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本の世界の鍛冶士 柊シズクの物語  作者: 川崎タイチ
風の移動要塞・カーハツヴァイ エルチェの物語編
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第82話 エルチェ誕生と幸村

 私は、きっと、100年前にとてもとても悲しい想いをしたのだろうか?

 どうして?このセカイに私は……『私たち』は……留まる事を選んだのだろう?


 ――それはきっと……『妥協』したからなのだろう。


 私が寵愛した娘が、絶対的に叶わない想いのセカイへのささやかな抵抗。

 多分、花梨カリンもきっと、私と同じ想いなのだろう。


 ……汚い大人のセカイに敗れた者。

 そして、抗った結果産まれたら絶望の想い。

 どう努力しても1番になれない『我が娘の七海ななみ』の絶望の想い。


 ……一番になれないって事は、『どんなに無償の愛』を重ねても届かない。

 大切な人の一番に……。


「そんな絶望なセカイへ産み落とした私の責だ……」

 その結果私はこのセカイへ逃げ込んだ?

 きっと、このセカイに花梨カリンと私が逃げた。

「神様なのに……情けない、人と結ばれて産まれた子が普通な日常なんて過せる訳ないのに」

 私は風の神としての役割を果たして地上に堕ちた。

 そして、七海ななみを授かった。

 その結果が娘に絶望の想い。『ゼロディバイト』の力を宿すことになるなんて。

 対価として、永遠に一位になれない悲しい想いを背負うことに。

 だけど、私の想いはセカイで一番七海ななみを愛している。

 ゼロディバイトは七海ななみを一番愛する者も不幸にする。

 例えどんなに想っても辿りつけない一位。


 その結果、耐えられず……七海ななみの幼馴染み、双葉は破綻した。

 そして、紀伊半島の海岸線は崩壊した。

 いいえ、崩壊は止めた……水槽楽部の七海ななみの仲間達がセカイに抗い、止めた。

 一人の神の死によって……。

 七海ななみは一番になることを諦めたセカイ。

 水槽楽部は友の死によってバラバラになり、七海ななみは『独り』選んだ。

 私は、親として七海ななみの想いを受け入れなかった。


 想いの死は、きっと私にとっては『人形』でしか無かった。

 我が娘が人形になって老いるまで生き続ける人生なんて嫌だった。


 ずっと、ずっと苦しんだ。本人も周りも不幸になった。

 セカイを恨んだ。神を恨んだ。

 ……私、神様なのに……産み落とした娘一人すくい上げられ無かった。

 でも、このドールを完成させたらきっと……。


 ◇


 「……想いを貸して……この子の想いを紡ぎたい!」


「……シズク……貴方の……ううん。」

「私が、エルチェのヘッドを創るわ」

 心桜こころはギュッと心臓の前に拳を握りしめ。

「そして、シズクにこの子を託すわ!だから手伝って!私のエルシュ……」


 七海ななみ心桜こころの右手を両手で優しく包み込むように握り。

「……はい!」


 その想いを心桜こころに告げた瞬間セカイが一気に色褪せた……!

 シズクは激しい頭痛と『ピー・ピー・ピー』と耳障りな音が鳴り響く。

 セカイと乖離したような感覚……しかし、肌に伝わる布の感覚。

 そして動かせない石のように重い肉体の感覚に襲われた。


「シズクさん!」

 色褪せたセカイの色が一気に戻る!!


「シズク!ダメだよ!」

 五月蠅いな……判ってるよ……エルチェ……!

 エルチェ……エルチェ……!


 指先にザラッとした痛みが伝わる!


「シズク何やってるの!精神宿すのは80%位にしないと精神持っていかれる!!」

 指先から『鮮血』がスーッと『ムラマサ風の刀』の刃をつたっていた!!

 な、なんで!私、刀なんて握ってるの!しかも刃に指当てて!


「あっぶない!あぶないよ!シズク!これで何回目!?加護付与するときはホント毎回毎回……」


 私、確か……エルチェのヘッドを創っていたはずだけど……。

「ねえ……なんでエルチェ……頭付いてるの?」

 まただ……エルチェを創った時の記憶が曖昧にされた。

 ドルフィードリーミーのエルチェも何故がフルカスタムの私オリジナルなのにその行程を想い出せない。


「いやいや……寝ぼけてないで!花梨カリンさんの武器錬成中でしょ!」

花梨カリンさんの想いを紡ぐんだ!すっ……ごーーーい!入れ込んだ結果、意識持っていかれて危ないよ!精神宿ったら、とんでもない刀なるんだから!」


「……うむ!意識持っていかれる程の業に私は嬉しいがな」

 花梨カリンさんは刀の出来に満足しているように見える。

 いやいや!たしか絶命寸前でしたでしょ!

 工房を見渡すと、そこはいつもの『工房・柊』だった。


 ――『命刀:幸村』

 攻撃力:並の刀

 精神:水属性

 特殊スキル:食パン斬り<レベルに応じて4枚斬りから8枚斬りまで昇段>


 ――耐久度:∞<絶対に折れない刃こぼれしない諦めない想い・・


「……うむうむ!やはり水槽楽部部長として、水属性は絶対に譲れなかったのだ!」

 花梨カリンはとても満足そうな顔をし幸村を構える!

「……これで、あの高野山に居座った爆乳死神お化けを退治できる!」

 若干痛々しく巻かれた左腕の包帯に右手を添え、幸村を構える!

「……そして、この刀は『幸村』と名付けようと想うだが?シズク、いいか?」

 |パッと見ると金髪美少女が腕に包帯を巻いて刀を構える中二病重症患者の爆誕だ!

 しかし……。

 花梨カリンが幸村を振り下ろすと、工房の空気がスパーン!っと切り裂かれる!

 小さな女子高生が大人の男性でも振り回す事ができそうにない日本刀を鮮やかに振る舞う。


 そして、花梨カリンはボソッと一言……。

「絶対に折れない刃こぼれしない諦めない想い・・……か」


 ――花梨カリンはスッと一筋の涙が頬をつたった……。


「……ありがとう、シズク……」

「……この刀があれば、きっと繰り返した絶望の想いの先にきっと私は」


 花梨カリンはスッと刀を鞘に戻し、幸村を花梨カリンの体と一体化した。幸村の力を内包した花梨カリンの体は水のように穏やかで、透き通るような一途な想いを得たような不思議な感覚を出していた。


 シズクは花梨カリンの可憐な姿に魅入っていると、そっと刀で切った指を握りしめる感覚を感じた。握られた指先の方にいる人を見ると……。


「シズク!手当!結構深く切っちゃってる!」

 エルチェが慌てて手を握り出血する指の血を止めようとしていた!


 ……でも……。

 ……セカイは色褪せていた……。


 どんどん遠ざかる意識。

 自分の指先から流れ出す鮮血の色だけがハッキリと見えている。

 意識が鮮血の色に持って行かれる!!


 そしてまた、シズクは激しい頭痛と『ピー・ピー・ピー』と耳障りな音が鳴り響く。

 瞳を閉じるのはとてもとても悲しくて怖いが、どうしても1回まばたきを……。どうしてもしたくなった。



 シズクのスマホの着信音が鳴る……!

 SNSに心桜こころからメッセージが届いた――。


『心桜こころ:きっとそのセカイには、まだ……エルチェは完成していないよ』

『心桜こころ:だって、貴方がエルチェと花梨カリンの幸村を練成したんだから』


 七海ななみの家からの帰り道にシズクは戻っていた。

 シズクのスマホの着信音が再び鳴る……!

 SNSに心桜こころからもう一度メッセージが届いた――。

心桜こころ:ありがとう、七海ななみの想いを紡いでくれて』

心桜こころ七海ななみは一番になれたよ』


 ――このセカイはアクリルの向こう側のセカイだから。


 シズクは瞬き一回で長い長い夢を見た感覚に襲われた――!


 エルチェのヘッドの練成と組み立てが曖昧なのは……。


 『命刀 幸村』は

 耐久度:∞<絶対に折れない刃こぼれしない諦めない|想い・・>

 を獲得しました。


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