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自身の影

 コルネス王家の結婚式、その翌日。


パーティー会場で魔人が出現し、それを撃退したのはレジナルドの客人の冒険者、と伝えられた。


実際は冤罪で投獄された冒険者なのだが……


シェルスは自分の私室のベットの上で、窓から流れ込む風を受けていた。


日差しが暖かく、時折涼しい風が吹き込む。


思わず眠ってしまいそうになるが、シェルスの脳裏について離れない魔人の姿が映る。


(あの魔人は……違う……でも何が……)


「朝飯だぞー」


リーンがルンルとマリムと共に朝食を持ってくる。


パンにルンル特製のジャム、それにスープにサラダ。


「リーン……もう大丈夫なの……?」


「当たり前だ。騎士団長フルボッコにした侍女だぞ」


もうすでに定番のセリフになっている……とシェルスは笑いながらベットから降り、3人の侍女達と共に朝食を取る。


ルンルがパンにジャムを塗り、シェルスに渡す。


「大丈夫か? 顔色悪いぞ。王女」


「うん……大丈夫……」


パンを受け取り齧る。ジャムはホンノリ甘く、美味しかった。


しかしシェルスは思わず思いだしてしまう。ジャムといえば……


「あははっ……」


「ん? 何一人で笑ってんだ……怖いぞ」


リーンがいきなり笑いだしたシェルスを見て怯えるが


「え? ぁ、うん、レインセルに……甘いジャムが大好きな子が居て……」


シェルスは3人の侍女にクラリスの話をする。


レインセルで最高の魔術師、シンシアの腹違いの妹。極端に甘い物が大好きで魂の専門家の魔術師の話を。






「は……ハクショアー!」


豪快にクシャミをするクラリス。


場所はレインセル、ローレンス付近の農村。


「また豪快なクシャミするな、風邪か?」


「大丈夫だ……ゼシル様が怒ってるのかな……」


クラリスとイリーナ、それにレコスが小さな農村で地脈と繋がる魔術師を探していた。


「クラリス様、村長に事情を話してきました。村人への調査を許可して頂きました」


「ああぁ、レコス殿……悪い……」


ズー……と鼻をすすりながらクラリスはイリーナと腕を組んでゆっくり歩く。


「あぁ、本当に悪いな……こんな私をエスコートするのも大変だろうに……」


「きにすんな。シンシアより断然マシだし……デスクワークは意地悪爺さんに任せればいい、たまには外に出るくらい……」


暗唱の宝石からもたらされた地脈が乱れているという話を聞かされたゼシルは、魔術師を各方面の小さな村などに派遣し調査する事を始めた。


なぜ小さな村なのか。地脈と繋がるような才能の持ち主ならば、とっくに魔術師にスカウトされているハズ……という考えだった。つまり大きな街、スコルアやローレンスにはマシル在籍の魔術師が駐在している為、そんな才能の魔術師を見落とす筈がない。実際にステアのように大きな才能を持つ者は、シンシアがそうしたように一目で分かるのだ。ステアは奴隷として隠れて生活し、奴隷生活を終えた後も盗賊として活動していた。魔術師の目に留まればもっと早く才能を開花させて居たはずなのだが……


そしてなぜクラリスが派遣されているのか。


ナハトのデスクワークにウンザリしたクラリスはここぞとばかりに、


『私なら魂の色で才能持つものなら一目で分かる! 効率的だし! ナハトの仕事は一時的にゼシル様に任せる! これは最高責任者の指示です! 以上!』


それから騎士団の中で一番クラリスが話しやすい? イリーナを指名し、イリーナは相棒であるレコスを連れて3人で調査に乗り出した。他にも魔術師と騎士がコンビになっていくつかのグループで調査に乗り出している。


「ん? レコス……村人の様子はどうだ」


イリーナが村の雰囲気に違和感を感じレコスへと打診する。


「へ? 別に……普通ですけど……」


「何か匂うな……クラリス……ちょっと……」


イリーナはクラリスに耳打ちする。レコスは首を傾げて二人を見つめていた。


(いいな……イリーナさんに耳打ちされた事とか無いな……僕……)




 村の広場に村人達が集まってきていた。


「長老……なんの騒ぎだ……」


「レインセルの偉い人の調査じゃ……良いか、間違っても……あの事は……」


「わ、わかってる……でも、解決してくれるかも知れねえ……エライ人なんだろ?」


「バカモノ……もし失敗でもしたら……この村の人間は皆殺しにされるぞ……」


そんな物騒な会話をしている村人の元に、クラリスとイリーナ、レコスが近づく。


クラリスが臭いを頼りに、イリーナから手を離して一人の娘の前に立った。


「クンクン……」


「あ、あの……何か……」


クラリスは娘の肩を掴んで胸元でクンクン匂いを嗅ぎつつ


「魔物の匂いがする……」


そんな事を言いだした。村人達はビクっと背筋を凍らせる。


「クンクン……お嬢さん……魔物を討伐したことは?」


「あ、ありません! そんな事できるわけ……」


ですよねーと、クラリスは頭を掻きながら他の村人も匂いを嗅ぎ分けるように……


そこに一人の農夫がクラリスの行く手を阻むように前に立ち


「お、おい! なんの調査だ! そんな魔人がどうとか……俺達には関係ねえ……」



「魔人……?」


ピクっとつかさずイリーナが反応する。


「お? そうだそうだ、この匂いは魔人だなぁ……おじさんよくわかるなぁ……もしかして……魔人がバケてるのかなぁ……」


ニタァ……とクラリスは魔術を展開しながら農夫を威嚇する。


「な、な?! ち、違う!! 魔人は俺じゃねえ! 村の地下に隠れてるヤツが……ぁっ……」


「地下か……」


イリーナが地面をトントンと足踏みする。クラリスも魔術を止めて地面を見る。


「バ、バカモノ! あれほど言うなと……」


長老らしき男が農夫へと詰め寄り、そしてイリーナへと視線を映した。


「騎士殿……! 悪い事は言いませぬ! どうかこのままお引き取りを……下手に手を出せば我々は……」


「魔人に何をさせられてるんだ、それに寄る。肩もみか? 耳かきか? 生贄か?」


長老は一瞬歯を食いしばり


「た、ただ……食料を……村で収穫して農作物を……」


「いいんだな」


イリーナは長老を見ながら言い放つ。農作物程度で済んでいるのなら、そのまま魔人を野放しにしてもいいのかと。


「い、いいですとも……村人が……無事なら……」


「よし、じゃあもう用は無い。クラリス、レコス、次の村に行くぞ」


そのままレコスは馬車へと向かい、イリーナはクラリスを連れて歩きだす。


イリーナの耳に、かすかに届いてきた声があった。




「たすけてください……」




だがイリーナは無視する。


そのままクラリスと歩く。


「お、おい、イリーナ殿……いいのか……?」


クラリスも目が見えない分、聴覚と嗅覚は優れていた。村人の若い娘が泣いてる事などすぐに気が付いたが。


「構わない。農作物で済んでるんだ。それで納得してるんなら……別にいいじゃないか」


イリーナはわざと村人にも聞こえる声で言い放つ。




 村娘の一人、シーナは村へ騎士団が来たと聞いて期待していた。


レインセルの騎士は魔人を何匹も討伐している。もしかしたら助けてくれるかもしれない。


だが、案の定……長老は現状維持を選んだ。


(次の生贄は私なのに……私は見殺しにされたんだ……)


その前の生贄は幼馴染だった。


(あの子も……私も……村に殺されたんだ……)


正直魔人が憎い、というより村が憎かった。魔人に敵わないと分かっていても、どうせこのまま搾取されていつかは皆殺しにされる。


そうなる前に村人全員で特攻したほうがよっぽどマシだとも思った。



シーナは去ろうとする騎士が希望に見えた。


この現状を打破してくれる、そして


(もういやだ……こんな村……居たくない……)


連れだしてほしかった。この村から。


シーナはかすなかな声で訴える。


「たすけてください……」


だが騎士は無視した。聞こえていないとは思わなかった。


そして次に出てきた言葉が


「農作物で済んでるんだ。別にいいじゃないか」


(私達は……農作物じゃない……!)








 イリーナはクラリスと腕を組んでゆっくりと歩く。


レコスが馬車の準備を終え、扉を開けた時


「助けて……助けて!」


叫ぶ村娘が居た。イリーナは振り返る。そして


「クラリス」


「あぁ、イリーナ殿悪趣味すぎる……」


クラリスは自らの守護霊を顕現させる。


守護霊ラングス。50mを越える巨人、かつて英雄ナハトと共に旅をした魔術師。


『主よ! お呼びか! 何用か?』


地響きを立ながらラングスは大地に降り立つ。


その時点でイリーナは鼻で笑う。


「守護霊の気配で怯えてるぞ。雑魚が……」


「あー、地下だっけ……おい、ラングス。面倒だから地面ごと抉れ」


ラングスはダイレクトに地面へと拳を突き刺す。


激音と共に農村に巨大な穴が開けられ、その中から魔人が姿を現した。


『アァ……メ、メチャクチャダ……』


流石に村人達も魔人に同意する。




「殺せ」


クラリスの一言でラングスは魔人を睨みつけ、そのまま再び拳を振りかぶり


魔人の断末魔も聞こえなかった。そのまま拳で跡形も無く魔人は砕け散った。



イリーナは村人に近寄り、叫んだ娘を見つけると腕を取る。


「来い、生贄だと決まっていた娘は? 他に居るのか?」


村人達は沈黙する。シーナは驚いていた。自分が生贄に差し出されると見抜かれていた。


叫んだのだから、そのくらい推測できるかもしれない。


「お前、名前は? それと親兄弟は居るのか」


「シーナ……親兄弟は……居ないです……」


よし、とイリーナはシーナを担いで馬車へと運ぶ。シーナは大人しくイリーナに担がれ……村人達は呆気に取られている。


「イリーナ殿……その子どうするんだ……?」


「寄り道になるけど……レコス、ローレンスまで走ってくれ。そこに知り合いの商家が居るんだ。とりあえずはそこに預ける」


シーナを馬車に乗せると、クラリスの手を引いてイリーナも馬車に乗りこむ。



「ありがとう……」




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