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ゾンビシティサバイバル  作者: ディア
第1章 - サバイバル編
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002. 知らない街の観光

 バス停で数分程度待ったあと、路線バスが到着した。


 バスは街中でもよく見かける大型タイプのもので、思っていたとおりバス内には他の客が少なく、席も空いている。

 初めて来た街並みを眺めたい気持ちもあり、左側窓際の席が空いていたので俺はそこへ座ることにした。


 俺以外の客も何人か乗ったあと、程なくしてバスが動き出す。

 駅前のバスロータリーをぐるっと回り、広い道路の方へと出ていった。


 路線バスなため、直接会社方面ではなく色々なバス停へと向かいながら進んで行く。

 電車からの見飽きた風景とは違い、街並みを走るバスの風景は見ているだけで目新しく映り、会社までの短い時間だが、俺はいつしか見知らぬ土地を眺めるちょっとした観光気分になっていた。



 しばらく道なりに進んでいると、いくつかの住宅街と、大きな建物が見えてきた。


 大きな建物は三階建で、どの階にも等間隔に窓が設置されており、建物の側には大きく長い柱と緑のネットで囲われたグラウンドが併設(へいせつ)されている。

 建物の周りも2メートルくらいのブロック(へい)で囲まれており、塀が1箇所だけ開いているところにも大きな門扉(もんとびら)があるのが見えた。


 その開いているところに、少し着崩したブレザーの男子学生や、やたらとスカートの短い女子学生が入っていく。

 遠目であるが、背格好から高校生のように見える。ということは、この大きな建物は高校だろうか。


 高校の前を過ぎ、続けて周りの景色を眺めていると、小中学校や大学も近くにあるようで、大学名が書かれた看板や通学路の標識と共に、歩道を歩く小さな学生や大学生らしき若者を多く見かけた。


 俺の学生時代には特に良い思い出も悪い思い出もないが、学生時代はもっと勉強すべきだった、地元の同級生は今も元気に生きているんだろうか、なんてことを考えながら、登校する学生達をゆったりと眺めていた。



 またしばらくすると、学校エリアを抜けたのか、次第に役所や病院が見えてくるようになった。あまり面白い景色ではなくなったが、ときおり路線バスが止まっては人が降りていく。


 役所への手続きか、それとも病院か。

 ここ近年、老人比率は加速度的に増加しており、役所や病院は老人達による渋滞が頻発している。


 さらに、朝早く役所や病院に向かっても老人達の朝も驚くほど早いため、けっきょく何時に行っても受付は渋滞しているらしい。

 そのため、役所や病院に行く場合は平日休んでも朝から早い目に向かい、渋滞を織り込んでおくというのが常識となっている。


 窓から眺めていても憂鬱(ゆううつ)そうな顔した人々が、老人達より我先にと役所や病院に向かって歩いている。

 そんな人達を尻目に、路線バスはそのまま次の場所へ向かっていった。



 何度か道を曲がり、中央分離帯を挟んで片側二車線となる大きな道路に出ると、道に沿って様々な店が立ち並ぶ場所に到着した。


 どうやら商業エリアに出たらしい。

 時間が早いので閉まっているお店も目立つが、服飾雑貨屋から本屋、スポーツ用品店、スーツ屋といろいろな種類のお店や、和洋中それぞれの飲食店が多く立ち並んでいる。


 また、少し離れたところに大きな建物が見え、屋上に設置された一際目立つ看板から、それが大きなショッピングセンターのものだとわかった。


 そういえば、満員電車に乗ってる時に見たことあるような看板だった気がする。

 場所までは把握していなかったが、この辺りだったとわかったのはちょっとした発見だった。


 歩道や通りの方でも人をちらほら見かける。

 今はまだ大して人がいないが、この商業エリアは食事時間時や休日になれば、かなり賑わっている様子が容易に想像できた。


 俺個人としては、こういう場所にショッピングや食事に来ることはまず無いだろうが。



 外の景色にひととおり満足し、観光にも少し飽きてきた俺はバス内の壁に貼られているバス路線図を再確認した。

 ついさっき着いたバス停と残りのバス停の数からして、まだ会社近くのバス停に着くまでは時間がかかるようだった。


 ふとバス内を見回すと、いつしかバス内には俺しかいない状況になっていた。

 AIによる自動運転タイプのため、運転席にもバス運転手は居ない。


 バス内の妙な静かさと、俺しかいない孤独感と優越感を入り混ざったような気持ちに少し心がざわめく。


 いつもは満員電車でパーソナルスペースを散々侵害されているせいもあり、なおさら慣れない気持ちになるが、たまにはこういう通勤も悪くないと自分に言い聞かせた。



 次から電車が遅延したらこの通勤路を使おう、なんてことを呑気に考えていたところ、突然、『ガシャン!!』と大きな音が鳴った。


 何かあったのかと周りの窓から覗いてみたところ、反対車線で車同士が衝突していたのが見えた。


 信号待ちで停車していたミニバンに後ろから車が追突したようで、しかも、追突した車はかなりスピードを出していたらしく、車の前面を大きく破損しながら横転して、ミニバンの方も後部がグシャグシャになっている。


 かなり大きな事故が起きたな、と眺めていると、横転した車から運転手らしき男性が這い出てくるのが見えた。


 その動きは鈍く、遠目で見える範囲でも上半身は赤く染まっており、これだけの大事故で生きているのが不思議なくらいに思える。


 事後現場近くにいた人達も這い出た運転手を見つけたようで、急いで近くに駆け寄っていく。スマートフォンを取り出して救急に電話している人もいるようだ。


 二人の若者が這い出ている男性に近づき、車から引っ張り出す。

 男性は酷く取り乱しているようで、何度も若者達の手を振り払おうとしたり、掴みかかったりしているように見えた。


 事故は大変だったが、運転手はあれだけ元気があれば助かるだろう。

 このままもう少し見届けてあげたかったが、乗っているバスは何事もなかったかのように、そのまま事故現場の前を通り過ぎていった。



 バスの運転がAIによる自動運転になったおかげで直接事故にでも遭わない限り、バスは基本的に時刻どおり進む。


 安全対策も万全で、前後左右にいる車の動きまで測定して適切に走行し、急な飛び出しも感知して回避行動やブレーキを行う、らしい。


 今や、AIによる自動運転は人が運転するより安全だ、なんてことを何かのネットニュースで見た記憶がある。

 このバスに乗っている限り事故を起こすことはまず考えられないが、さっきのような停止中の貰い事故の場合は避けようがないだろう。


 なんてことを考えている俺のことなど気にせず、バスはスピードを上げて直進し続けていた。



 しばらく走っていると、前の方で黒い煙が上がっているのが見えた。

 火事かあったのかと思ったが、バスがどんどん煙の近くに近づくにつれ、その黒い煙の正体が何なのかわかった。


 道路の側にあった中華料理屋らしき場所に、古いセダンタイプの車が文字通り突き刺さっており、炎と共に黒い煙がもうもうと吹き出していた。

 燃えだして時間が経過しているのか、車の塗装が溶け剥げ、焦げた金属部分が(あらわ)になっている。


 いったい、何をどうしたら、車が店に突き刺さるのだろうか……。

 燃えている店の近くに2、3人ほど人がいたが微動だにせず、ただ燃えている店と車を眺めているだけだった。


 店内にいた人と車の運転手はどうなったかわからないが、それは想像に(かた)くない。


 この悲惨な情景を前にしても、バスはスピードを(ゆる)めることはなかった。

 まぁ、バスAIが突然意思を持って火事現場に駆け寄ったところで、消火どころか消防車を呼ぶことさえ出来ない。

 人間からしてみれば冷淡にも思えるが、流石にそれは期待しすぎか。



 しかし、立て続けに大きな自動車事故が起こるとは珍しい。

 見たところ、今走っている道路の交通量はそこまで多くない上に直線が続いているため、皆スピードを出し過ぎて運転しているのだろうか。


 そういえば、この道路に入ってから周りの車は、いずれもバスよりうんと早いスピードで走り抜けていた。

 そのせいで普段から事故の起こりやすい場所なんだろうが、こういう場所こそ警察のネズミ捕りをするべきだと思う……。


 そんな事故多発地帯を走るバスもどうかと思うが、今はなるべく早くこの地帯から安全に抜け出て欲しいと思うしか無かった。


 事故を起こす可能性は低いはずだが、少し緊張した気持ちでバスの行く先を眺める。

 バスの方は何も変わらず目の前の道をひたすら進んでいくだけだった。



 黒い煙の元が見えなくなるまで進んできた頃……、


 まただ。

 今度は同じ車線で、数百メートルほど先に、軽自動車が街路樹(がいろじゅ)に衝突して歩道に止まっていた。

 軽自動車の左側から勢いよくぶつかったのか、助手席付近は丸々()ぎ落されており、車内が大きく露出しており、周りにはガラスが散らばっているのか、太陽光に反射して地面がキラキラ光っている。


 そして、その軽自動車の前に人影が見える。

 少し太り気味で40代後半くらいに見えるオバサンのようだった。


 少し左右にふらついており、何をしているのか道路の真ん中で突っ立ったままだった。

 単独事故をやらかして絶賛放心中といったところなのだろうか。


 しばらくしてこちらのバスに気づいたのか、オバサンはこちらに向き、何故か歩きだしてきた。



 おいおい、それは危ないぞ……。

 こちらの心配を他所(よそ)に、オバサンは歩き続ける。


 あと約100メートル。


 バスのAIも気づいたのか、軽くクラクションを鳴らす。

 そこまで自動的に判断して行う技術力に少し感動したが、オバサンは動じず歩き続ける。


 あと約50メートル。


 バスは、今度はクラクションを大きく長く鳴らし、ライトまで点滅させている。

 バス内にまで響き渡る大音量に俺は思わず耳を抑えてしまった。流石にこの音はどんなに肝が座っていても尻込みするだろう。

 しかし、窓から覗いて見えるオバサンは耳に手を当てるようなこともせず、まっすぐ向かってきている。


 あと約20メートル。


 ぶつかる!と思った瞬間、バスは車道の右側ギリギリまで幅寄せし、近くを通り過ぎる際に少しスピードを落としたが、そのままオバサンにぶつかることなく走り抜けていった。

 その景色を俺は窓から覗いていたが、抜き去る際にオバサンの虚ろな眼と目が合った、ような気がした。



 なんとか自動運転するバスによる人身事故を体験せずに済み、ホッと胸を撫で下ろす。

 あのオバサンには残念だが、救助は他の人に任せよう。


 そして、今日に入って三度目の事故、流石に俺は警戒心が強くなっていた。

 二度あることは三度あるというが、事故は既に三度起きている。

 三度あった後に四度目があるのかどうかまでは知らないが、確率は低くないはずだ。


 事故を目撃するだけであればまだ良いが、事故に巻き込まれるのだけは勘弁願いたい。



 しばらく道なりに進んだ後、大きな交差点に到着し、バスは右折するために右折レーンに入った。

 チッカチッカと指示器を光らせながらバスは信号を待つ。


 待つ時間はほとんど経っていないが、俺は妙にそわそわしだし、気を紛らわせるために窓から周りを眺める。


 反対車線の車はスピードを出してどんどん目の前を走っていっては過ぎ去っていく。右折側の方では信号が変わるのを待っている車と横断歩道前に人だかりが見える。

 後ろを振り返ってみたが、遠くのトラックが近づいてくるのが見えただけだった。


 最後に一応、左折側を振り向いたところ、そこには信号機が赤く光っているだけで車も何も止まっていない。

 道路も片側一車線になっており、信号待ちしている人もおらず、道の先もどこか閑散(かんさん)としているように感じた。


 どこかの場所に繋がっているようだったが、よくわからない。

 どうやら側道のようだが、あまり活用されていないらしい。


 前後左右の確認が終わり、気が紛れたところで歩行者用信号が点滅し始めたのが見えた。

 歩行者用信号が赤に変わればすぐに車用信号も変わり始める。



 ようやく曲がれると椅子を少し座り直した瞬間、いきなり大きな衝撃と共に『バァン!!!』と金属がぶつかる音とガラスの割れるような音が混ざったような音が後ろの方から響き渡った。


 再び嫌な予感が頭を過ぎりながら後ろを振り返ったところ、後部座席の左側が大きく内側にめり込んでおり、そこら中にガラスが散らばっている。


 後部座席の窓の外には、後ろを振り向いた際に見えていた大型トラックが、前面を歪なアートに変化させて(たたず)んでいた。



 最初の事故と同じような衝突事故だ。それもスケールが大きくなった……。


 トラックの運転手の姿はここからだと見えないが、凹んだ運転席を見る限り、恐らく無事ではないだろう。

 俺は前方の座席に座っていたので無事だったが……、もし後部座席に座っていたとしたら事故に巻き込まれて、最悪死んでいた。


 一瞬、血の気が引く思いをしたが、本当に血の気が引いたのはこの後からだった。



 バスが突然、前に進みだした。

 衝突の衝撃でバスのセンサーが壊れたのか、まだ信号が変わりきってないのにもかかわらず反対車線へバスが侵入していく。


 焦った俺は脱出を試みようとするが、バス走行中の乗降口は固く閉ざされており、後部座席にあったはずの非常出口はトラックにぶつけられて変形して、見ただけで使えないことがわかる。


 何とかバスを止める方法が無いか探してみたが何も見当たらず、他の脱出方法もわからない。


 窓ガラスを割ろうと、スマートフォンで必死に殴りつけるが、強化ガラスなのかヒビすら入らない。それでも諦めずに必死に殴り続けていると、別の窓から大型トラックの姿が見えた。


 対向車線からこちらに向かって全速力で走ってくるトラックの姿が。



 バスに回避する方法はなく、大型トラックもブレーキは間に合わない。


 そのまま為す術もなく、バス側面に大型トラックが追突した。

 バスはぶつけられた衝撃で何度も大きく横回転し、最期はバランスを崩して横転する。


 バスの中にいた俺は壁や窓ガラスに何度も叩きつけられ、そこから意識が途絶えてしまった。

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[一言] 他の乗客の反応の描写がないのが気になる。
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