第01話 異世界の鍛冶士 Prolog
――『カン!コン!カン!コン! 』
鍛冶場には淡々と錬成をする娘がいた。
……ここは『とある異世界』にある鍛冶場だ。
鍛冶職人は屈強な『男』がタンクトップと筋肉を見せびらかしながら、熱い鉄を打つイメージがこの世界の鍛冶屋は少し違っていた。
街の小川に『大きな水車』と『錬成用の釜の煙突』設備があるようだ。
鍛冶場の建物には『オシャレな立て看板』が建てられ……
『冒険初心者大歓迎!鍛冶士 柊』と書かれていた。
カフェとして見ればオシャレな建物ではある。しかし、鍛冶屋だ。女子力フルパワーに出ている。
入り口には満開に咲いたガーデニング、入口のドアは木製のアンティーク調の扉。屋根の横には大きなタンクが設置されていた。
鍛冶屋の入り口には異世界には不向きな『バイク』も止められていた。
オシャレな鍛冶屋にはとても不向きであろう『屈強な戦士風』の漢が店のドアを開け入店した。
――『チリンチリン!』
鍛冶屋の扉の奥から店主の『女の子』が出迎えた。
「いらっしゃいませ!鍛冶屋 柊へ!」
その女の子はとても可愛らしい声で屈強な漢を出迎えた。
「シズク姐さん!お世話になっておりやす!今日はクエストの報酬が入ったのでサバイバルナイフの再付与をおねがいしやす!」
このとある異世界の武器としては違和感のあるナイフだった。
「どうですか?サバイバルナイフの使いやすさが……ちょっと重いかなと思ったのですけど。どうしてもカートリッジ機構を搭載するには大きくなってしまいますので……」
ナイフをイメージすると軽くて扱い易そうなイメージはあるが、サバイバルナイフはある程度刃渡りがあり、片刃とノコギリ状の刃が付いている代物だ。さらに『カートリッジ機構』らしき構造が付け加えられている。
「シズク姐さん、丁度良い長さと重さですよ!何よりこのサバイバルナイフは『属性が場面に応じて変更できる』のは助かる!モンスターに合わせた属性展開が出来る武器ってありがたい!」
この世界の武器には、基本的に錬成時『属性』を付与させる。大抵の場合、本人の得意属性を付与するのだが……。
「そうですね。この世界には無かったですからね?武器に対しても愛着や思い入れ・宗教的概念が大きいですから。純粋に武器の機能美を追求する事を考える鍛冶士の方は少ないです。強き相棒って感じですね?」
彼女が錬成する武器は、属性の変更が手軽に出来るのが売りらしい。あと、機能美を一番に追求する考えの持ち主のようだ。
「あと、『スフィアカートリッジ』の『風属性』もお願いしたいのだが……」
「今度、『地のレリクス』に行かれるのですね?それでしたら、工賃とは別に『風のスフィア』のご用意お願いします」
この世界の属性も『闇・火・水・風・土・光』ある。『地のレリクス』に行くのであれば、特攻力が付く『風』の属性が有利だ。
『各属性武器を一通り揃える』のは可能ではある。しかし、いくら屈強な漢であっても各属性武器6本背中に背負うなど現実的には不可能だ。パーティーを組む際には、得意属性を考慮する必要も出てくる。
『鍛冶士 柊』の武器は『属性が変更』の特性を付与された武器を扱う唯一の武器屋のようだ!
異世界から来たシズクが持ち込んだ『技術』とこの世界の素材を利用した強力な武具を製作している。
この物語は、彼女……『鍛冶士 柊』の店主『柊 シズク』の異世界『ファバーダ・アストゥリアーナ』にある『小さな鍛冶士の物語』である。
挿絵イラスト:ざらめ様