表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビシティサバイバル  作者: ディア
第1章 - サバイバル編
20/57

020. 大型商業施設攻防戦 前日 (二)

 子供の頃、こんなショッピングセンターや学校で居る最中に何故かゾンビやテロリストに襲撃され、普段は影の薄い俺が知恵と勇気を振り絞って襲い掛かってくる敵を撃退する──。


 ……なんて妄想もよくしたが、まさか自分がゾンビになってショッピングセンターを襲うことになるとは思ってもみなかった。

 もし、ゾンビになった後のことまで考えて生きている人間がいたとすれば、それは相当暇人なのか、頭のおかしい奴だろう。

 幸いなことだが、俺はそこまで暇人でも頭のおかしい奴でも無かったという訳だ。


 ……もっとも、今はそれを考えなければならないのだが。まぁ、ゾンビになってしまったのだから仕方がない。

 次こそは獲物を仕留めて空腹を満たすため、目の前のショッピングセンターにどう攻め入るか考えなければ。



 俺は、日が登り切る前には目的地であるショッピングセンターに辿り着いていた。

 遠目に見て、ショッピングセンターは静かに佇んでいるだけであったが、そこに人間が立て籠もっている確信はあった。

 まぁ、ここに居なければ他のどこに人間が居るのかもわからないという話でもあったが。


 もちろん、まったくの勘という訳ではない。

 なぜ人間が居るのだと分かるのかと言うと、ショッピングセンターの周りに飲食物のゴミが目立つくらい散乱していたからだ。


 これは推察だが、ショッピングセンター内にいる人間達はゴミの処分を窓から投げ捨てることで解決しているのだろう。

 決して褒められた処分方法ではないが、ショッピングセンター内を生ゴミの臭いで充満させるよりは合理的な処分方法だ。



 ゴミが落ちているのは良い。

 だが、俺が気になったのは、……その"ゴミの量"だ。


 立て籠もって何日経過しているのかは判らないが、遠くから見える分だけでもゴミの量はかなり多いことが見て取れる。

 雨風でどこかに行った分を考慮すれば、もっと多いゴミがあったのだろう。


 ここからは感覚レベルの推測話になってしまうが、このゴミを生み出したのは明らかに数人単位ではなく、十数から数十人規模だ。

 それはつまり、今のショッピングセンター内には十人以上の人間が潜んでいる可能性があるということになる。


 最初は一人、次は二人を相手して敗北し、その次は十人以上を相手にする……。

 数だけ見れば今まで以上に厳しいが、俺の目的はショッピングセンター内の人間を全滅させることじゃない。

 十人以上の中から一人でも捕まえて食べられれば良いのだからチャンスが増えたのだと前向きに捉えよう。



 ……だが、やはり数に対する心の不安は誤魔化しきれなかった俺は、ふと周りを見渡すと近くにいるゾンビの数が心許ないと思ってしまい、それで今の今まで付近に居るゾンビ達を誘導してショッピングセンター前まで引き集めていたのであった。


 ただ、その作業をしている最中に気づいたことがある。

 ゾンビの見た目からは違いがわからないが、ゾンビ達にも性格というか個体差があるようで、駐車場に集めてもすぐ勝手にどこかへ行くゾンビが居たり、近くで警笛を吹いても反応が悪いゾンビが居たりと、ゾンビ達を集合させるのには相当苦労してしまった……。


 こういうところを見ると、ゾンビ達も元は個性のある人間だったのだと思い出させてくれる。

 人間を狩るために都合よく利用しないといけない存在であるとはいえ、血の(かよ)ったゾンビ達と行動していると思えば、孤独に戦うという気持ちも少しばかり薄れていく気がした。


 そんな彼ら・彼女らを集めるのに手間取ってしまったが、あのビルの時のようにゾンビの手が足りないという事態には陥らない数まではなんとか集められたので良しとしよう。



 それで、数的な戦力が整ったので、ようやく落ち着いて安全にショッピングセンターの確認ができそうだ。

 まずは外観から判ることを整理しておこう。


 パッと見た限り建物は4階建てで、西から東にかけて大きな弧を描くような構造になっている。建物横には車が登れる坂道があることから、屋上は駐車場になっているのだろう。

 中の様子次第でもあるが、店内の西端から東端まで歩こうとすれば数分はかかりそうだ。


 大体の距離感と侵入経路を確認するため、俺は建物の周りを歩き始める。

 正しい出入り口だった場所はいくつか見つかったが、いずれもシャッターが降ろされていたり、簡素なバリケードが出来ていたりと封鎖されていた。

 だが、1階に関してはガラスが割られて自由に出入りできる所が多く、そこから侵入できそうだ。この様子だと、中の人間達は1階の安全確保を諦めているだろう。

 

 ショッピングセンターの外観確認もここまでは順調で申し分ない……はずだったのだが、建物周辺を歩いている最中、俺は直視し難いものを見つけてしまった。


 周りを歩いて見つけた小さな出入り口の一つ、地面からは少し段差になって柵で覆われている場所を見つけた。

 建物の裏手側なのでゾンビ達にも気づかれにくい場所であったが、その柵の外側には、おびただしい数のゾンビが倒れていた。


 1体、2体の話ではなく、軽く見える範囲でも数十体のゾンビが山を作っている。

 いずれのゾンビも首や頭を潰されていて致命傷を負っている様子であったが、まだ生きているゾンビも居るようで、無事な目や口を動かしたり、まるで助けを呼ぶような(うめ)き声を上げている者もいた。


 俺は、その光景に思わず目を反らしてしまった。

 この惨状が人間達の手によって作られたのは間違いないだろう……。


 状況が状況だ。たとえゾンビが人の形をしていたとしても、人間がその扱いをぞんざいにするのは仕方がない。

 だが、これだけ多くのゾンビ達を倒せる人間達が居ることと、さらにその人間達が居るはずのショッピングセンター内に今から挑みに行こうとしているという事実は、間違いなく俺の心を揺さぶった。


 ……いや、危険なのは重々承知だ。

 今ならまだ怖気づいて逃げ出すことはできるが、それでは空腹を満たせない。

 それに、ここ以外で確実に人間が潜んでいる場所も思いつかない。ここを逃せばいよいよ餓死しかなくなるだろう。

 どの道、今の俺に逃げることを選択する余裕は無い。



 太陽が沈んで辺りが暗くなり始め、ショッピングセンター内が暗闇で満たされてきた頃、俺はようやくショッピングセンター内を調査することに決めた。

 念のためゾンビを何体か引き連れながら、1階の東側に近い場所から侵入する。


 暗闇の中では非常灯と案内板だけが浮いたように輝いており、まだ眼が暗闇に慣れきっていないが、うっすらと棚や柱の輪郭も見える。

 1階に人間が隠れ潜んでいるとは思えないが、それでも慎重に進んでいかなければと俺は気持ちを整えた。


 侵入した店は服屋が入っていたようで、白い服を着たマネキン人形がぼんやりと浮いて見えている。

 一瞬だけ、それを人間と見間違えて焦ったが……、落ち着け、この階に人間が居ることは普通に考えればあり得ない。


 1階部分までは俺の安全地帯だ。

 用心するに越したことはないが、必要以上に臆病になる必要はない。

 そう自分に言い聞かせ、さらに奥へと進んでいく。

 

 まずはフロアガイドを探して内部構造を把握したい。

 そんな事を考えながら暗闇を進んでいると、突然、背後で『パキッ』と音がした。

 俺は、心臓が止まるかと思うほどの驚きと恐怖で身体が強張り、急いで身を屈めて近くの物陰に隠れ、周りを見渡した。



 ……どうやら、後ろに居たゾンビ達がガラスか何かを踏んで割れる音を響かせたようだ。

 ゾンビがゾンビに驚かされたということに思わず苦笑してしまったが、自分の認識している以上に臆病になっているのだと思い知らされた。


 まぁ、所詮そんなものだ。頭でどんなに言い聞かせても、怖いものは怖い。

 その恐怖まで克服できるほど、俺は化物にはなれないようだ。

 今まで半端な人生を送ってきた俺らしい、半端にゾンビで、半端に人間の状態。


 そんな状態でも俺はまだ生きて、お腹を空かせている。

 恐怖を噛み締めつつも俺は足を再び動かし、案内に従ってインフォメーションへと向かった。



 しばらく歩いて眼も十分暗闇に慣れてきた頃、俺はようやくインフォメーションに辿り着いた。

 さっそくフロアガイドを見つけて確認する。


 大きな立て看板に描かれたフロアガイドには各階の見取り図とお店の名前がずらりと並んでおり、ショッピングセンター内が分かりやすく解説されていた。

 とりあえず、どこに何があって、人間達はどこに潜んでいるのか目星をつけるため1階ずつ見ていこう。


 1階には先程通ってきた服屋や鞄屋、時計屋といったブランドショップの他、食料品売り場やフードコート、それに薬局や100円ショップ等の生活雑貨屋が連なってあるようだ。

 この階に人間達が安心して隠れられそうな場所は無いが、食料品売り場があるので、ここから人間達は食料調達していそうだ。

 できれば後で行ってみたい。俺でも食べられるような物が残っていると嬉しいが。


 2階は小さなアパレルショップが中心で、他にも本屋や楽器屋といった店が入っている。

 ここも過ごすには少し不向きだろう。すぐ下の階にゾンビが居ると思うと、おちおち寝てもいられないはずだ。

 そう考えれば、2階もまだ人間の居ない安全な場所である可能性が高いだろう。


 そして、3階。

 家電製品屋とおもちゃ屋が建物西側を大きく占有しており、そこから東にかけて小さな雑貨屋がいくつも入っていた。

 そして、反対の東側には、西側と対するように家具屋がフロアを占めている。


 ……おそらくだが、この家具屋が人間達の根城になっているだろう。

 家具屋なら寝るためのベッドや布団には困らないし、バリケードも組みやすい。

 それに、これだけ広ければ何十人でも生活できそうだ。


 4階の方はレストラン街とのこと。

 ここは特に気になることも無い……。どんなに良さそうな店があったとしても、もう店が開くことも無ければ、俺が食べる事も無いだろうから。


 屋上については、外からも分かっていた駐車場になっていた。ここについても特に気になることも無い。

 駐車場と言うだけあって車が何台か停まっているのかもしれないが、このゾンビの身体で運転なんて出来る訳がないし、そもそも車があったとしてもキーを持っていない。

 ……過去の苦い教訓から人間達を屋上に逃がすようなことは好ましく無いが、相手の出方がわからない以上、存在を忘れないよう気をつけるくらいしか出来ないだろう。



 ……良し。

 一通りフロアガイドを確認した結果、俺の目標は3階東側の家具屋を目標として襲撃することに決めた。どう考えても、ここに人間達がいる可能性が高いからだ。

 目標を定めたところで、次はどう攻めるかを考えなければ。


 フロアガイドを見た限り、階段は東側と西側の端の方にだけ設置されており、それ以外はエスカレーターとエレベーターが、東・中央・西と3箇所に分けて設置されている。

 これらを使って上の階へと上らなければならないが、人間側が使えないよう封鎖している可能性も考え、これら移動手段が使えるのか実際に確認しに行くことにした。


 まずは、近場にある階段とエレベーターから。

 東側出入り口付近まで移動すると、出入り口すぐ横にエレベーターが2基あるのを見つけた。


 現在、どの階に止まっているのか現すインジケーターが点灯しており、それぞれ3階と4階に止まっていることがわかる。

 どうやら、エレベーターは問題なく起動しているようだ。

 実際に動くかどうか試したかったが、もし人間達にエレベーターが動いていることがバレるとまずいので、そこまでは確かめないでおこう。


 そして、エレベーターから更に奥まった所に階段があったようだが、残念ながら防火シャッターが降ろされていた。

 ゾンビの力があれば、防火シャッターくらいなら破れなくもないが、上の階でも防火シャッターを降ろしている可能性が高い。

 無理に突破して反撃される危険を犯すくらいならこのままにしておこう。


 さて、次はエスカレーターだ。

 停止させられていたとしても階段として使える上、エレベーターのような操作も不要。

 ゾンビ達でも自力で使える移動手段として使い勝手は良いはずだ。


 少しだけ期待しながら俺はエスカレーターへと向かい、そして辿り着いた時、少しだけ驚かされた。

 暗闇の中、誰もいない場所であったが、エスカレーターは静かに動いていた。


 ゾンビが上ってこれないように何かバリケードで封鎖していたり、電源を落としていることを考えていたが、ごく普通に動かしっぱなしだ。


 これで何故ゾンビがエスカレーターで2階に上っていかないのだろうか。

 静かに動くエスカレーターを眺めながら俺は考えていたが、しばらく眺めていて妙な部分に気がつくことができた。


 エスカレーターは2本並んで動き続けており、片方が上り方向で動き、もう片方は下り方向に動いているはずだ。

 だが、目の前にあったエスカレーターは両方とも下り方向に動いていたのであった。


 ……なるほど、エスカレーターを両方下り方向にしておけば、足の遅いゾンビだとエスカレーターを上り切ることは出来ない。

 そして、人間の速力であれば下り方向に動くエスカレーターでも上り切ることは可能だ。


 即席で実に効果的なゾンビ対策だと感心する。だが、それと同時に抜けのある対策だと俺は看破した。

 人間側に考慮しろと言う方が無理な話でもあるが、まさか、ゾンビがエスカレーターの下部にある非常停止ボタンを押せるなんて思ってもみないだろうな。


 このエスカレーターは人間達の不意を突くのに最適だ。

 これを基点にして、攻め入る準備を進めていこう。



 襲撃は今晩だ。

 人間達が寝静まってから、こっちは動き出そう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ