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ゾンビシティサバイバル  作者: ディア
第1章 - サバイバル編
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001. サラリーマンの常日頃


2030年 5月─。


 ゴールデンウィークが終わり、日に日に"暖かい"から"暑い"に変わりゆく季節。草木は緑々と生い茂り、野生の動物や野鳥達も活発に動き出す。

 人々も、次の連休が当分先だということに少し憂鬱(ゆううつ)になりながらも、忙しかった4月から解放されて落ち着いた毎日を過ごしている。


 天気の良い日も続き、特に、今日は朝から晩まで快晴予報で、お天気キャスターが言うには、「日中は心地よい風が吹き、夕方は綺麗(きれい)な夕焼けを拝め、夜は満天の星空となる『絶好のピクニック日和』」らしい。


 そんな『絶好のピクニック日和』に俺は何をしているかというと、朝から脂ぎったオッサンと化粧の濃いOLと一緒に電車に詰められて、通勤ラッシュという名の拷問を受けている最中だった。


 子供の頃は、

「将来は、コンピューターとAIが発達して人は働かなくていい世の中になる。」

 なんてことを聞かされた記憶があるが、現実はしっかりと就職させられ、安い賃金で雇われ、限られた時間を無駄使いする人生を送らされている。

 AIの進歩がまったく無かったわけじゃないが、身近なものでせいぜいコンビニやスーパーのレジが無人化したり、電車などの交通機関がAIによる自動運転になったりしたぐらいで、人が働かなくていい世の中なんてものはまだまだ先のようだ。


 別に働かなくていい世の中が早く来て欲しいだとか、今の仕事が嫌だとか、そういう気持ちが強いわけじゃない。

 ……ゼロでもないが。


 ただ、毎朝通勤ラッシュに巻き込まれながら出社し、日中はコンクリートの中で働き続け、季節の移り変わりを楽しむ余裕もない日々を送っていると、"生きる"ってことがどういう意味なのか深く考えさせられてしまう。


 他の人達はやりたい事があるため、あるいは守りたい人や物といった"生き甲斐(いきがい)"があるから日々が辛くても働いて生きていけるんだろうが、俺にはそういった目標や守りたいものといった"生き甲斐"というものが全く無い。


 趣味らしい趣味もなく、漫画やゲームなんてものもだいぶ前から熱が冷めている。

 たまの休日でも家でゴロゴロしているか、友達に誘われるがまま出かけるか、ネットで毒にも薬もならない情報を眺めているだけだ。

 もちろん、こんな過ごし方で恋人なんてできるはずもなく、友達も多くはいない。


 世間に合わせてなんとなく働き出して早四年。目ぼしい出来事があった訳ではなく、特別大きな事故があった訳でもない。

 他の人から見れば順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な人生に見えるかもしれないが、俺にとっては平凡な人生。ただ、死ぬ理由が無いから生きているだけだ。

 俺の人生を表すなら、『惰性(だせい)で生きている』という言葉が最も相応しいだろう。


 そんな生き方で良いのか?という漠然(ばくぜん)とした悩みがあっても解決策は見当たらず、そもそも今の状態は本当に悪いのか、状況を打破すべきものなのかどうかもわからない。

 禅問答(ぜんもんとう)のような話が頭をぐるぐると回り、ただただ時間だけが過ぎていく。



 ……こうやって、俺はいつも満員電車から現実逃避するために何かしら考え事をしては時間を潰していた。


 満員電車内は劣悪な環境だが、周りは静かで余計に身体を動かすことも出来ない。

 見方を変えれば、集中して考え事をするには非常に向いている場所だと俺個人は思っており、案外こういう時間は貴重でありがたい。


 一つのテーマを決めて考え事をし、考えが煮詰まった辺りでだいたい目的の会社最寄り駅に到着する。

 今日も答えは出ていないが考えが煮詰まり、ちょうどよいくらいに頭の体操になったと満足して外の景色を眺めていたところ、いつの間にか景色がまったく動いていないことに気がついた。


 電車はどこかの駅に止まっているようだが、待てどもドアは閉じず、電車も動かない。スマートフォンで時間を確認すると、いつもならそろそろ目的の駅に着く時間くらいだった。


 ……嫌な予感がする。

 こういう状況下に陥った場合、よくあるお決まりのパターンというべきか、この状況下で真っ先に思いつく、"アレ"が起きたのではないかと、頭を()ぎる。


 ただでさえ億劫(おっくう)な朝を、さらに億劫にする"アレ"だ……。

 口の中に嫌な苦味が広がり始めた頃、突如、電車のスピーカーから音声ガイダンスが流れてきた。


「ただいま前を走ります電車内で、急病人の救護とお客様同士のトラブルがあり、電車に遅れが出ています。恐れ入りますが、お急ぎの方は振替輸送の交通機関をご利用していただくようお願いいたします。繰り返し申し上げます。──」


 ……どうやら嫌な予感は的中したようだ。


 この手の電車遅延は今月に入って既に5度目だ。なるべく避けたい出来事だとは思うが、俺も周りの人達も既に慣れたようなもので、ざわめいても誰一人騒ぐ様子もない。


 会社最寄り駅まであと4駅ほどなので、このまま待っていても良いかと思ったが、考え事から覚めて悪臭漂う満員電車内を居続けるのは中々キツい。

 遅延がどれぐらい長引くかわからない以上、満員電車内で待つよりも別のルートで向かう方が賢明だと判断し、俺は満員電車から降りてから会社に出社が遅れることを連絡して、足早に駅の改札を出た。



 ここまでの判断自体は誤っていないと思ったが、降りた駅はいつもだと通過するだけで、今まで一度も降りたことのない名前だけ知っている駅だった。

 どこに何があるかもわからず、会社がどっち方面にあるのかもわからない……。

 駅構内は同じように振替輸送を利用する人、駅員に詰め寄っている人、スマートフォンで何かを調べている人、等々(などなど)でごった返しており、非常に騒がしい状況になっていた。


 とりあえず、現在位置を把握したいために駅の案内掲示板を探し出す必要があり、振替輸送についても確認したいと考えた俺は周りを見渡した。

 思ったとおり、改札口付近の壁に案内掲示板が設置されていたので小走りで駆け寄ると、案内掲示板には駅構内の地図が載せられており、駅内部の見取り図と現在位置について描かれていた。


 地図によると、今の場所から向かって左に行くと出口に到着し、その目の前にバスロータリーやタクシー乗り場があるとのこと。また、案内掲示板の横に置かれていたホワイトボードには、振替輸送の情報についても書かれていた。

 どうやら振替輸送として電車の駅間を往復するバスが出ており、会社の最寄り駅行きもあるようだ。

 振替輸送バスが出ているのであれば十分。座れることは期待していないが、会社まで行けるのであれば何だって利用したい。

 そう考えた俺は案内に従って人をかき分けながら駅前にあるバスロータリーへと向かい、駅舎から出てすぐにあるバス案内掲示板まで辿り着いた。

 バス案内掲示板前にも人だかりができていたが、大体の人はパッと見てパッと去っているため、ここは大人しく順番を待つしかない。既に会社には連絡しているので、わざわざ急ぐ必要もないだろう。


 しばらく待ってから俺の順番が来たので案内情報を確認すると、振替輸送バスの停車場所はすぐに見つけることができたが、ふと路線図の方を見ると、最寄り駅より会社に近い場所まで行く路線バスがあることにも気がついた。

 会社と最寄り駅はそこまで距離があるわけではないが、遠くに見えるバス停付近の混雑具合から、振替輸送バスより会社近くまで行く路線バスの方が空いていそうであった。

 路線バスなので無料ということはないが、たかだか数百円で朝の通勤が快適になることを思えば安い出費だ。


 俺は、そのまま路線バスのバス停へと向かうことにした。

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