レスガント要塞跡(3)
イリーナは目の前の惨状に剣を落とす。
クラリスが人型の魔人に頭を掴まれ、血まみれで宙刷りにされていた。
イリーナに気が付いた魔人は振り向く。
「貴様ぁ!」
イリーナは剣も拾わずに魔人に殴りかかった。
錯乱している、イリーナは自分でも止められなかった。
自分のせいで、マヌケな判断をした自分のせいでクラリスが襲われた。
魔人は殴りかかってくるイリーナの拳をいとも簡単に掴む。
そしてそのまま小部屋の壁に叩きつけた。
「が……ぁ……」
壁に叩きつけられ、うつ伏せになったイリーナの背中を魔人は踏み砕く。
「うがぁぁ!!」
イリーナはうめき声を上げながら魔人を睨みつける。
クラリスは血を垂らしながら微動だにしない。
「イリーナさん!」
そこに遅れてきたレコスが長剣を抜いて魔人に斬りかかった。
一気に間合いを詰めるレコス。その魔人の足、イリーナを踏みつけている足へと斬りかかった。
だが
金属音と共に、砕け散る剣。
「なっ……」
レコスは驚愕の声を上げる。刃が立たない、どころではない。
魔人の体は尋常では無い程固かった。
レコスの剣をやすやすと叩き割ったのだ。
剣を失ったレコスはそのままの勢いで魔人へと殴りかかる、だがイリーナと同じく捕らえられ、地面へと叩き伏せられる。
『この程度か、レインセルの騎士は……聞いてあきれる……』
魔人が何か喋っている。
イリーナはぼんやりとする意識の中、魔人の言葉を聞いていた。
『まあいい……打てる手は打っておくか……』
そのまま魔人はイリーナとレコスの足を取り引きずりながら歩く。
(どこに……連れて行くつもりだ……レコス……頼む……起きて……)
魔人は地底湖の前まで3人を運ぶ。
『じゃあな』
それだけ言うと魔人は3人を地底湖の中へと投げ捨てた。
その拍子にレコスは目を覚ますが
「んっ……っぷぁ……イリーナさ……」
引き込まれる、地底湖の底へと
クラリスもイリーナも、深い底へと沈む。レコスも成す術なく沈んでいく。
深い深い、闇の中へと。
ガシャガシャと金属音を立ながら歩く騎士、ザナリア。特大の大剣を担ぎながら、狭い通路を歩いている。ガルドは大剣を持ってくる神経が分からない、と思いつつ口を噤んでいた。
そして先導するのは魔術師のラティア。淡々と歩きながら、道を手の平に宿した炎で照らす。
「この先に一名……生存者と思われる方が……ぁ、ここですね」
ラティアは一枚の壁に手を着くと、コンコンと叩く。
中は空洞のようで、音が共鳴している。
「ここに隠れているのか……? おい、誰かいるなら……」
「私が開けましょう」
いいながらザナリアは壁に拳を突き入れ、そのまま壁の奥へと手を掛けて一気に引き壊した。
ガルドはレインセルの騎士や魔術師は、全員こんなのばかりか、と思いつつ中をのぞく。
「誰か……居ないのか?」
恐る恐る声を掛けると、中からゆっくり男が現れる。
「た、隊長……?」
「あぁ、俺だ、助けに来たぞ」
出てきた男は小柄で、手にはナイフを握りしめていた。
ガルドはそのナイフを取り上げると、震える小柄な男を抱き寄せる。
「悪かったな、待たせちまって」
「たいちょおぉぉぉ……」
小柄な男はガルドに抱き付きながら泣きじゃくる。
その様子を見てラティアは安心した顔をし、
「ガルドさん、残りの11人も私達が必ず見つけ出しますので……貴方は、その方を連れて外に……あまり大所帯になると、この要塞内では不利です…」
ガルドは最もな意見に頷くが……
「あ、あぁ……そうだな……ん……が!」
突如、ガルドがうつ伏せに倒れうめき声を上げる。
「なっ……あぁぁぁっ!!」
「が、ガルドさん?! ま、まさか……」
永久の契だ、とラティアは魔術を解除しようとする。だが出来ない、これは掛けた本人しか解除できない。しかも契を交わした二人が揃わないと……とラティアは渋い顔をする。
「イリーナに何か……ラティア、とりあえず治癒魔術を……」
「は、はい……あんまり意味ないと思いますが……あちらも完治しない事には……」
ラティアは気休め程度と分かっていても治癒魔術をガルドに施す。
その様子を見ていた助け出された男は困惑するばかり。
「はぁ……ぁ……大丈夫だ……骨はいってない……」
フラフラとガルドは立ち上がる。
「くそ……イリーナめ……何を……」
そのまま立ち上がったガルドは、再び倒れる、そして完全に気を失った。
結局ザナリアとラティアは助け出した男とガルドと共に要塞の外へと出る。
ガルドはザナリアに担がれている。
「さて……どうしましょうか、ラティア」
「そ、そうですね……ガルドさんをこのままにして置いておくのも……かと言って中の11人を……いつまでも放っておくのも……」
騎士と魔術師は悩む中、助け出された男は地面に寝かされたガルドを介抱する。
悪い夢でも見ているかのように魘されていた。
「とりあえず……イリーナの身に何かが起きたのは確実です。もう一度探索を掛けて貰えますか?」
「それは構いませんが……混血が……」
「だからですよ、もしかしたら遭遇したのかもしれません、イリーナ達が混血に……」
ラティアはハっとしながら、一瞬考え
「なら……思いっきり誘いを掛けてみますか……ザナリアさん……混血の討伐経験は……?」
「サリス隊長と共に10数回……他の隊に交じって数回、といった所ですか、いずれにせよ隊長が居た。正直相手を見てみない事にはなんとも……」
ラティアは生唾を飲みこみ
「ガルドさん達を安全な所へ……その後、探索を掛けます」
ラティアは自身の守護霊、ルクインを召喚する。
空間の壁を突き破って出てきた、巨大な犬。
ポメラニアンのような見た目の守護霊。
「いつ見ても……フザけてるとしか思えませんね、この見た目は……」
「え?! こ、この子に罪はありません!」
ラティアはルクインに二人の保護を命じる
クゥン、と頷くように了承したルクインは二人を毛玉の中へと避難させる。
「え?! ちょ……」
助け出された男が困惑の声を上げるが……
「大丈夫です、結構気持ちいですよ、クシャミが止まらなくなるかもしれませんが……」
ラティアはいいながらルクインへ命ずる。
二人を安全な所まで運搬せよ、と。
『クゥン……』
ルクインは了承し、トコトコと歩きだす。
その後ろ姿を見て
「やっぱり……フザけてませんか、貴方」
「ふ、ふざけてません!」
ラティアは弁解しつつ、探索魔術を起動する。
深い水の中へと沈んだイリーナ達。
イリーナは夢を見ていた。
シェルスとシェバと、3人で一軒家に住む夢。
シェバが農業をして、シェルスと一緒に料理をして……
他愛もない話で盛り上がって……充実した、楽しい日々を送る夢。
『悲しい夢です。貴方にとっては……』
(そうだ……こんなのはあり得ない……)
『ですが、貴方は十分に戦いました。10歳で出産し、それから騎士となり娘を守り続ける。誰もが出来る事ではありません、貴方は立派です』
(立派……? そんな事お前に言われる筋合いはない……)
『でしょうね、すみませんでした。ですが……貴方の記憶の一部はとても……居心地がいい物があります。私に……分けて貰えませんかね』
(待て……一体なんの話だ……?)
『知りませんか? 守護霊と言うのは……記憶に宿るのですよ。居心地のいい、記憶に』
(意味が分からん……そういうのは……シンシアにでも……)
『貴方も救われると思いますよ。さあ、私に……解放するのです』
(何を……)
イリーナの目の前がまばゆい光に包まれる。
「んっ……」
その光が、日光の光だと気づくまでに随分時間がかかった。
「ん………」
イリーナは手で日光の光を遮りながら、目を少しずつ開ける。
「んっ……」
「こらー! イリーナ! まだ寝てるの?!」
バーン、とドアを開けて入ってくる女性。
「いい加減起きなさい! ほら、働け! 乳しぼり!」
「ちち……?」
イリーナは寝ぼけながら、もっそりとベットから降りる
「ん……なんか……怖い夢見てた気がする……」
「ちょ……泣いてるじゃない、そんなに怖かったの?」
女性はポケットからハンカチを取り出すと、イリーナの涙を拭う。
「うん……ありがと、お姉ちゃん……」
「はいはい、顔洗ってきな」
イリーナは姉と呼んだ人物に言われて……ふと夢の中の内容が気になった。
「お姉ちゃん……レインセルって……知ってる?」
「ん? こことは別の大陸にある国でしょ?」
そうなんだ、とイリーナは呟きながら……
「ちょっと、ホントに大丈夫? ここはレインセルじゃいからね!」
イリーナはポリポリ頭を掻きつつ
「ウェルセンツなんだよ! ほら、顔洗ってきな!」
姉の言葉に頷きながら、イリーナは顔を洗いに行く。
外は喉かな牧場
山羊や牛が放し飼いにされている。
イリーナは井戸水をくみ上げ、顔を洗う。
「ぷは……はぁ……クラリス……と、レコス……なんだろ、凄い夢見たな……大冒険の話……あんまり覚えて無いけど……」




