

 鞭の音が鳴り続ける。


 そんな中、ノーリが司教の背中で目を覚ました。


「し、師匠」


「ノーリ、目を覚ましたのか」


 意識が戻ったノーリは混乱していた。

 現状を理解できずにいたのである。


「司教様、これは」


「我々は捕らえられ、尋問場へと向かっておる。だが安心しなさい。師匠殿が国王へ助命を嘆願しに行った」


「師匠が!?なぜ!」


 司教はノーリの言葉に答えられなかった。

 ノーリの声に気づいた小隊長が兵士に、ノーリを縄で縛って馬につなぐように命令した。


「なんてことを!まだ意識を戻したばかりの子供を縄で縛るなど!」


「あなた方は我々の命令に従うと約束されました。これにも従ってもらいます」


 中隊長の言葉に困惑したノーリだったが、司教に迷惑をかけまいと、縄で縛られ足枷を付けられるのに抵抗しなかった。

 ノーリは一人だけ、騎兵の馬につながれた縄で引っ張られ始めた。


 そんな中、捕らえられた一人の老人が兵士に水を求めたが、兵士は老人に鞭を打った。

 老人はあまりの痛さに倒れ込み、老人と繋がれていた列の人々も巻き込まれて倒れた。


 ノーリはすぐさま、老人に駆け寄った。


「年寄りではありませんか。鞭を打つなんてひどすぎます!」


 老人を起こしたノーリに、鞭を打った騎兵は怒って馬を降りた。


「お前の顔は覚えているぞ。この糞餓鬼が、俺たちに抵抗しやがって」


 騎兵はノーリを鞭で打ち蹴りを入れ倒した。

 倒れたノーリの身体は馬につながれていたため、身体を引きずり始めた。


「あやつ、なんと惨いことを!」


「ノーリ!」


 司教やクドルムが立ち止まろうとするが、兵士に槍で脅され進むしかなかった。

 その様子を先頭で見ていた小隊長は、舌打ちをして先に進んだ。


 尋問場の門が開くと、次々に捕らえられた人々が入っていった。

 全員が尋問場の悲惨な状況を目の当たりにして絶句した。


 尋問場の牢屋には身分関係なく人々が詰められ、助けを求める手が無数に出ていた。

 ノーリは兵士に鞭を打たれながら尋問場の奥へと入っていった。

 そこでは聖兵や反乱に関わった疑いのある聖職者が吊るされ、棒や鞭で打たれ足を焼かれていた。


 吊るされた聖職者たちを見た司教は、思わず叫んだ。


「モート。モートではないか!」


 午前に尋問官に拷問され、虚偽の証言をした聖兵が司教の方を向いた。

 その身体は傷だらけで、午前よりもさらに傷ついていた。


「司教様、申し訳ございません」


 モートは目に涙を浮かべ、司教に謝罪した。

 司教がモートのもとへ走り出そうとするが、両脇の兵士に抑えられた。


「私のせいで、私のせいで」


 モートの言葉を聞いた司教は首を横に振った。


「いいや、お前は悪くない。皆時代が悪いのだ」


 モートはいっそう自分の行いを悔いた。


 中隊長と小隊長は、尋問官に一礼し報告を行った。


「そいつらは皆、トンバルーから捕らえてきた者か?」


「はい中軍佐」


「まあ尋問するまでもなかろう。既にあいつが洗いざらい話してくれたからな」


 尋問官はそう言ってモートを見た。


「だが、形だけでもするか」


 尋問官は司教を見て、指をさした。


「ところで、あの老いぼれは誰だ?」


「聖皇『カール・ログトル』様の弟弟子です」


 中隊長の返答を聞いた尋問官は、思い出した顔をした。


「そうか、確かにどこかで見た顔だ。その者は外しておけ」


「「はっ!」」


 もう一人の尋問官が、指をさして命令する。


「村人はあっちの尋問場に連れていけ。お前ら聖職者はこっちに来い!」


 村人が、次々に別の尋問場に連れていかれ、聖職者たちは鞭で打たれながら尋問官の前へと進んでいった。

 ノーリは村人の方へと進もうとしたが、兵士に尋問官の方へ行くよう鞭を打たれた。


 クドルムが司教の前で止まる。


「クドルム」


「司教様」


 司教は皆を元気づけるような顔をしていた。


「案ずるでない」


 次々と司教の前を聖職者たちが通っていき、ノーリも司教の前を通った。


「司教様!」


 司教は驚いた顔をしていた。村人であるノーリが聖職者の方へと連れてこられていたからである。


「ノーリ!」


 ノーリは司教の前で止まろうとしていたが、兵士に鞭を打たれ進んでいった。

 全員が尋問官の前で正座し終わると、尋問官が話し始めた。


「お前たちのトンバルーは、此度の反乱に深く関わっている。故に罪人として扱う」


 尋問官が聖職者を棒でつつきながら、聖職者の前を通っていく。


「まず全員の身元を明らかにする。聖籍を問う。」


 その言葉を聞いた瞬間、司教の顔から血の気が引いた。

 ノーリは司教の方を見る。司教もノーリの視線を感じ、ノーリを見た。


「本当に聖職者ならば、聖籍があるはずだ」


 尋問官が、一列目の左の聖職者から順に確認を始めた。


「お前の聖名は?」


「スイを申す」


「誰に名を授かった?」


「ポルト司教様からです」


「いつ?」


「五十九年の六月です」


 尋問官が、後ろで聖籍を確認している兵士に確認する。

 兵士は確認した後、尋問官を見て頷いた。

 尋問官はつまらなそうに、次の聖職者に確認を始めた。


「聖名は?」


「キサイと言います」


「名を受けた年は?」


「スイと同じ年です」


 尋問官が兵士に確認すると、兵士は首を横に振った。


「連れ出せッ!」


「「はっ!」」


 キサイと言う聖職者は兵士に連れ出され、吊るされ始めた。

 キサイは必死に抵抗するが、数人の兵士に取り押さえられ吊るされた。


 一人吊るせたのがうれしいのか、尋問官は上機嫌にクドルムに確認し始めた。


「で、お前の聖名はクドルムと言うのか。俗名は『ダニエル・マルク』。昔は腕の立った武将だと聞いたぞ」


 尋問官がクドルムの肩を棒で突っつく。


「どうして聖職者なんかになった?」


「聖職者になるのに、理由など必要ない!」


 クドルムは尋問官を睨みつけ、強気の口調で言った。


「なんだと!」


 尋問官はクドルムを蹴り倒し、胸に棒を押し付けた。


「ま、どうでもいい。聖職者になって十年以上経つと聞いたぞ」


 起き上がろうとしたクドルムを尋問官は再び蹴り倒した。


「聖堂では武芸を教えていたそうだな?まあ良い。それは後でゆっくり聞かせてもらう」


 そう言って、尋問官はノーリを見た。


「なんだこの餓鬼は。聖職者には見えないが」


「こやつは捕らえに来た兵士を木剣で倒すなど抵抗しており、反乱に大きく関わってると判断し、こちらに連れてきました」


 鞭を打った騎兵が尋問官の前で膝をつき説明した。


「そうか。なあ小僧、世間は無常なものだと知っておるか?」


 尋問官がノーリの顎に下から棒を当てた。


「俺は、聖職者ではありません」


「では、俗名は何と言う?」


「ノーリと言います」


「名か?姓か?すべて答えよと言っておるのだ!」


 ノーリは黙り込んでしまった。


「何処で、いつ、誰から生まれたのかを聞いておるのだ!」


 ノーリは司教の方を見る。


「戸籍はあるのだろう。答えよ!」


「俺は、知りません」


 尋問官はノーリの言葉に愉快に笑った。


「知らないだとッ!」


 ノーリが左頬を殴られ倒れた。


「おい小僧!お前の親は誰でどこに住んでいたかぐらい分かるだろ!それを答えろ!」


 尋問官はノーリの襟を握って、腹に拳を一発入れた。


「俺は、知りません」


 ノーリは必死に首を横に振るが、尋問官の追及は終わらない。


「口では分からんようだ。この小僧を吊るせ!」


 兵士がノーリの両脇から抱え連れていった。

 ノーリは司教やクドルムの名を呼んだが、司教やクドルムにはどうすることもできなかった。

 ノーリは手から吊るされ、足元には鉢が置かれた。


「一応全員の確認が取れたな。今日はもう遅い。聖籍のある者は牢に入れ、怪しいの者たちはある程度吊るして牢にぶち込め!」


「「はっ!」」


 司教は別室に入れられ、クドルムたちは牢へ入れられた。

 ノーリは、その後も尋問官から追及を受け、棒で何百回と叩かれ足を焼かれたが答えなかった。

 

 ノーリはその晩、一人で吊るされ足を焼かれ、尋問場にはノーリの苦しむ声が響き渡ったのである。

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