邂逅
一人の男が村へと帰ってくる。
街へ出稼ぎに行き、数か月に一回帰郷する男。
村では評判の好青年。
「ん? お、クレイじゃねえか」
畑仕事をしていた男が好青年を見つける。クレイと呼ばれた青年は会釈しつつ帰郷してきた事を伝えた。
クレイはそのまま村の中へと入る。背中には荷物を抱え、両手にも革袋を抱えていた。
イリーナとライルアは水浴びを済まし、リンゴ園の親父の家へと招かれている為、多少良い格好をせねばと着替えていた。リンゴ園の親父はこの村では村長のような物だった。だからと言って威張り散らしているわけではないが、普段面倒な役回りを押し付けている以上、礼儀として……と二人は気を使っていた。
「お姉ちゃん……髪飾りある?」
「んー? あるある……どれがいい?」
ライルアは自分の髪飾り2,3個を出してイリーナに選ばせる。イリーナは数分悩んだあげく、蝶の形をした髪飾りを選んだ。
「似合うかな……」
「うむぅ、我が妹ながら可愛いゾ」
ライルアは茶化しながらイリーナの髪飾りを微調整してやる。鏡の前で二人の姉妹はお互いの格好を確認しあい、失礼が無い様チェックを行う。
そこへクラリスが二人を迎えに来た。
「イリーナたんー、ライルアー、迎えにきたぞー」
クラリスは家のドアを開け放って二人を呼ぶ。
イリーナとライルアは準備を済ませてクラリスと共に外に出る。
「クラリスちゃん……それ作業着……」
「ん? 別にいいだろ?」
二人は顔を見合わせ、クラリスに似合う服が無いか頭の中で想像するが……
(ダメだ……サイズが全然合わない……)
二人が悩んでいると……
「イリーナ、ライルア、ただいま」
そんな事を言ってくる男が一人……。
ライルアはその声を聞いて一気にテンションが上がる。
「クレイ! え? 帰ってきたの?!」
そのままクレイに抱き付くライルア、クレイは両手に荷物を持っている為そのままライルアに押し倒されそうになるが、なんとか耐え……
「おぅ、帰ってきたぞ。今回はしばらく村に居るつもりだから……」
「本当?! やった……エヘヘ……」
ライルアは嬉しそうにクレイの首に腕を回して甘えている。
その様子を見ながらイリーナも二人に近づき
「おかえりなさい、クレイ。なんか荷物多いね……」
クレイの背中と両手の荷物を見てイリーナは首を傾げる。
「ん? あぁ、お土産だけど……あ、最初にレイガントさんに挨拶してこないと……」
それを聞いてライルアは嬉しそうに
「ぁ、今から私達行くんだけど……今日食事に誘われてて……」
クレイは、そういえば二人とも可愛い服を着ていると思いつつ
「じゃあ一緒に行こうか……ん? あれ、クラリスちゃん……」
クレイは今気づいた……とクラリスを見るなり、背中の荷物を降ろす。
「ぁ、どうも……お久しぶりです……」
クラリスは軽くお辞儀しながらクレイに挨拶をするが……クレイは荷物を漁り、中からワンピースを取り出した。
「じゃーん。実は服を大量に仕入れてきたんだ。クラリスちゃん、これあげる」
「え? なんですか?」
クレイはクラリスにワンピースを持たせ、イリーナとライルアはここぞとばかりにクラリスを家の中に連れ込んだ。そのまま服を脱がせてワンピースに着替えさせる。
クレイはその間外でポツンと一人で待っていたが……
「あれ、クレイさん、戻ってきたんですか」
今からリンゴ園の親父の所に向かうレコスがクレイに声を掛けた。両手で鍋を持っている。
「あ、レコスさん……何それ……凄いいい匂いだね……」
「ぁ、シチューですよ、これからレイガントさんのトコで……って、あれ……クラリス来ませんでした?」
クレイは、イリーナとライルアが家の中に拉致った……と伝える。
「ふ、ふーん……良くわかりませんけど……クレイさんも一緒にどうです? 大勢の方がレイガントさんも喜ぶだろうし……」
「そうだね……ぁ、レコスさんにも……」
と、クレイはレコスにも女物の毛糸で編まれたカーディガンとスカートをプレゼントしようと、鍋を取り上げ代わりに服を持たせる。
「え、おぉ、服だ……可愛い……」
「レコスさんに似合うと思って……鍋は俺が運ぶから、着替えてきたら?」
レコスは久しぶりに新しい服を貰ってウズウズしながら
「す、すいません! 着替えてきます!」
嬉しそうに家へと走っていく。
そこに居れ違いになるように、イリーナ達が家から出てきた。
「おまたせ~って……なにその鍋……」
「んー? ぁ、レコス姉の手料理の匂いだ……」
「ぁ、レコスちゃんの作ったシチュー? おいしそう……」
3人はそれぞれ言いながら、クレイはクラリスのワンピース姿を見るなり
「クラリスちゃん……似合ってるよ、可愛い」
その言葉にライルアはムスっと頬を膨らませた。
リンゴ園の親父の家に食事に誘われた一行。
すでにテーブルの上には料理が並んでいた。中央にはレコスのシチューが置かれている。
「えーっと、じゃあ……おかえりクレイー」
リンゴ園の親父……レイガントは乾杯の音頭を取る。
「すみません……急にお邪魔しちゃって……」
「何言ってんだ、ここの村人は全員家族みたいなもんだ、遠慮すんな!」
いいつつレイガントは果汁酒を煽る。
「じゃあ遠慮なく……」
クラリスはいきなりメインディッシュらしき鶏肉に手を伸ばして頬張る。
「お前は少しは遠慮しろ……」
レイガントのツッコミに一同は笑いつつ、料理に手を伸ばしていった。
「んで、クレイ……あの服どうすんだ? 村の娘に配っとけばいいのか?」
「あぁ、お願いできますか……? 俺が配ると……なんか恩着せてるみたいで……」
「そんな事ねえよ、つーか着せればいいじゃねえか」
服を、と付け足して笑いを誘おうとするレイガント……一瞬の間を置いて気をつかった一同は笑顔になる。
「父ちゃん面白くない……」
息子のアンジェロは父のギャグを詰りつつ、レコスの作ったシチューに口を付けていた。
美味しそうに大きく切ったジャガイモを頬張るアンジェロ。それを見た妹のアリスはマネをするように大きなジャガイモを頬張る。
「ん……んっ……んー!」
案の定、コトコト似られた熱いジャガイモはアリスの口の中を灼熱の空間へと変える。
「アリス……ほら、水……」
レイガントの妻、タニアはアリスに水を飲ませ
「レコスちゃんのシチュー美味しすぎるから……もっとゆっくり食べなさい……」
レコスはタニアに褒められ思わずニヤけてしまう。
そんなやり取りを見守っていたイリーナは、食事をしながらクレイにいつまで滞在できるのか聞いた。
「んー……まあ今回は気分かなぁ……街のほうでも仕事あんまり無くてね……」
それを聞いたライルアは嬉しそうにするが……
「ん……ホントにシチュー美味しいなぁ、レコスちゃん、お嫁さんに欲しいなぁ」
「え? ぁ、ありがとうございます……」
クレイの態度にライルアは固まる。その様子を伺っていたイリーナとクラリス、そしてレイガントの妻タニアは……
(バカ……)
心の中でクレイを思いっきり詰っていた。
平和な村を月が照らす頃、襤褸切れを着た集団が村を訪れる。
「この村には手練れが居る。ウェルセンツの騎士ならば生け捕りにする、それ以外は殺せ」
集団は30人程、それぞれ武器を持っている。
リーダーを思わしき男が静かに号令をかけた。
「行くぞ」
一斉に集団は村へ走る。
レイガント宅で食事をしていたクラリスは集団の気配を察知する。
予め村の外周に結界を張っておいた。
「ん……レコス姉、ちょっと……」
「ん? あ、はいっ……」
二人で席を立つ。当然皆は首を傾げるが……
「ぁ、いえ……ちょっと……ごめんなさい、食事中に……」
エヘヘ、と頭を掻くクラリスを見て女性陣は大体察するが……
「あ? ちょっとってなんだよ」
怪訝な顔をするレイガントの脇腹にタニアの肘鉄が刺さる。
悶絶するレイガントを尻目にクラリスとレコスは外へ
「来客だ、30人ほど……レコス殿、死体の処理は私がやる。遠慮はいらんぞ」
クラリスは魔術で長剣を作りあげる。
それをレコスへと手渡し
「どこの誰かは知らんが……楽しい食事のジャマをしたんだ、絶対に許さん」
「食べ物の恨みは怖いですね……」
レコスはそういいつつ疾走する。
村の端、集団の気配がする方向へと。




