045. 迷走とその果てに
女の子がジッと阿依の顔を見つめ、見つめられた阿依は言葉を失って見つめ返している。泰智も琴音も女の子の姿に驚きを隠せていない。
女の子はまだ幼さを残す容姿であったが、その人間離れした肌の色や血で染まった口元を見れば、動揺や忌避感を覚えてしまうのは無理もなかった。
しかし、女の子はそんな三人の態度を気にする様子も無く黙ったままである。
女の子は何を考えているのかもわからない表情をしていたが、しばらくして女の子が身体ごと阿依の方へと振り向くと、女の子を見つめ続けていた阿依は目をさらに丸くしていった。
女の子が着ていた服の前面は、ところどころベッタリと血がついて汚れていた。
そして、その汚れた部分からさらに下、腹部の辺りにいたっては服がズタズタに破れており、その敗れた服の間から見える身体は内側に大きく抉れていた。どう見ても致命傷としか思えない大怪我を負っていたのである。
だが、当の女の子は何事も無いかのように固まった表情のままであり、痛みも感じていないかのように振舞っていた。
そして、もう一つ。
女の子の手は目の前に倒れている女性へと伸びていたが、その手は女性の身体に触れていたのではなく、女性の脇腹にできていた大きな裂傷の中へと潜っており、そこからまるで袋からお菓子でも取るかのように女性の中から"赤黒いモノ"を取り出していた。
その"赤黒いモノ"を女の子はおもむろに口へと運んだと思うと、そのまま『クチャクチャ』と音を立てながら食べ始め、噛む度に口の端から赤い液体が垂れていき、その様を見せつけられた阿依の顔からはゾッと血の気が引いていく。
その動揺する阿依を見て何か思ったのか、女の子は咀嚼しながら阿依の方へと近づき手を伸ばし始めた。
顔色と同じく緑がかった腕に、手先だけは血で赤く染まって光沢を帯びており、それにも恐怖を感じた阿依は、「ひっ……」と小さな悲鳴を挙げて身を引こうとした。
だが、腰が抜けてしまって思うように動けず、その間にも女の子はどんどんと近づきながら、笑うかのように口を大きく広げた。
女の子の口内に"赤黒いモノ"が見え、それが阿依の目の前でぽとりと落ちた。
阿依が半ば無意識に"ソレ"を目で追ってしまったが、"ソレ"が焼き肉屋などでよく見るレバーやホルモンに酷似したものであると気づくと、今朝の板チョコ入りデニッシュパンが喉元から逆流してくるような感覚にも襲われていく。
そして、女の子が十分に近づいて、その手が阿依の身体にまで触れられる距離にまで近づいた、その時であった。
次の瞬間、阿依の身体が突然、ふわりと浮いて後ろに引っ張られていた。
阿依自身も自分の身に何が起こったのか一瞬理解できなかったが、ドンッと後ろにぶつかってそのまま立たされると、後ろに居た泰智に身体ごと引っ張られて無理やり起こされたのだとわかった。
阿依が振り向いて泰智の顔を覗くと、泰智は先ほどまでの余裕のあった表情が消えており、狼狽えているのが見て取れた。
「あ、ありがと泰智くん……」
「お、おぅ。それよりこの子、人を……」
泰智は続く言葉を濁したが、目の前の女の子が人肉を食べていたというのは見間違えようのない事実であった。その様子はもう脳裏に焼き付いて当分消えそうにない。
女の子は変わらず阿依の方を見つめながら近づいてこようとしていたが、脚に力が入らないのか立ち上がらず這うように寄ってきている。
阿依と泰智は女の子から得も言われぬ不気味さを感じ取り、どう対応すれば良いのかもわからないまま這って寄ってくる度に少しずつ後ずさりするしかなかったが、そんな二人を待たずして今度は琴音が大声を上げた。
「ちょ、ちょっと! 二人とも後ろ見て!」
二人が後ずさりを続けながらゆっくりと振り向き、そして、琴音が指差している方向を見ると、二人は目を見開いて絶句した。
そこには、道端に倒れていた人々が次々と起き上がろうとしている姿があった。血まみれで身体のいたるところに大怪我を負っており、既に亡くなっているものだと思っていたため近くを通り過ぎる際にもなるべく見ないようにしていた人々が、である。
起き上がった人々は女の子と同じように緑色へと変色した顔となっており、その姿からまるで生気が感じられないが、血走ったような赤い眼だけは輝かせ、さらに三人めがけて疎らに行進し始めていた。
「なんなんこの人らは……その子もやけど、あの顔色は何があったん……?」
「……わからんけど、あきらか様子がおかしいな」
「ど、どうするん? 私達に助けを求めてるんなら……」
「とてもオレらに助けを求めてるような顔には見えへんけどな……」
得体の知れない人々に対して身の危険を感じつつも状況が飲み込めない三人。人々はそんな三人を待つ様子も無く、着々と向かってきている。
このまま成り行きに身を任せるか、それとも何か行動すべきか。どうするのが良いのかすら考える余裕の無い様子の阿依と琴音であったが、ここでも真っ先に動いたのは泰智であった。
突然、泰智が二人の腕を掴み、強引に引っ張って人々と反対側へと駆け出そうとした。
「二人とも逃げんでッ!」
「え?」
「この人らを置いていくん!?」
「コイツら、なんかヤバい感じがする! 関わるべきやないって!」
また泰智の勘だよりで、根拠も人情も無い決断だと阿依は少し思ったが、先に女の子の異様な行為を見ていれば、この判断は正しいとも思え、琴音も同様の判断に至ったのか反論することも無く駆け出そうとしていた。
だが、逃げるにしても当然の疑問が湧き出てくる。
「逃げるってどこへ? もと来た道と逆の方向に来てるやん!」
「そんなんは走りながら考えるって!」
「考えるって……、行き当たりばったりなん!?」
「ええから早くッ!」
そうして、三人は女の子の横を通り過ぎながら、がむしゃらに駆け出していった。
まだ都市部の端に居たはずだが、走っている方向が都市の中心を目指しているのか周りの建物が段々と高くなっていき、店らしき看板もポツポツと見えてくる。
後ろを振り向くと、先ほどの緑色の顔をした人々がまだ追いかけてきている様子が見えるが、その足取りは遅く、次第に距離が離れていっている。そのことまでは良かったが、行くあても定まらずに進んでいいのか不安を抱いたままの上に、普段から運動をしていない阿依と琴音は早々に息が荒くなっていた。
「ハァハァ……あの人達は追ってきてるみたいやけど、このペースで走っていれば追いつかれへんみたいやね……」
「それは良いけど……はぁはぁ、ウチらそんな体力無いからいつまでも走ってられへんで……。あの角を曲がったら、どっかに隠れてやり過ごさへん……?」
「よし、じゃあ交差点を曲がったら近くの建物を目指すから、二人ともしっかり着いて来てや!」
ちょうど目の前に交差点が見えると泰智が先陣を切って交差点の角を曲がり、阿依と琴音がその後を追っていく。
一度、人々の前から姿を消して付近の適当な建物に入ってしまえば撒くことは容易く、そこで落ち着いて逃げる場所を決めようと考えていた。
……が、しかし、阿依と琴音が走りながら角を曲がると、そこには腕を横に伸ばしながら立ち止まっている泰智が目の前に現れた。
阿依は勢い余って泰智の背中にぶつかり、琴音も止まれず倒れそうになって思わず泰智の腕につかまった。
「んぐっ!」
「わっ! って、なんで止まってんよ!! はよ逃げらな追いつかれ……」
琴音が言葉を言い終わる前に黙ってしまい、阿依もぶつけた鼻先をさすりながら前を覗き込むと、なぜ泰智が止まっていたのかを理解した。
交差点を曲がった先には、また緑色の顔をした人達が集団で固まり座っていた。せわしなく手と口を動かしており、それが集団の中心にある人の遺体から肉を千切り取って食べている様子であることがすぐにわかった。
その光景は、この人達に捕まってしまえば同じ目に遭うのだと見せつけられているかのようであった。
「ま、また人を食べ……」
「この人ら、いったいなんなん……」
「……二人とも、まだ走れるか? こっちに気づいた奴がおるで……!」
向かって正面にいた緑顔の人が手が止まってこちらを見ており、おもむろに立ち上がると三人に向かって歩み始め、ほかの人々も三人に気づくと立ち上がって同じように向かってきている。
「やっぱこっちに来るかッ! 二人とも、反対の方へ走って!!」
「う、うん!」
「え、ちょっ! 休めると思ったのに……!」
「ごめんやけど、もうちょい我慢して!」
三人は人々を避けて別の道へと進んでいった。区画整理された都市部は網の目状に道が敷かれ、袋小路もなく延々と進んでいけるようであったが、どこへ行っても緑顔の人々が姿を現して行く手を阻み、その度に進路変更を余儀なくされる。
もう既にどちらの方向を向いて走っているのかもわからなくなっても、ひたすら走り続ける三人であったが、それも限界に達しようとしていた。
「あの緑顔の人ら……はぁはぁ、どこに行ってもおるやん……!」
「ハァハァ……もう、体力が……」
阿依と琴音はもうかなりバテているようで、このまま走り続けても長くは持ちそうにない。泰智はまだ体力的に余裕があったが、二人の様子を見て早急になんとかしなければならないと焦りを募らせながら、ふと付近を見渡すと、"ある物"が視界に入って叫んだ。
「あそこの大きな建物に逃げ込もう! あんだけ大きい所なら隠れられる場所だってあるやろ!」
ちょうど前方の視界が開け、そこに大きなショッピングセンターが姿を見せた。ショッピングセンターの入り口がある周辺には人影がいくつか見えるが、裏手にある搬入口付近は幸いにも人影が見えない。
「あの裏手の搬入口からなら中に入れそうや!」
「でも、もし建物の中にも緑顔の人がいたら……」
「そん時は、オレが何とかするわ。どのみち二人とも、もう走られへんやろ? 行ってみなわからんけど、このままよりは安心やと思うで」
「ウチはもう限界やから、泰智くんに賛成するわ……」
「私も限界やけど……うん、とりあえず建物に向かうのでええよ!」
三人は周りを気にしながら敷地内に入り、搬入口へと向かっていった。
搬入口のシャッターは開かれており、奥の方は日が入らず薄暗くなっていたが、外からでも見える場所にドアを見つけると泰智が走り寄ってそのドアを開けた。
ドアの向こう側は照明が点いて明るくなっていたが、奥から物音などは聞こえず静まり返っている。それでも泰智は臆せず中へと入り、その後から阿依と琴音が続いていった。
建物の中に入って少し歩くと、すぐに広々とした空間にたどり着き、そこは品物が大量に置かれた倉庫のようであった。
「……ここはお店の倉庫みたいやね」
「はぁはぁ……監視カメラは動いてるみたいやけど、店の人や警備員とかはおらへんな。みんな逃げたんかな……」
「しっ、静かに。まだどこに何が潜んでるかもわからへんで」
泰智が注意して周りを観察しながら進んでいくが、付近に人の居る気配は感じられなかった。そうして倉庫の中ほどまでたどり着くと、まだ安心できる場所とは断定できないが、体力を回復するためにも三人はここで休むことにした。
「ここなら人もけぇへんやろうから落ち着いて休めるな。二人とも楽にしてええで」
「うん、ちょっと休ませて……」
「もう歩くのも無理やわ……」
琴音はぐったりとしながらその場でしゃがみ込み、阿依も商品が積まれた棚にもたれかかりながら黙り込んで深呼吸をし始めていた。泰智は二人の様子を心配しつつも、黙って何かを考え込み始めている。
そうして、各々黙り込んでしまった三人であったが、しばらくして琴音が呟くように二人に話しかけた。
「なんやったんやろ、あの人ら……」
「あの緑色の人達のこと? なんか、同じ人とは思われへんような雰囲気やったけど……」
「オレもあんな肌してる人なんて初めて見たわ。……それに、人を食べるなんてな」
「アレ、ウチらの見間違いとかじゃないんやろな……。ウチらもあの緑の人らに捕まっていたら、今ごろ食べられてたんかな……」
「うん……。まるで、ゾンビみたいやった」
阿依がそう言うと、泰智も琴音も訝しげに阿依の方を見つめた。
「ゾンビ? ゾンビって、あの映画とかで出てくるやつ?」
「それは流石に無いんとちゃう? ゾンビって架空の化け物やし」
「でも、普通じゃない肌の色してて、死ぬような大怪我でも平然としてて、そのうえ人を食べるところとか、なんか特徴が合うなって……」
「そう言われると、なんか似てる気もするけど」
「あっ、もちろん私もゾンビだったなんて本気で思ってへんよ。でも、それに似た何かだったんかなって」
「まぁゾンビやなくても変な伝染病とかにかかって化け物みたいになった可能性はあるな。顔色は確かにおかしかったけど服装とか普通の人っぽかったから、ここらに元居た人がああなったんやと思うし」
「うん、それも思った……だからね、もし私達もその伝染病とかに感染していたら、あの人達みたいになってしまうんかなって……」
辛うじて無事でいると実感している最中に水を差すようなことを言ってしまい、阿依は後悔したが既に遅く、二人を見なくてもわかるくらい暗い表情となっていった。
「……ごめん、不安になること言ったね」
「だ、大丈夫やって! オレらは全然平気なんやし、感染なんかしてへんって!」
「そうやで阿依! ほら、ウチの顔とか緑色になってへんやろ! ……なってへん、よね?」
琴音が慌てて自分の顔を触って感触を確認し、釣られるように阿依と泰智もお互いを見て問題がないことを確認すると、三人はほっと胸をなでおろした。
「うん、みんな大丈夫そうやん」
「あ~よかった。阿依は何でも心配し過ぎなんやって。まだ感染するものなんかもわからへんのに」
「私の早とちりやったみたいやね、安心した」
「でも、今みたいな状況でもマイナスの視点で物を見れるところはえらいと思うで。そういうところが頭ええって思うし、オレが惚れたところやわ」
「もぅ、こんな時に恥ずかしいこと言わんといてって!」
「ええやんか、ここにはオレらしかおらへんやから」
「……目の前で惚気られると、ウチは恥ずかしいんやけどな」
「あ、それはゴメンな……それで、感染するとかの話は一旦置いといて、それよりもオレ達がいまこの状況で、これからどうするかを考えてたいんやけど」
「そういえば、朝決めた避難所行くって話も、外の様子を見た限りじゃダメそうやね……」
「あの緑の人らの目的が人を食べるってことなら、避難所があっても襲われてるやろしなぁ……」
「たぶん、もう他の人の助けは期待できそうにないし、オレ達だけでなんとかせなあかんのやけど、まずオレの考え的には、この街に居続けることはもう危険やと思ってるんやし」
「それはウチも思うわ。どこ行っても緑の人らしかおらへんかったし、ここに居続けても襲われ続けるだけやろうし」
「私としても、この街から脱出するのが良いと思うけど、それでもどこに向かうん? この街の様子やと、近くの街に行っても似たような状況になってそうやけど……」
「それは……これから皆で考えようかなって」
流石の泰智でも良い行き先は思いつかなかったようで、明に答えは避けた。街の様子を見る限り、交通機関が麻痺していることはほぼ確実で、地図があってもその場所が安全である保障は全く無い。
それでもこの街から離れるべきだと考えた以上、目的地を決めなければまた無駄に走り回るだけになってしまうが、今わかっている情報だけを頼りに目的地を考えるのは困難であった。
「う~ん、近場はあかんし、いっそ東京を目指しても都内の状況がわからんとなぁ……」
「山や海の方に向かっても安全とは限らんし、そもそも安全な場所がここら辺にあるんかもわからんし……」
「あの、一つだけ思いついたんやけど……」
「ん? 阿依は何かええ場所思いついたん?」
「その……大阪を目指すべきじゃないかなって」
「大阪? ここ神奈川やで? こっから大阪に?」
「う、うん。やっぱり私達が帰るんなら大阪かなって……」
「えと、どうやって?」
「それは……歩いてなのか、何かを使ってなのかをまた考えへんとあかんやろけど……」
「また無茶なこと考えるなぁ……でも、大阪に戻るってのはオレも賛成やな」
「ウチも帰れるなら大阪に帰りたいな。じゃあ、いっぺんその方向で考えてみる?」
「よし! なら大阪に帰るために、いろいろ考えてみよか!」
三人は大阪に帰る方法について焦点に絞って考え始め、思いついた議題や案を出し合った。
まず食料をどう入手するか、次に道具は何が必要か、どの道を通り、どの地点で寝泊まりしながら向かうのかといったなどを夢中になりながら話し合い、そうして1時間もすると大まかな指針やルールが決まっていた。
「よし、いろいろ決まったな。あとは話し合ったとおり、この倉庫内で役立ちそうなものを探しに行こか」
「そやね。けっこう大きなお店の倉庫みたいやから、食料品から道具まで何でも揃いそうやん♪」
「二人とも、あくまでも借りるだけって考えを忘れんといてね?」
「わかってるって。また一筆残して大阪に帰ったら支払うことにするからさ」
「阿依はこういう時でもほんま真面目やなぁ」
「こういう緊急事態の時こそ、ちゃんとするのが大事なんやから」
「まぁ今は遠慮せず持っていこ。ここで準備に力を入れへんと大阪に帰れるかって話やからな」
「本音言うたら、本当に大阪まで帰れるんかはまだ不安やし、けっこう大変なことになりそうやけど、なんか帰れる気がしてきたわ」
「うん。きっと大丈夫やと思うよ。私達三人なら大阪まで絶対に帰れ──」
阿依が言葉を言いかけた、その時であった。
『ガシャンッ!』
阿依の近くにあった棚から大きな物音が聞こえた。棚の反対側に何かがぶつかったような、そのような音であった。
「……えっ?」
阿依が音のした棚の方へと振り返り、じっと見る。そして、棚に積まれたダンボールの隙間から、"何か"がこちらを見ているような気配を感じ取った。
その"何か"がいったい何なのかを阿依は考えようとしたが、その答えにたどり着く前に次の事態は起きた。
再び、『ガシャンッ!』と大きな音がしたのと同時に、身の丈より大きな棚が阿依に向かって倒れ始めた。大きな棚が倒れてくると思っていなかった阿依は反応が遅れ、逃げられずにそのまま棚の下敷きとなっていく。
「えっ!?」
「あ、阿依ッ!」
泰智が阿依に駆け寄ろうとしたが間に合わず、そして倒れた棚が別の棚にぶつかっては連鎖的に崩れていって積み重なっていく。
「どうしよ……! はよ助けらなっ!!」
「わかってるって!!」
それでも泰智は助けようと阿依の埋まっている場所に近づこうとしたが、その途中で足が止まった。
「な、なんで……こんなところまで……」
泰智の目の前には、いつの間にか建物内にまで侵入していた緑顔の人々が大勢立っていた。棚が倒れた原因を作ったのが目の前の緑顔の人々で、さらにその人々は、今は自分達を狙っているのだと泰智は理解すると、この状況でいったいどうすれば良いのかを必死になって考え始めた。
だが、その泰智が考えている間にも埋まってしまった阿依は次第に気が遠くなっていく。
「た……泰智、く……」
そうして、棚とダンボールの山に挟まれたまま、阿依は気を失っていった。




