崩れる何か
――5年前――
イリーナとリュネリアは、バラス島へと潜入する。オズマ率いるバラス島出身の騎士団が、シェルスの処刑と共にレインセルへ侵攻することを知った。
そしてそれは、オズマ配下の騎士がコロシアムの警備に付かない事を意味していた。
少なくとも手練れはレインセルへと攻め込む為に船に乗りこんでいる筈……とイリーナは考えたが、もし万が一、自分の手に余る騎士が一人でも居た場合、失敗する可能性が高い。
シェルスを助け出す為に、イリーナは迷う事なく……ある人物と接触する。
バラス島に潜伏している名前もない盗賊団。
そのリーダーの男と。
暗い洞窟の中、マントで顔を隠したリュネリアと共に盗賊団と取引をしていた。
「報酬は?」
「そちらが自由に決めてくれ。とりあえず……今用意できるだけの金はこれだけだ」
イリーナはリュネリアがマントから出した金の入った革袋を男の前に出す。
金貨100枚程度が入った袋。
「ふん……小娘一人助けるのに……こんな金額出すのか。お前……もしかして……」
「余計な詮索は無しで頼む。お互いそっちのほうが好都合だろう」
暗い洞窟の中には盗賊が14名佇んでいた。
(どいつもこいつも……ご丁寧に顔を隠しているとは……いや……一人だけ……)
「おい、そっちのマントは何だ? どうにも信用できねえんだけど……」
一人だけ顔を隠していない女が居た。リュネリアを不審に思ったのか、イリーナの前に出てくる。
イリーナはその女の顔に見覚えがあり、薄く笑いながら
「お前……リーン・レーヴェンか。騎士殺しの次は盗賊か。なかなか忙しい人生送ってるな」
「余計な御世話だ。あと元々盗賊だ、それより……そっちのマントの男……顔を見せろ」
リュネリアは聖女だ、しかもシェルスが最も信頼し母親のように思っている。
レインセルの聖女、しかも姫専属が盗賊と取引したなどという事を外部に漏らすのは、極力避けたかった。
しかしイリーナは、リーンがマントの男、と言った事に安心してしまう。
少なくとも女とは認識されていない、顔さえ見られなければ……と、イリーナはリーンから視線を外し
「だったら他の連中は……あんたもだ、リーダー。顔見せてくれるのか?」
「随分態度がでけえじゃねえか、お前助けを求めにきたんじゃねえのか?!」
リーンはイリーナに掴みかかる、が、次の瞬間リーンの世界は180度回転する。
「なっ……が?!」
脚を払って頭から地面に叩きつけた。リーンは突然の衝撃に失神する。
周りの盗賊が武器を取り警戒するが、リーダーの男が手を上げて制す。
「あんたの言う通りだ。俺達の中には顔を見せるのが嫌いな連中が多くてね、俺もだが……余計な詮索をした、許してくれ」
「別に怒ってない」
失神したリーンを岩にもたれさせるように寝かせ、イリーナは話を続ける。
「それで……あんたらに頼みたいのは処刑当日の護衛なんだが……」
「盗賊に護衛頼む騎士か……貴様……イリーナ・アルベインか」
イリーナはやっぱりバレた、と頭を掻きながら
「余計な詮索は無しで頼む……まあ、別に名前がバレても私は痛くも痒くもない」
「すまんな、あれこれ考えるのが俺の趣味なんだ。まあ、今のは半分以上勘だが……そうか、お前があの……イリーナか。あんたとは良い付き合いが出来そうだな」
勘弁してくれとイリーナは手を振りつつ
「当日、手練れの騎士が居る可能性がある。居なければそれに越したことはないが……私達の目的は姫救出とブラグの殺害だ。ブラグは私が殺る。」
「了解、騎士殿……」
リーダー格の男は立ちあがり、金貨の入った袋を傾け14枚の金貨を出す。
「俺達は基本的に自由でね……俺は仕事を受ける」
リーダー格の男は金貨を一枚取り懐に仕舞う。
イリーナは何の儀式だ、と思うが……佇んでいた盗賊が次々と金貨を一枚ずつ取っていく。
「計画を立てた時に乗る乗らないは自由っていうのがウチのスタンスなんだ。そっちの女は強制参加だな」
男は親指で金貨を弾き、気絶しているリーンの胸元に落とした。
14枚の金貨は全て受け取られた。
イリーナは拳を握りしめる。
処刑当日、この盗賊団と共にシェルスを救出し、ブラグを殺す。
この時イリーナは思いもしなかった。
処刑が悪趣味極まりない物だった事、そして観衆がシェルスを殺せと歓喜している事。
イリーナは護衛とした雇った盗賊に計画とは違う命令を下した。
結果、盗賊団はイリーナの命令を速やかに実行する。
イリーナはその光景をブラグを殺した高台から眺めていた。
逃げ惑う悪趣味な観衆を惨殺していく盗賊達。
イリーナはその光景を見ても、なんの感情も生まれてこなかった。
(なんでだ……少しくらい罪悪感なり……あると思ったけど……私はとっくに壊れてたのか……)
半刻も満たない内に観衆は皆殺しにされる。
そして盗賊団はついでにと観衆の金品を集め始めた。
「おい、もうじき騎士団が来るだろう。程々にしておけよ。私ももう退くからな」
淡々と言い放つ自分に違和感すら感じない
「あぁ、じゃあな。幸運を」




