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レスガント要塞跡(2)

 レスガント要塞跡、その崩れた巨大な空洞内で寝ていた巨大なイノシシを叩きだしたクラリス。


そしてそのクラリスに、襟首を掴まれ結界で爆風を免れたガルドは大剣を構える。


『な、なんだ、お前等は! 人の睡眠をジャマしおってからに……』


ガルドは問答無用でイノシシ魔人に疾走する。イリーナとレコスも遅れて飛びかかろうとするが……


「分かってたが……やっぱりこうなるよな……」


イリーナはボヤキながら魔人が眠っていた空洞内を見渡す、至る所に洞窟のような穴、穴、穴。


その穴から魔物が涌き出る。


「うわ……ムカデ……」


巨大なムカデのような魔物がワサワサとイリーナ達を敵と定める。


ゆっくりと這い出てきては壁から地面に落ち、近づいてきた。


「うわ、足音だけでも悍ましいな……一気に焼き払うか……」


クラリスは魔術を展開するが


「やめとけ、私達も丸焼きになるぞ」


これだけの数の魔物を一気に焼き払おうとすれば、確実にイリーナ達にも火の手が来るのは明白だった。


「ガルドは……」


イリーナはイノシシに襲い掛かったガルドを見る。


「うおぉぉぉ!」


『小癪な人間が! 我が魔術、思い知れ!』


イノシシ魔人は魔術を展開する。大地から巨大な角が形成されガルドを襲う。


「どっちが小癪だ! デカい図体して魔術か!」


ガルドは形成された角の先端を紙一重で躱すと、滑るようにイノシシ魔人に急接近する。


「おぉ、ガルドやるな……でもあの魔人……随分喋るな」


イリーナは感想を言いながら飛びかかってきたムカデの魔物を一刀両断する。片手で。


「い、イリーナさん……こっちどうするんですか?! こんなので時間くってたら……」


「うぅ、ここでラングスなんて出せないな……要塞が崩れる……」


レコスもムカデを切り伏せながらイリーナに零す、クラリスもどうするか迷うが……


「ならこうするか、とりあえずイノシシはガルドに任せて……」


イリーナは角笛を吹いて自身の守護霊を呼び出す。


地下から地響きがする。守護霊が大地で形成され、突き破って出てくる……はずなのだが


「ん……? なんだ?」


イリーナはいつもなら、このタイミングでドラゴンが登場するのに……と地面を見つめた。


巨大なイノシシを支えていた地盤にヒビが入る。


徐々にヒビは広がり……


巨大な空洞内の地盤が崩れムカデ達はそのまま瓦礫と共に落ちていく。


「なっ! い、イリーナ殿! これは妙案だな! 素晴らしい!」


クラリスが称賛するが、イリーナに抱きかかえられる


「レコス!離れるな!」


「は、はい……って、無理です!」


イリーナ達が居るところまで崩れる。レコスは立ち位置がムカデに近かった為に、もう落ちる事は免れない、イリーナは咄嗟にクラリスを抱きかかえたまま


「クラリス! レコスを束縛しろ!」


「お、おぉぅ!」


クラリスは両手を掲げ、本来ならば敵を拘束する魔術を行使する。赤く光る鎖をレコスに巻き付ける。


そしてレコスの落下が一瞬止まる、そのスキにイリーナはクラリスを抱きかかえたままレコスに向かって飛んだ。


「ガルド! 死ぬなよ!」


それだけ言い残してイリーナはレコスの手を取ると共に落ちる。


「なっ、い、イリーナ?!」


ガルドはイノシシ魔人と交戦しながら、崩れる瓦礫と共に落ちるイリーナへ目線を向ける。


ガルドは一瞬背筋が凍った。


(しまった……やられる……!)


決して油断していい相手ではない、ガルドは視線を外した事を後悔するが


イノシシ魔人はガルドの明らかな隙を突かなかった。それどころかその場に鎮座するように足を折る。


『なんじゃ、やる気が失せたわ』


そんな事を言う魔人、ガルドは困惑している。


「お前……」


『あぁん? おい、行かんでいいのか、気にせんでも……儂は追いかけたりせんわ、そんな穴に飛び込んだら戻ってこれんしの』


ガルドはため息をつきながら大剣を仕舞う。


魔人にも話しの通じる奴と通じない奴が居る。こいつは前者のようだ。むしろガルドは今の自分が話の通じない亡者のようだと思った。


「あいつらなら大丈夫だ……おい、魔人、人間は見なかったか。俺と同じような格好をした12人だ」


『いきなり襲い掛かってきたと思えば……図々しいの、人間は……』


「見たのか?! 見なかったのか?!」


『見てないわ、儂はここ数日眠っとったんじゃ……そこをジャマしおってからに……儂の家も崩れてしまったではないか』


ガルドは舌打ちしながら腕を組んで考える。


(数日ここで眠っていた……俺達が着た時はコイツは居なかった……俺が去った後にコイツが眠ったとすれば……いや、どのみちここを通るのは不可能だ……穴という穴にムカデが……)


『ん? なんじゃ、今更……ここにおるぞ』


「あ?」


魔人のいきなりの発言にガルドは険しい視線を送るが……


『通信じゃ、ここのボス気取りが侵入者じゃと……儂には関係ないがの』


「今思いっきり報告してただろうが! くそ、やっぱり殺しとくんだった……」


だが今さらやる気も無いガルドは、イリーナ達が向かう穴には向かわず要塞の外壁を見渡す。


そして小窓のような物を見つけると、生い茂る木の根を伝い上り始めた。


『ふぁ……儂は森で寝るか……』


イノシシ魔人はそのまま軽く頭を振りつつ、要塞を囲っている塀を軽々と破壊する。


「なっ……無茶するヤツ……って……!」


ガルド目掛けて瓦礫が飛んでくる。咄嗟に飛び降り、難を逃れるが……その瓦礫だけで要塞の外壁が破壊され、日光にさらされた魔物がまたしても涌き出てきた。


「おいおいおい、ふざけんなよ……」


魔物達は侵入者をガルドと見定めると、一気に地面へと落下するように距離を詰めてくる。


「くそ……一旦退くしか……」



その時、背後の壊れた塀から先程出て行った巨大なイノシシが飛び込んで来た、いや、放り込まれた。


『ごぁ……ぁが……が……』


激音と共に放り込まれ、うめき声を上げるイノシシ魔人、魔物もその下敷にされる。


そして背後からガシャガシャと金属音。


ガルドは背後を振り向くと、黒い鎧に身を包んだ騎士が歩いて近づいてきた。


その傍らには魔術師らしき女性も居る。


「貴方か、イリーナに混血を発見したと伝えた冒険者は」


騎士は全身黒で染め上げられていた。兜もすっぽりかぶり、中からぐもった声が聞こえる。


「お、お前は……」


「レインセル連隊騎士のザナリア・アーフィスと申します。こちらはラティア・マイカ」


紹介されたラティアはペコペコと頭を下げる。


騎士は肩に特大の大剣を背負い、魔術師は手ぶらだが片方の手だけグローブをしている。


ガルドは二人が巨大なイノシシを放り込んだのか、と驚愕の眼差しで見ていた。


あの魔人が出て行って数分も経っていない、その短時間に動けない程に痛めつけ、放り込んだのだ。


イノシシ魔人は無視の息で、体中から焼け焦げた匂いがした。


それだけでガルドは二人の実力が、自分とはかけ離れている事を感じ取ってしまった。


「イリーナ達は? 一緒では無いのですか?」


鎧の騎士はガルドへと辺りを見渡しながら尋ねる。


ガルドは崩落した要塞内、そこを指さしながら


「あそこから落ちた。だが死んでは居ない、俺が生きているからな……」


その発言に魔術師はハっとする。ガルドの手首に掛かっている魔術を見て。


「まさか……永久の契を……」


魔術師ラティアの発言にガルドは怪訝な顔をする……


「おい、待て……今なんて言った……」


「で、ですから……永久の契っていう魔術です、それ……どちらかが絶命したり、命にかかわる傷を負うと、相手側にも同じことが……かなり古い風習で使われてた魔術ですけど……その、結婚を前提に付き合う恋人同士が使う……」



ガルドは頭を抱えながら項垂れた。










 要塞内の瓦礫と一緒に落下したイリーナ達。


そこは巨大な洞窟のような場所だった。イリーナは目を覚ますと何か不快な感触がすると体を起こす。


そして凍り付いた。先に落ちたムカデがクッションになっていた。


「げ……クラリス……居るな……レコスは……くそ、離れたか……」


イリーナはクラリスが目を覚まして感触で悲鳴を上げる前に抱きかかえ、とりあえずムカデから離れる。


ムカデ達も気絶しているようだったが、いつ動き出すか分からない。


イリーナは巨大な洞窟内をクラリスを抱えながら、とりあえず安全な場所を求めて散策する。


巨大なホールのような空間、人の手が入っているようで階段のような物もある。


その階段を上った先に、小部屋のような空間があった。


とりあえずイリーナはそこにクラリスを寝かせる。


「レスガントの……秘密基地か……? しかし……こんな空洞の上に要塞建てるか普通……」


イリーナはふと上を見上げると、かすかに灯りが見えた。自分達はあそこから落ちてきたのかと思うとゾっとする。ムガデ達がクッションになったとはいえ、助かったのは奇跡的だった。


「レコス……何処行ったんだ……無事なのか……?」


「んっ……んぅ……」


クラリスが目を覚まし、ゆっくり上体を起こす。


「起きたか、異常はないか?」


「あ、あぁ……大丈夫だ……腰が少し痛いけど……」


クラリスは立ち上がりながら、老人のように腰を叩きながら壁に手を着く。


「ん? なんだ、ここ……妙に冷えるな……それにこの壁……」


「地下の洞窟のようだ。上がるのは難しいな、まあ通じる通路なりなんなり……あるとは思うが……」


なんせ人の手が入ってるのだ、数百年前のレスガンド人が使っていたのなら……とイリーナは考えるが……


「しかし……なんせ広すぎる。探索を掛けてみたいところだが……」


例の混血の存在もある。ガルドとレコスが居ればイリーナも戦う選択肢もあったが、今は出来るだけ無駄な交戦はしたくなかった。先にレコスと合流するほうが先決だと考える。


「むむぅ、状況がいまいち……ん? ちょっと待て……誰かが探索を使ったぞ、かなり広範囲だ」


「まさか……応援にきた魔術師か?」


「そのようだ……魔人が使ったにしては綺麗な術だ」


ということは騎士も共に居るはず、とイリーナはローレンス付近に派遣された騎士を思い出す。


「たしか……サリス隊で副長だった奴が……あの黒騎士か……」


「知ってるのか?」


ああ、と頷きながらイリーナは安心したように座る。


「大丈夫だ、サリスの右腕と言われていた男だ。今は隊長不在の隊だが……まあ、少し問題があって隊長への昇進は見送られて居るヤツだが……腕は確かだ」


「問題って……?」


イリーナはポリポリ頭を掻きながら……


「シャイなんだ。兜を被ってないと他人とマトモに会話すら出来ない」


「……へ、へー……」


イリーナはしばらく考えた後、クラリスへ探索魔術を要請する。


「あいつらも使ったんだ。こっちも使えば……魔人は混乱するだろ。どっちに向かうか迷うはずだ、そのスキに……」


「レコス殿を探すんだな、承知した……」


クラリスは探索魔術を行使する。地下の洞窟内のみを限定したいが、どの程度の広さか把握するためにも広範囲で探索する必要がある。その為どのみち要塞内全て探索する必要があった。


「ん……見つけたぞ……まだ眠っている、この下……ん……げ、これって例の地底湖じゃないか? レコス殿よく沈まないな……って、まさかもう……」


クラリスは幽霊……つまりは死後の状態のレコスも探知できてしまう、イリーナは真っ青になり小部屋から飛び出す。


「クラリス! そこに居てくれ!」


イリーナは昇ってきた階段を一気に飛び降り、下を目指す。


「くそ……レコス……レコス……!」


広大な洞窟、その階下を目指してイリーナは走る、そして淡い光を放つ地底湖を見つけた。



「レコス! …………はぁ………」


地底湖の中央


これを奇跡と言わずしてなんだ、とイリーナは脱力する。


気絶したムカデが浮き輪のように、レコスを支えていた。


だが


「まて……しまった……クラリス……!」



自分のマヌケさに腹が立つ、先程探索をして洞窟内で位置がバレている。


そこにクラリスを置いてきたのだ、イリーナは鎧を脱ぎ捨て地底湖に飛び込み、レコスを救いだし陸へと上がる。


息があるのを確認し、上体を起こして背中から胸骨を押し込んだ。


「うほぁ! うぇ……え?」


「水飲んでないな……?! 走れるか?!」


混乱するレコスはイリーナを見て唖然とする。鎧を脱いで半裸状態、しかも全身ずぶ濡れだった。


「い、イリーナさ……」


「早くしろ! クラリスが危ない!」


レコスはそれだけ聞くと立ち上がり、多少よろけつつもイリーナの長剣だけを持って後を追う。


イリーナが飛び降りてきた段差には、しっかりと階段が設けられていた。


それを駆け上りクラリスの元に向かうイリーナとレコス。




『ガァァァァァ!』




魔人と思われる雄叫びが響く。




「イリーナさん!」


レコスが長剣を投げて寄こし、イリーナは受け取ると鞘から抜く


そして先程自分が目覚めた場所、ムカデのクッションは無くなっていた。


「不味い……まさかクラリスの所に……」


「え、え?」


レコスは混乱しているものの、イリーナはクラリスの元へと疾走する。


護衛の騎士として来たのになんてザマだ、とイリーナは歯を食いしばる。




そしてクラリスの元へと辿りついたイリーナ。




持っていた長剣は床へと落ちた。



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