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ゾンビシティサバイバル  作者: ディア
第1章 - サバイバル編
22/57

022. 大型商業施設攻防戦 当日 (二)

 3階から桜庭(さくらば)が2階のゾンビ達を見下ろし続けている。


 将棋倒しになっていたゾンビ達は起き上がった後に再びエスカレーターを上ろうとしているが、桜庭達の思惑どおりゾンビの足ではエスカレーターを逆走できず一向に上れない。


 そのゾンビ達の不毛な行為の後ろで悠気(ゆうき)は、桜庭に監視され続けているこの状況からどうすべきかを必死に考えていた。

 いきなりの出来事に悠気は少し混乱気味であったが、目の前に見えている大男が単純な力押しだけでどうこうできるような相手ではないことだけは混乱した頭でも理解することができていた。


 ゾンビを一撃で倒す力強さもさることながら、ゾンビの大群を見て臆することも、また狼狽(うろた)えることもなく一人で冷静に対処し、ゾンビ達を容易く撃退した判断力と胆力(たんりょく)は、それらが並の人間以上であることを(うかが)わせる。

 どれほど多くのゾンビを集めようとも、決して勝てないと思わせるには十分な相手であった。


(とりあえず、一旦この場から逃げなければならないのは確かだが……)


 悠気がこのまま逃げたとしても、上の階から眺めているだけの桜庭が追撃してくる可能性は低いだろう。

 それは悠気自身も理解していたが、何の成果もないまま一度きりの不意打ちのチャンスを無くし、相手に警戒させるだけさせて逃げ出したとなると、1階でゾンビと合流して仕切り直したとしても、それで襲撃が成功する可能性は限りなく低い。

 つまり、今この場から逃げるということは、このショッピングセンターの襲撃自体を諦めることと同義であった。


 目先の命をとるか、それとも次に繋がる何かを実らせることができるか、悠気の心中ではギリギリのせめぎ合いを繰り返し、今の状況下で何が出来るのかも思いつかないまま動くにも動けず、答えが見つかるまで待たざるを得なかった。


 対して桜庭は、3階までゾンビが上ってくることを未然に防げたことに安堵していたが、これからどうすべきかまでは思いついていなかった。

 2階のエスカレーターが故障により停止し、それでゾンビ達が2階にやってきたということまでは推測しているが、エスカレーターを修理しに行くどころか、近づいて原因を確かめに行くことすら出来ない。


 3階のエスカレーターは今まで停止させていたのですぐに故障する可能性は低く、これさえ動かしていれば3階までゾンビがやってくるとは思えないが、朝になって2階がゾンビだらけだと知られれば避難者達が動揺するのは必至だ。

 3階まで運んできていた飲食物がまだ残っているとはいえ、1階の食料品売り場まで行くことが難しくなったとわかれば、パニックに陥る人も出てくるかもしれない。


「まったく、せめてあと1日経ってからであれば良かったんだが……」


 桜庭は、避難者達を安心させるための釈明と、明日から2階のゾンビ達をどうやって排除するかについて頭を悩ましつつ、とりあえず今は2階のゾンビ達を警戒し続け、朝になるまで待つしか無いと考えていた。


 悠気と桜庭、両者は図らずもお互いが待ちの一手となる。

 まだ数分と経っていないにも関わらず、時間の経過は非常に長く感じられ、時間が経てば経つほど不利になる悠気は焦りが(つの)っていく。

 このまま無作為に待ち続け、今から何か行動したとしても事態が好転することは望めないだろう。


(もう、これ以上ここに居るのは限界か……)


 悠気が諦め始め、(きびす)を返して1階に戻ろうとした、その時──。



「桜庭さん!」


 3階で桜庭を呼ぶ声が響いた。名前を呼ばれた桜庭は声がした方向へと振り返る。

 振り返った先には、駆け足で向かってくる浩司(こうじ)達也(たつや)の姿が見えた。

 二人の手には、それぞれ針金や金属板で補強したバットを持っている。


「お前達か」

「何か警報がなったとか聞きましたけど、何かあったんですか?」

「…………」


 桜庭は伝えるべきかどうか少し悩んだが、戦力としては、まだあてにできる二人に状況を理解しておくべきだと判断し、重たい口を開いた。


「……ゾンビがここまで上ってきていた。撃退はしたが、まだ2階には何体か居るようだ」

「マジッスか……」

「おそらくだが、2階のエスカレーターが壊れて止まったんだろう。ここ数週間、メンテナンスもせずにずっと動かし続けていたからな」

「じゃあ他のエスカレーターも……」

「あぁ、いつ壊れてもおかしくない。3階までのエスカレーターはまだ保つだろうが、それも長く見積もって、……あと数週間だろうな」


 この言葉を聞いて、ようやく達也は、桜庭が娘と離れ離れになってまで避難させたがった理由を理解した。

 このショッピングセンター内をよく知っている桜庭は、あとどれだけショッピングセンター内の設備や備蓄が保つのか、ある程度は予想がついていた。

 そして、それがもう幾ばくも保たないのではないかと懸念を抱き続けていたのであった。

 桜庭が口に出さないだけで、おそらく他にも懸念している問題があるのだろう。


 『一刻も早く娘を安全な場所に避難させたい』という想いと、自身が決めた『全員を救う』という想いから妥協できる点を考え、桜庭は、自分は残って娘を先に避難させるという答えに行き着いたのであった。



「とりあえず、暗いままだとゾンビを見つけ難いんで、3階フロアの照明を点けに行った方がいいッスか?」

「いや、このままでいい。これ以上、ここにゾンビを呼び寄せるのもマズい。それに皆が起きてしまう」

「えっ? 起こさなくて良いんですか?」

「こんな暗闇の中で騒ぎを起こされたら収拾がつかないからな。起きてうろちょろされる方が危ない」

「あぁなるほど、確かにそうッスね」


 会話している間に、桜庭はエスカレーター近くに置かれていた椅子を引っ張って腰掛け、座りながらエスカレーターを見張り始めた。


「オレはここを見張っておくから、お前達は家具屋に戻って避難者が全員いるか数えてきてくれ。ついでに、他のエスカレーターからゾンビが上って来ているかもしれないから、何人かは見張りにつくよう伝えておいてくれ」

「了解ッス!」

「桜庭さんなら大丈夫だとは思いますけど、気をつけて」

「あぁ、お前達もな」


 浩司と達也は張り切って言葉を返すと、そのまま家具屋の方へと戻っていった。

 残った桜庭は引き続きゾンビ達を見張り続ける。


 ゾンビ達は相変わらずエスカレーターを上ろうとしていたり、諦めたのかぼーっと突っ立っているだけであった。

 しかし、2階に居るゾンビが、先ほどから1体だけ減っていることに桜庭は気づいていなかった。



────


 ……なんとか、逃げ延びられた。


 良いタイミングで大男の気をそらしてくれたお陰で、俺は無事エスカレーターから離れることが出来ていた。

 とりあえず、いろいろと考えをまとめながら中央のエスカレーターまで行き、そこから1階に降りよう。


 あの3階に居た奴らの会話を聞いた限り、やはりこのショッピングセンターにはまだ大勢の人間が居るようで、推測どおり3階の家具屋に集まっているらしい。


 そして、あの大男はゾンビの大群を見ても逃げもせず、また強行突破もせずに籠城することを選んだ。

 という事は、逃げる必要が無いと思えるほどの自信家なのか、それとも逃げるのが困難だと考える要因があったのか……、何にしても"逃げる"という選択肢は考えていないようであった。


 要するに、今晩中であればまだ人間達を襲撃するチャンスがあるということだ。



 そうだ。

 俺はまだ、このショッピングセンターを諦めたわけじゃない。


 襲撃には失敗したが、人間達の居場所が正確にわかり、2階も比較的安全な場所であることはわかった。なら、今度はもう少し作戦立てて襲撃することが出来るはずだ。


 それに、真っ先に駆けつけて来た大男は、一人だった。

 普通に考えれば、どんなに自信があってもゾンビの襲撃があるかもしれない暗闇の中を単独行動なんてしないはずだ。

 なぜ、あの大男が単独行動に走ったのか理由を考えればいろいろと思いつくが、あの大男が他の人間達を戦力としてあまりあてにしていないと考えるのが一番しっくり来るだろう。

 つまり、あの大男さえどうにかすれば、他の人間達を襲う機会は十分あるはずだ。


 まぁ、今はとにかく1階に行き、そこでゾンビ達を集合させながら何か使えるものが無いか探そう……。


────


 桜庭は一人でエスカレーターの見張りを続けており、特に何事もなく時間が経過していく。

 日中に体を動かし続けていた疲れはまだ残ったままであったが、目の前に見えるゾンビ達が良い具合に緊張感をもたらし続けていた。


「まぁ、朝までの辛抱だ……」


 桜庭は椅子に座りながら上半身のストレッチを行い、いきなりゾンビが襲ってきても立ち向かえるよう万全の体制を崩さない。


 この時、桜庭はゾンビが2階までやってきたこと自体に危機感をあまり抱いてはいなかった。

 朝にさえなってしまえばどうにでも出来る、それぐらいの認識であった。


 そしてその認識は、思いがけない形で崩れることになる。



「さ、桜庭さんっ!!」


 桜庭を呼ぶ声とともに達也が走って戻ってきた。今度は一人だけである。

 先ほど来たときよりも急いでおり、何か焦っている様子でもあった。


「はぁ、はぁ……。あの、桜庭さん……」

「どうした、何かあったのか?」


 達也の様子がどうもおかしい。

 暗くて顔色まではよくわからないが、その口ぶりからは何か良くないことが起きたのでは、と桜庭は直感した。

 そして、達也が呼吸を少し整えてから、ゆっくりと話し出した。


「その、娘さんが……、家具屋で見当たらないんですよ」

「…………なんだと?」

「いつもの寝場所以外に、トイレや食料置き場の方も隅々まで探したんですけど、全然見当たらなくて。今も浩司の奴が残って探してるんですが……」

「ゾンビがいるかもしれない場所に、栄理(えいり)が一人でどこかに行ってるって言うのか!?」


 この報告を聞いた桜庭は珍しく大声を張り上げ、その顔は一瞬にして青ざめていった。

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