レスガント要塞(4)
黒騎士ザナリア、魔術師ラティア、双方の目の前に混血の魔人が降りたつ。
人間と魔人の混血、赤黒い体に蝙蝠の様な羽、山羊の角を生やした悪魔のような姿の魔人。
ザナリアは魔人の姿を確認するなり疾走する。
魔人の脳天を砕かんと特大剣を振り下ろした。
当然のごとく魔人は避けるが……避けた先にラティアが回りこんでいた。
ラティアは魔術師だが肉弾戦で魔術を叩きこむというスタイルだった。
元々実家が騎士の名家だった為に剣も扱える。
だがラティアは魔術師の道を選んだ。その才能をシンシアに認められた事がきっかけだった。
ラティアは瞬時に同調する。
彼女が同調するのは大気。
グローブに空気の層を作り出し、魔人の腎臓を打つ。
だが拳は通らない、異様な硬さの体にラティアは一旦退く。
だが魔人はラティアを逃がさんとするが……
ザナリアが、まるで踊るかのように一回転しながら、特大剣で魔人を打った。
魔人は要塞の壁へと打ち付けられる、しかしダメージは無いだろうと二人ともが思う。
ラティアは自分の拳に残る感触、そして今までの経験から
(魔術だ……私に間合いを詰めてきた所を見ると……ナメられてるのか、それとも体を防御するので精一杯なのか……どちらにせよ……)
まずは固い防御壁を破壊する、とラティアは新たな魔術を展開する。
そのラティアの様子を見てザナリアは再び魔人へと疾走する。
魔人は体を起こすと、疾走してくるザナリアへと一気に間合いを詰める。
そのまま先程の仕返しと言わんばかりに、魔人は回し蹴りをザナリアの腹へと放つが特大剣で防御される。
しかし予想外の衝撃にザナリアは体が浮く、鎧と特大剣の総重量を蹴り一発で浮かした、ザナリアはまともに食らえば無事では済まないと思いつつ、ラティアへと視線を移す。
回し蹴りを放った魔人へとラティアは間合いを詰めていた、そして
「砕け散れぇ!」
ラティアは叫びながら魔人に一撃を放つ。
彼女が放った魔術は一時的に大気による加護を与える物。
つまりは魔人とは別の防御支援。
一度に複数の支援魔術を掛けるのは高等技術、失敗すれば魔術同士が喧嘩をして両方打ち消される。
それを利用し、魔人の魔術にラティアの支援魔術を上掛けし喧嘩させる。
『ッッ……!』
魔人が微かに舌打ちするような声を上げる、それを聞いたザナリアは効果あり、と……
特大剣を軽々と魔人に向かって投擲した。
魔人の腹に命中し、そのまま要塞の壁へと打ち付ける。
『ガッ……!』
間髪入れず、ラティアが渾身の一撃を魔人の顔面に放った。
壁ごと吹き飛び、もはや要塞はいつ崩れてもおかしくないほど崩壊する。
中にいる11人は無事だろうか……とザナリアは心配そうにしつつ……
「ラティア……派手にやりましたね……」
魔人は首を今の一撃で捥がれ、絶命していた。ザナリアは特大剣を取りつつ魔人の無力化を確認する。
「油断していい相手では無かったので……流石に疲れました……」
「流石はシンシア様に認められる程の才能です」
ザナリアは称賛しつつ、魔人の体を足で転がす。
「ラティア、死体の処理をお願いします」
ラティアは少し休ませろと言いたげだが、たしかにさっさと処理しておきたかった。
魔人の死体は魔人を引き寄せる。
そうでなくても辺りの魔物にも影響を及ぼすようになる。ラティアは手を組み魔人の死体の前で祈る様に膝まづいた。
次第に魔人の体が光を伴って消えて行く。
地脈へと帰るのだ。
しかし、ラティアはなんとも言えない違和感に襲われる。
「ん……この感覚は……」
「どうしました?」
ザナリアは首を傾げるラティアに尋ねる
「いえ……いつもはもっと……ゆっくり送られるというか……今は凄い吸い込まれるように……まるで地脈がすぐそばにあるような……」
ラティアは魔人の体を地脈へと返すと、立ち上がり辺りを見渡す。
「ここには地下が……そういえば……クラリス様が地下に居る所を私は探知して……」
違和感が気になるラティアは、もう一度探索魔術を行使する。
地下を丸ごと探索するが……そこにイリーナ一行の気配はない
勿論地上にあがってきた形跡すらない。
「ん?! クラリス様達はどこに……」
「どうしたんですか、ラティア……私にも分かる様に説明してください……」
ラティアは自分も良くわからんと思いつつ、地底湖の存在に気が付いた。
「ザナリアさん……地下へ行ってみましょう……もしかして……世紀の大発見かもしれません……」
ザナリアは首を傾げつつ
「冒険者の捜索より優先事項ですか? 私としてはそちらを先に片づけたほうがいいような気が……」
「イリーナ達3名の気配が掴めません、11人は先程とは違う位置に移動しています。とりあえずは生きているでしょうから……」
「ちょ、気配がつかめないって……それは死んでいるという事ですか?!」
ザナリアは焦る
「いえ、そうとも限りませんよ……言ったでしょう、世紀の大発見かもしれないって……もしかしたらこれは……行ってみる価値はあると思います」
腕を組んでしばらくザナリアは考える。イリーナ達3人の気配はつかめない事を確かに気になった。もしかしたら万が一の事になっているかもしれない、だが
「ガルドは生きていますか? 彼が生きているのなら……」
「ええ、無事ですよ、まだ私の守護霊のモフモフで寝ていますね。つまりはイリーナは生きている……にも関わらず探索に引っかからない……ならば……」
地下から移動した、としか考えられない。
しかし地上へ上がった気配もない。地下にはそれ以外に道もない。
ラティアは地底湖に何かある、と睨んでいた。
「わかりました、ですが付近の魔術師に連絡は取れますか? せめて応援を呼んでおきましょう、そのうえで我々は地下へ向かいます」
ラティアは頷きつつ、通信魔術を使用した。
付近の魔術師へ連絡を取り、冒険者の救出を依頼する。
応援を呼んだ後、地下へと向かうザナリアとラティア。
天然の大空洞を地下の要塞へと改造した、といった印象を受けた。
「この先です……地底湖に恐らく何か……」
二人は奥の地底湖に向かって歩く。
途中魔物に遭遇するが、魔人との戦闘で消耗しているとはいえ二人の相手では無かった。
「ん……? 何か光って……」
「この先ですか?」
二人は地底湖付近まで来ると、淡い光を放っている事に気が付いた。
生唾を飲みこみながらラティアは少しずつ地底湖へと向かう。
自分の予想どうりならば、まさに世紀の大発見だと思いながら……
そして二人はたどり着いた。
地底湖の前で、ラティアは膝を折って座りこんだ。
「どうしたんですか……ラティア」
「はは……やっぱり……凄い……」
ザナリアは首を傾げつつ、ザナリアへ再び問いかける。これは何だと
「地脈ですよ……信じられない……この感覚……いつも魂の祝福をしてるときの……」
フラフラと地底湖に近づくラティアをザナリアは捕まえる
「しっかりしてください、大発見は分かりましたから……すぐに報告を……というかイリーナ達は……」
「決まってるじゃないですか……地脈を通って……どこか全く違う土地に……」
ラティアは興奮が収まらないという様子で言い放つ。
「そんな……」
徐々に地底湖は暗くなっていく。
地脈が閉じる感覚をラティアは感じていた。
「もしかして……さっきの魔人はこれの番人だったんじゃ……そうと分かって居たら生け捕りにしたのに……」
「無茶言わないでください……こっちが殺られてしまいますよ……」
完全に地脈が閉じる。
地脈の気配は跡形も無く消え去った。




