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クラリス

 私の名前はクラリス・セイリア


レインセル最高の魔術師、シンシア・オルレアンの腹違いの妹。


なので私には才能があった。


魔術師の才能が。


クラリスというレインセルの英雄の名前を貰ったのも、そんな期待が込められてたんだろう。


でも私の才能が開花した時は最悪だった。



 この世界では大した不幸自慢にもならない話。


私の場合はラスティナやマリス、シェルス王女のように辛い経験はしてない。


あの3人に比べれば私の味わった不幸なんて大した事ない。


不幸に大小があるか、と聞かれたら私はあると答える。



 少なくとも私は、自分の身に起きた事をそこまで不幸だなんて思ってない。


いや、そんな事言ったら母親に恨まれそうだが……


私の母親は、なんでもない農村の娘。


そこにオルレアン家の父君が来て、私を母の体に宿らせたわけだが……

 


 オルレアン家は魔術の名門家。


今まで数々の有名な魔術師を生み出してきた。


お姉様、シンシアもその一人なのだが……あろうことか、あのお姉様は……自分の両親、兄弟、その親戚に至るまで……皆殺しにしている。


その原因は私にあった。





 私が6歳の時、いつもと変わらない農村で、いつもと変わらない日常を過ごしていた。


母親は優しくて美味しいジャムを作ってくれた。


でもそんな幸せは、いつまでも続かなかった。


「クラリス! 逃げ……」


目の前でいきなり母親が殴り殺される。


鈍器で、農具で、拳で、数人の人間が寄ってたかった殴り殺した。


「こいつか……父上も厄介な事をしてくれる」


「まったくよ。オルレアン家の血をばら撒くなんて……何考えてるのかしら……」


「ただでさえ……シンシアが生まれて……俺達の立場が危ういってのに……」


「まあ、いい。さっさと殺せ」


4人の男女、それぞれが凶器を手に殴り殺した母親を踏みつけて私に寄ってくる。


逃げなければ、そう思った時だった。


「クラ……リス……逃げ……て……」


「こいつ! まだ……!」


母親は凶器で頭を砕かれても尚、一人の男の足首を掴んで私を逃がそうとした。


私は動けなかった。


そして4人の男女は、これでもかと言う程……私の母親を私の目の前で殴打した。


目が離せなかった。


最後まで私を逃がそうとした母親から、目が離れなかった。


でも見たくない。でも離れない。見たくない。



ふと、足元に転がったフォークを取った。



「あ? このガキ、そんなもん持って何する気だ?」


フォークを持った私に近寄る男の一人。



何か勘違いしているようだった。



私は見たくなかっただけだ、これ以上、母親の亡骸を。






「なっ、こ、こいつ! 自分で目を……!」


「な、なに考えてやがる! ウプ……」


「ちょっと……やめてよね……なんなのよ、この子……」




男の一人は、私が目を抉ったのを見て吐きそうになっていた。


自分が私の母親にした事も棚に上げて……


「も、もういい……行こう……」


「あ、あぁ……こんな奴……」


男女は出て行った。目を自分で抉った私を気色悪いと思ったんだろうか。


私はそのまま、手探りで母親の亡骸まで這って行った。


母親の手を掴めた。微かに……まだ熱が残っている。


「お母さん……甘いジャム……ほしい……」


私はその時、ドクン、と……自分の心臓が大きく鳴ったのを今でも覚えている。


その瞬間、母親の魂と同調したことも。


目を潰したのに、母親の姿が鮮明に……目の前に……


「お母さん……クラリスが……生まれたから……ごめんね……」


今思えば、母親からしてみたらブチ切れるセリフなんじゃないかと思う。


イリーナ殿の体験談を聞かされたら、よっぽどだ。


身を引き裂かれる思いで産んだ子に、産まれてきてごめんなさいなんて言われたら……


たぶん、イリーナ殿はブチ切れる。


そして私の母親も、キレてたんだろうか、そのまま同調は終わり姿は見えなくなった。



 初めての同調で気力も体力も無くなった私は母親の亡骸の傍で倒れていたらしい。


すぐに騎士団が駆けつけ、私は保護された。


ラングスの偉い様が私の才能に目をつけ、私と同じ名前の塔に住まわせたのは……その出来事のすぐあとだった。


点字を覚え、本を読み、魔術を研究していった。


そして私が9歳の時、初めて腹違いの姉、シンシア・オルレアンと出会った。


シンシアが私に会いにラングスまで来てくれたのだ。


今思えば割りと凄い出来事だ、あのお姉様が私に……


「クラリス……? あぁ、クラリス……」


お姉様は何も言わずに私とオデコをくっつけてくる。


一つしか違わないのに、お姉様は大人びた印象を受けた。声や布切れの音で分かるしぐさ、香り、でも香水の匂いに交じって……


血の匂いがした。



「クラリス……ごめんね……」


お姉様はそれだけ言って、その日は帰って行った。



血の匂いが気になった。



胸騒ぎがした。


それから数日後、いつも私の部屋に荷物を届けてくれる魔術師に聞いてみた。


「オルレアン家で、何か有りませんでしたか?」


魔術師は少し口をぐもらせたが、包み隠さず話してくれた。


「オルレアン家の……ご息女が……シンシア様が……家族を皆殺しに……」


その時の私の感想は


「あぁ、そう」


だった。


魔術師にも分かっただろう、私の頭のねじが数本飛んでいる事に。


そのまま無言で魔術師は去っていった。


私はとくに何も感じなかった。


しいて言えば


「なにも……お姉様が殺すことないのに……」


それだけだった。


今でもそんなに何を考えるわけでもない。


ただ、後から聞いた話では……お姉様は自分の兄姉がした事を影で聞いてしまったそうだ。


そこで私の存在も知った。


私が目を抉った事も。


お姉様はただ、怒りが込み上げてどうしようも無かったらしい。


気が付いたら家族がバラバラにねじ切られていたそうだ。



そしてその惨状を見たゼシル様は、お姉様の才能を見出した。


世界と繋がるその才能を。


ゼシル様もオルレアン家がした事に腹が立ってたのか、完全にお姉様の弁護に回っていた。


そして、お姉様が家族を皆殺しにした事は一部の魔術師しか知らないタブーとなった。





こんな所か、私の不幸自慢は。


ラスティナやマリスは目の前で魔人に両親を食い殺されて、才能が暴走するという理由でマシル大聖堂の地下に人生の大半閉じ込められた。


シェルス殿はバラス島へ拉致され一年間の拷問を受け、そのうえコルネスと王女の交換をされて人生を捻じ曲げられている。



この3人に比べたら、私の不幸自慢なんて大した事はない。




というか、なんで今さらこんな話してるんだろうな。


あれか、走馬灯の一種か……


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