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ゾンビシティサバイバル  作者: ディア
第1章 - サバイバル編
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008. In company with...

『登場人物』

歌乃(かの)

 近くの大学に通う大学2年生。

 中学生の頃から陸上部で活動し、運動神経は並の男性より良い。

 頭もそれなりに良く、弱点は『弱点が無いこと』と周りから持て囃されているが、見えないところで弱点は多い。

 女性平均より背が高いのが少しコンプレックス。


(いつき)

 歌乃と同じ大学に通う大学2年生。

 小さい頃から勉強一辺倒で運動は苦手だったが、大学入学を機に運動しようと運動サークルに入り、歌乃と出会う。

 男性平均より背が低いのが少しコンプレックス。



悠気(ゆうき)

 一介のサラリーマン。

 運動は高校の頃からろくにしていない。

 階段を上り、2階に着いた歌乃(かの)(いつき)は、身をかがめながらフロアの方を覗き込む。


 2階には長い廊下があり、向かい合うように部屋が並んでいる。電灯は灯いているが、それで照らされているものは、ところどころ噛じられて床に突っ伏したままの遺体と、血で汚れた床。そして、何も無い廊下の角をじっと見つめている1体のゾンビの姿だけだった。

 遺体が腐り始めて腐臭が漂っているのか、離れていても悪臭が鼻についた2人は少し険しい表情になった。

 歌乃はゾンビに気づかれないよう小声でそっと樹に呟いた。


「このビルにはまだゾンビがいるようだね、流石に数は少なそうだけど」

「うん……、ここに今日留まるなら倒して安全確保しないと……」

「そうだね、でも」

 歌乃が次の言葉を言いかけていた途中、樹は飲食物を入れていたカゴを置いて2階フロアの方に飛び出していった。

 突然の出来事に歌乃は制止できず、唖然(あぜん)とすることしかできなかった。


(……よし、いけそう!)

 樹は勢いよくゾンビの方へと駆け出す。

 ゾンビが樹に気づいて振り向き直すのより、樹が近づいてハンマーでゾンビを殴り倒すことには十分間に合う距離だった。


(廊下には障害物がないし、死角もない。部屋の方にまだゾンビがいたとしても、先に目の前のゾンビを倒せれば動きやすくなる。それに……)

 気持ちが先走っているのを自覚しながら、樹はゾンビにどんどん向かっていく。ゾンビの方はまだ樹には気づいていない。


 床に突っ伏した遺体の(そば)を越えて、樹が手に持ったハンマーを振りかざし始めたその時、


(えっ……?)

 樹の脚が急に止まり、そのまま前のめりに(つまづ)いてしまった。


「なんっ……で、何もないのに……!」

 樹は慌てて立ち上がろうとするが、左脚が固定されたかのように動かず、更に左足首が締め付けられるような感覚を感じていた。

 樹は左脚の方に顔を向け、そして、なぜ急に脚が動かなくなったかを理解した。


 樹の左足首に、突っ伏したままの遺体の手がガッチリとしがみつかれていた。遺体の頭はゆっくりと持ち上がっており、白緑と赤に染まった顔を覗かせ始めていた。


「しまっ…!!」

 何が起きたか理解した樹は、身体をひねって右脚で突っ伏したままのゾンビの顔めがけて蹴りつける。しかし、ゾンビは左足首を手放さず、むしろ逆にどんどんと力を入れて締めつけているようだった。


「離せッ! 離せッッ!!」

 樹は声をあげながら何度も蹴りつけている最中、急に、後ろからの気配を感じた。樹が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには先ほどまで廊下の角を見ていたはずのゾンビが樹を見下ろして立っていた。

 そして、そのゾンビは間髪入れずに樹めがけて覆いかぶさるように襲い掛かってきた。


「うわぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 咄嗟に大声をあげてしまった樹は、もう身構える余裕も無かった。歌乃の前で良い格好したいと無謀な行為をしてしまった後悔と、こんな死に方をしてしまう情けなさで胸が一杯になった。


 心残りがあるとすれば、歌乃に対して「先に死んでしまってゴメン」と謝りたい気持ちだけだった。


 ゾンビが樹の顔の数十センチ上まで近づいて来たとき、突如、樹の頭上を何かが通ってゾンビの頭に直撃した。

 思いがけない出来事にゾンビは怯み、後ろにたじろぐ。

 近くには缶ビールがコロコロと転がっていき、壁にコンとぶつかって止まった。

 樹は何が起きたのか理解できず、その場で固まったままだった。


 ゾンビに缶ビールを投げつけた歌乃は、そのまま走り寄ってきて、突っ伏したゾンビの背を踏みつけ、そのままスコップで頭を殴りつけ、そして、樹の左足首を掴んでいる腕にスコップを突き刺した。

 樹の左足首を掴んでいた手が緩み、ゾンビから解放された樹は、ようやく何が起きたのかわかり始め、脱力したまま歌乃の方を見つめている。


「……あ、ありが「まだ!」 

 歌乃は樹の言葉を(さえぎ)りつつ、樹の方に向かって勢い良く突っ込んでいった。

「えっ?」


『ガンッ!』

 何かがぶつかる音が響いた次の瞬間、樹の直ぐ側で歌乃とゾンビが組み合っていた。歌乃がスコップを横に構え、なんとかゾンビの掴みかかりと噛みつきを防いだが、ゾンビの力は強く、どんどんと壁の方へと押し込まれていく。


「ぐっ……、い…樹!」

 名を呼ばれてようやく我に返った樹は、ゾンビの方に這い寄り、ゾンビの足めがけて力の限りハンマーを振るった。

 バランスを失ったゾンビは押す力が止まり、それに合わせて歌乃が勢いをつけてゾンビを押し返す。


 押されてそのまま仰向けに倒れたゾンビは、すぐに立ち上がろうとしたが、その隙を与えずに歌乃がゾンビの喉元を突き刺した。

 喉元からは血液が勢い良く飛び散ったが、すぐに勢いがなくなって出血が止まり、併せてゾンビの動きも止まった。


「ふぅ……。助かったよ、樹。ありがとう」

歌乃は、まだ少し動いていた床に突っ伏したままのゾンビのトドメを刺しながら呑気に話しかけたが、樹の方は苦虫を噛み潰したような顔をしながら下を向いていた。


「あぁ、さっきは危なかったね。足は大丈夫?」

「…………大丈夫」

 うつむいて意気消沈している樹を見て、歌乃は樹の心中を察していたが、なるべく気に留めないよう振る舞っている。

 先ほど投げつけた缶ビールを拾っておこうとしたが、ゾンビの血と汗が混じったような体液がこびりついているのが見えてしまい、歌乃は残念そうな顔をしながら缶ビールを諦めて、樹の元へと近づいていった。


「奥の部屋にはまだゾンビがいるみたいだよ、とりあえずここは危ないから上へ行こう」

 実際には、奥の部屋には何の気配もなかったが、ここに留まる理由は無いと考えた歌乃は、樹を無理矢理引っ張って買い物カゴを持たし、上の階へと目指していった。



 3階にも廊下に沿っていくつかの部屋が設けられていたが、ドアが破壊されており、等間隔に並べて設置されていたガラスパーテーションも、何枚かが粉々に砕けていた。

 ガラスパーテーションで区切られていた部屋の中には机が並べられており、机の上にはPCやお洒落な置物が置かれていたりしているが、机の上に物が煩雑に置かれている所や、机から物が落ちたのか床に物が散乱している所もあった。


 雰囲気的にベンチャー企業的な会社が入っていたようだが、今は人もゾンビも気配はなく、床に落ちている物がところどころ凹んでいたり、血の痕で汚れていたりしていたことから、ここでも派手な乱闘が繰り広げられたことが容易に想像できた。

 何か使える道具が落ちていないか探したいところであったが、歌乃は、ゾンビが見当たらない事を一瞥(いちべつ)だけして、フロアに入るまでもなく、そのまま樹を引っ張って上の階へと進んだ。



 4階も荒れ果てていることを想像していたが、2階、3階とは打って変わってフロアが綺麗な状態で残っていた。人の気配もなく、廊下に沿って等間隔にドアが並んでいる。

 二人は一番近くの部屋のドアに近づき、ドアノブをゆっくりと回す。鍵はかかっておらず、そのままドアノブが回ってドアが開いた。


 部屋の照明は消えていたが、暗い部屋内には長机と椅子がいくつも置かれており、壁側にはホワイトボードが設置されているのが見える。

 奥の方はカーテンで塞がれているが、外の明かりが入ってくることから、窓があることがわかった。


 歌乃がドア近くにあった照明のスイッチを入れ、明るくなった部屋を慎重に見渡す。


「この階はレンタルスペースか、セミナールームに使われていたみたいだね」

 まだ落ち込んでいる樹を引っ張りながら、歌乃は部屋に入って中を調べ始めた。


 とりあえず、部屋内にゾンビがいないこと、部屋の出入り口が前と後ろのドアで2つあること、ドアは内側からも鍵がかけられること、そして、非常階段出口も部屋を出てすぐ近くにあることを確認した歌乃は、ここを今日の寝床にするべきだと結論づけた。

 歌乃が部屋を調べている最中に、樹の方もようやく気分が少し回復し、落胆しつつも普通に受け答えができるようにまではなっていた。


「今日はここで寝泊まりと考えているけど、樹的にはどう思う?」

「安全そうだし良いと思う……。ゾンビもここまでやってこないだろうし」

「満場一致で決まり、こういう時二人だと楽だね。あぁでも、まだ確認してない場所があったね」


 二人は必要最低限の荷物以外は4階の部屋に置いたままにし、5階へと移動した。

 5階の廊下は3階ほど散らかってはいなかったが、やはり争った形跡や血の痕がそこら中に確認できる。


 まだゾンビが残っていないか二人は警戒しながら奥へ奥へと進んだが、ゾンビが現れることはなかった。

 適度な緊張で気持ちがほぐれたのか、樹が辺りを見回しながらつぶやく。


「やっぱり、上の階に行くほどゾンビは居ないか」

 だいぶ調子が元に戻ってきた樹を見て、歌乃が内心安心しながら相槌を打った。

「うーん、そうだね。ゾンビでも上の階に人がいないことをわかっているのか、それとも……、ゾンビも死んでまで会社にいたくなかったのかもね」

「あぁ、なるほど。僕なんか生きてても就職なんてしたくないのに……」

「フフッ、まぁ確かにそうだけど、…っと」

「どうかした、歌乃?」


 歌乃が扉を開けて部屋に入ろうとしたがドアが開かない。

 ドアの横には暗証番号を入れる古いタイプのセキュリティ端末が設置されていた。


「ここから先は進めそうにないか。樹の方は何か見つけた?」

「ううん、何も。とりあえず、このフロアにもゾンビはいなさそうだけど……」

「まぁ、それだけわかればいいね」

 足早に階段のところまで戻ってきた二人は、更に上へと続く階段を眺めていた。


「屋上に続く階段……、この上も一応見に行くの?」

「行こう。屋上でゾンビが潜んでいないとも限らないしね」


 そのまま階段を上り、二人は屋上に繋がるドア前までたどり着いた。

 屋上へのドアは簡素だが、頑丈な金属扉で、あまり手入れされていないのか端のほうの塗装が少し禿げている。


 歌乃がドアノブに着いていた鍵を開け、重い扉を開けた途端、外から雨音が聞こえてきた。日は落ち始めて外は暗くなりつつあり、雨はビルに入った時よりは弱くなっていたが、まだ当分止む気配もない。


「この調子だと今晩中ずっと降るだろうね。早い内に雨宿りできる場所を見つけられて良かった」

「流石にこの天気で野宿はしたくないよ。……見たところ屋上にゾンビもいないし、そろそろ戻ろう」

「そうだね。お腹も空いてきたことだし」

 ビル内が安全であることを納得した歌乃はドアを閉め、忘れずドアノブの鍵をかけ直した。


 二人は再び4階の部屋にまで戻り、身につけていたカバンやスコップを床に置いてくつろぎ始めた。歌乃がヘルメットを脱ぎ、束ねていた髪を(ほど)く。少し赤みがかった黒髪がクシャクシャになりながら肩の辺りまで降りていた。

 長時間ヘルメットの中で、汗と湿気に蒸されて癖がついていた髪を歌乃は適当に手ですいて一応整える。

 その姿に、樹は少し見とれていたが、見とれているのを歌乃に気づかれると茶化されると思い、目線を外して確保した飲食物の確認作業を始めた。


 1階から持ってきた飲食物を並べ、どれから先に食べていくか、食料は何日まで保つかを、樹はしっかりと確認していく。


「何とか切り詰めれば5日間くらいは持ちそうだよ」

「私、ダイエットはあんまり好きじゃないんだけどね……」

「だったら、今のうちに食べられるだけ食べておこう」

 そう言って樹は、持ち運ぶ食料からあふれた袋菓子を開けて食べ始めた。歌乃も近くにあったお菓子と缶ビールを手に取り、晩酌を開始した。


 しばし、二人は黙って食事を続ける。

 喋らずとも二人は、今日も生き延びて食事にありつけたことで、生の実感を噛み締めていた。外から漏れ聞こえてくる雨音だけが、部屋内に響いている。


 食べながら何気なしに部屋を眺めていた樹は、ふと、部屋の端にコンセントがあることを見つけ、そして、おもむろにリュックサックを持ってコンセントの方へと近づいていった。

 コンセントの近くにリュックサックを置き、漁って取り出したのはスマートフォンの充電ケーブルだった。

 そのまま慣れた手つきで充電ケーブルをコンセントに指し、さらにリュックサックからスマートフォンを取り出して、充電ケーブルと接続して電源を入れた。

 スマートフォンの画面が明るく光り、しばらくして起動画面になったが、画面には通信不可を示すエラーが表示されていた。


「ここでも駄目か……」

 落胆した声で樹はつぶやいた。


「やっぱり通信できない?」

「うん、電話もダメそう……。皆や他の地域がどうなっているか気になるけど、このスマホじゃ調べることもできないよ」

 そう言って、樹は再びスマートフォンの電源を落とした。


 "あの日"直後、近くの電波塔に何かがあったのか、突然スマートフォンからのネットワーク利用ができなくなり、電話も通じなくなっていた。

 ネットワーク経由でしかアプリが使えないスマートフォンは単なる光る板と化し、後からネットワークが復活することを期待しながら樹は持ち歩いていたが、それもまだ徒労に終わっている。


 樹は食事を再開したが、すぐに食べ終わり、片付けをしている最中にある物の存在を思い出した。


「あ、そうだ。コレ」

 樹は端に置いてあった物を歌乃に投げ渡した。歌乃が受け取った物をまじまじと見つめる。


「これは……、ボディシート?」

「1階の店に置いてあるのを見つけたんだ。その、……けっこう汚れちゃったしね」

「……どうも」


 腐臭が漂う街中を歩きつづけて二人とも悪臭には慣れ始めていたが、汗をかきながら雨の街を練り歩き、ゾンビ達の体液と返り血を浴びつつ、服が生乾きになるまでビル内を探索した結果、身体からは形容し難い臭いを発するようになっていた。


「……そんなに臭ってた?」

「あ! いや、そんな訳じゃないよ! ただ、後で使うかと思って!」

「…………」

 樹のあからさまな態度に歌乃は顔をしかめたが、意識しだすと自分でも身体が臭っているということがわかったため、億劫そうにボディシートで身体を拭き始めた。

 樹も、ボディシートを一枚貰って手の届く範囲で身体を拭いた。


 服についた汚れはどうしようも無かったので、明日最初の目的は服屋を探すことに決まり、今日は早く寝ることにした。


「あのカーテンを布団代わりにしよう」

 そう言って歌乃はカーテンを取り外して(くる)まった。樹も同じようにカーテンを取り外し、肩にかける。

「そろそろ電気消すよ」

「うん、おねがい」

 部屋の電気を消した樹は、なるべくドアから離れた窓際の位置を陣取って横になった。そして、樹とは背中合わせになる形で歌乃も横になった。


 ……思いがけない出来事に、ビクッと身体が動いた樹だったが、「カーテンだけだと寒いし、くっつこう」という歌乃の意見に、素直に賛同した。


 外は暗くなりながら、雨がしきりに降っている。再び、部屋の中は雨音しかしない空間と化していたが、樹は目が冴えてしまっていた。

 "あの日"から今までも二人だけで眠る夜が続いていたが、決して安全な場所で眠れたわけではなく、緊張の最中、常に周りを警戒しながら仮眠していただけのため、今日ほど歌乃と密着して寝るような機会はなかった。

 歌乃に対して好意はあっても恋愛感情があったわけではなかったが、異性としての意識はあり、普段でも気を使う場面は度々あった。

 二人だけで遊んだり、食事に行ったりするのは特に気にも止めていなかったが、二人だけの部屋で触れ合いながら寝るという現実については、流石に動揺せざるを得なかった。


(こういうのって、吊り橋理論とかストックホルム症候群とか、なんて言うんだっけ……)

と、樹は余計なことを考えて気を紛らわせようとするが、一向に眠くならない。しかし、身体を動かすと眠っている歌乃を起こすかもしれないと考えてしまい、寝返りも打てないまま、時間だけが過ぎていった。

 煩悩に打ち勝つため樹は目を強く閉じ、頭の中で羊を数え始めたころ、


「ねぇ樹、まだ起きてる?」

 突然、歌乃から声をかけられた樹は、少し焦りながら応対する。

「あ、うん。……まだ起きてるよ」

「……今日のこと、謝っておこうと思ってね」

「え?」

「1階のお店で言ったことだよ。『私を守ってね』って」

「……」

「ゴメン、あれでプレッシャーかけてしまったね。だから、あんな危険なことを……」

「いや、あれは……、僕が、単純にバカなことしただけで……」

「でも、私の前でカッコつけようとしたからなのはあってるでしょ?」

「あっ、うん……。その…とおり、だけど……」

「軽い冗談のつもりだったんだよ。樹よりフィジカル面で強い私が戦う方が適役だしね」

「…………うん」

「もちろん、それで樹のプライドが傷ついているのはわかってるよ。でも、私達が今、生き残るためにはそうするのが一番だ」

「……それはわかってるけど、どうしても理屈で納得できない部分もあったんだ。やっぱり僕が歌乃を守らなきゃって」

「うん、ありがとう。その気持ちもわかっているよ」

「気持ちだけで生き残れるような状況じゃないこともわかってるんだけど……、そういうところも含めて僕はまだ弱いんだろうね……」

「そんなことないよ。ゾンビに立ち向かって行けるだけでも十分立派に強いよ」

「歌乃ほどじゃないけどね。……ありがとう、気が晴れたよ」

「それは良かった。明日も"一緒に"生き残れるよう頑張ろう」

「うん……」


 樹は、2階での失態について、まだ負い目を感じていたが、歌乃からのフォローもあって、自信を取り戻しつつあった。


(僕のプライドを犠牲にすることで僕達が生き延びられるならそれで良いじゃないか……)

 1つの答えにたどり着いた樹は頭がすっきりし、そして、急に気が抜けて眠気が強くなっていった。


「じゃあ、そろそろ寝るよ。おやすみ、歌乃」

「うん、おやすみ」

(できれば、ゾンビに立ち向かう勇気をもっと別の方向に向けてくれたら嬉しいんだけどね)

 そう軽く願って、歌乃も眠りにつこうと目を閉じた。



 二人がようやく眠りにつき、外から雨音だけが小さく聞こえる。

 静かな夜がこのまま続くと思われたが……、


『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!』

 突然、大きな音がビル内に鳴り響いた。


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