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ウェルセンツの聖騎士

 結界内で魔人がシェルスに迫る。


だがシェルスは治癒魔術を止めようとはしない。止めるわけには行かない。


ここで止めれば本当に後悔することは分かっていた。


(あの時もそうだった……ここで……止めたら……)


ここで魔人に殺されるのも、あとで後悔しながら自殺するのも同じだ、とシェルスは魔人を睨みつける。


魔人は斧を振りかぶり、シェルス目掛けて振り下ろす。


「バカ野郎! そんな爺見捨てろ!」


リーンが壁に飾ってあった儀礼用の剣で斧を弾く、当然のように剣は一撃で砕け散った。


「くそ……もっとマシなものを飾れよ……」


「リーン……! 治癒魔術変わって! 私が……」


最後まで言う前にリーンは魔人の2激目で弾き飛ばされる。


「なっ……」


強い。圧倒的に強い。今までシェルスが相手をしてきた魔人の比ではない。


リーンは壁に激突し、そのまま動かなくなった。


「リーン! そんな……」


(コルネスの騎士団長ですら……子供扱いにしたリーンが……一撃で……)


「シェルス! おい、こっちだ!」


魔人を引き付けようとオルビスが同じように儀礼用の剣で魔人を威嚇する。だがオルビスは嗜み程度に剣の稽古をした程度、そんな人間が魔人に敵う筈もなく


「だめ! オルビス逃げて!」


シェルスの叫びも空しく、オルビスも魔人の拳で弾き飛ばされる。貴族が群がっている壁際に突っ込み、混乱がより大きな物になる。


シェルスは歯を食いしばる。


目の前の魔人は強い。だがそれが何だ。


(早く……治療を終わらせて……剣を……誰か……剣を……)


貴族達が逃げ惑い壁際で開けろと泣き叫んでいる。


なぜ騎士団は現れないのか、シェルスは状況をなんとなく飲みこんでいた。


(結界だ……レコスと……私が閉じ込められた時と同じような状況だ……騎士団は外……リーンも立てない……治療はまだ終わらない……でも止めるわけには行かない……)


魔人が迫る。


シェルスを鷲掴みにしようと巨大な手を広げて


(いやだ……逃げたくない……逃げたくない……お願い……逃げないで……お願い……)


魔人がシェルスを鷲掴みにする。


「ぁ……」


治癒魔術が途切れた。シェルスは、もうバハーラスは助からないと思い


「ふざけるな! 離せ! 邪魔するなぁ!」


魔人は嗤う。惨めにもがいてる人間を見て。


シェルスは完全に握りしめられ動けない。


「くそ……くそ……!」


魔人の手をサリス仕込みの鉄拳で殴りつける。だがビクともしない。もとより魔人に腹を締めつけられて力もまともに出ない。だんだんと目の前が薄暗くなってくる。


「あ……が……」


自分の骨がミシミシと音を立てている。ここで終わる、コルネスに来て、こんな魔人に殺されて、こんなところで自分が終わる、シェルスは歯を食いしばって泣きながら魔人を睨みつける。




「お前なんかに……殺されて……たまるか……魔人なんかに……!」




その時だった。


魔人の手の力が緩み、シェルスは床に落とされる。


「ぁ……あぁっ……ゴホ……ッ……」


咳き込みながら魔人を見る。


その体に巨大な剣が刺さっている。


「な、何が……」



魔人は10mほどだった、剣はその胸をやすやすと貫いている。


とても人間が扱える大きさの剣ではない、特大の大剣どころの話では無い。


その時、魔人が怯んでいる隙をつくように、一人の男がバハーラスを抱きかかえつつ治療魔術を施す。


「キリ、治せるか?」


『大丈夫です、タブン』


男はバハーラスを床に寝かせる。バハーラスの腹の部分に何か光る物が居た。


そのまま男は淡々と魔人に向かって歩く。


魔人は胸を貫かれた剣を掴むと、自分の体を引き裂くようにしながら剣を取り除く


その光景を見てシェルスは確信する。


(違う……レインセルの魔人とは……全然……違うモノだ……)


魔人に向かって歩く男は儀礼用の服に身を包んでいた。胸の記章はコルネスの魔術に携わる物なら誰でも一目で分かる物だった。



シェルスは、その男の顔を見て思いだした。数日前に自分が池から救出した男だった。




混乱するシェルスを前にして男は、床に散らばっているステーキ用のナイフを手に取る。


シェルスは、まさかそんなもので対抗する気か、と男の頭を疑ったが……


「ララ、もう一度だ」


『おいっす』


シェルスは目を疑う。男の持つナイフが巨大な剣へと変貌していく。


そしてその剣の傍には、光る物が浮いていた。


魔人も男の異様さに気が付いたのか、一気に詰め寄る。


斧で男を両断しようと振りかぶる。


「レジナルドのオッサンは何処行ったんだ……」


男はボヤきながら、巨大な剣を構える。


そして魔人が斧を振る前に


巨大な光の剣で魔人の胴体を両断した。



「なっ……」


シェルスは言葉が出ない。


あの時池から助けた男、見るかに冒険者といった感じだったが、魔術らしきものを使って魔人を撃退した。


シェルスが今まで見てきた魔人とは比較にならない魔人を、余力を残して両断したのだ。


「あんがとな、ララ」


『おいっす』


男は何かと話している。


その何かは光る物体だったのか、会話の後静かに姿を消した。


「王女様ダイジョブ? あぁ、あのオッサンも大丈夫っぽいぜ、タブン」


呆気に取られるシェルス、次の瞬間結界が解除され騎士団と護衛団がシェルスとオルビスの元に駆け寄ってくる。


「貴様! 何をした!」


護衛団がシェルスを救った男を取り抑える。


「えっ?! また俺?! ちょ、ちが……俺は……」


「離しなさい……その方は私の命の恩人です……」


シェルスが静かに言い放つと、護衛団は男から手を離し……


そのままシェルスは静かに気を失った。












「おい、イヴァン……何があった」


レジナルドが気を失ったシェルスを診察し、すぐにマリム(レジナルドの母親)の所に運ぶように指示する。


「魔人が急に出てきて……あ、いや……その前になんか爆発したような……」


「お前が王女を救ったのか。マヌケな騎士よりよほど役に立つじゃないか」


それを聞いていた騎士達は何も言い返せない。まさに今夜はマヌケで片づけれるような状況では無かった。それはレジナルドも同じだが。


「それよりイヴァン……なぜ隠してた……」


レジナルドはイヴァンに一気に距離を詰めて問い詰める


「な、なにが?! お、おれ別に何も……」


「隠すな。ウェルセンツの妖精術だろう。あとで詳しく聞かせろ。じゃなきゃ解剖するからな」


薄く笑いながらレジナルドはそのまま消える。








老人が一人、パーティ会場から少し離れた所に佇んでいた。


『予想外の収穫じゃ。地脈と繋がる魔術師に……ウェルセンツの聖騎士まで見つけたぞ』


『そうか、オルビスの暗殺は?』


『失敗じゃ』


『おい爺……そっちが本命だろうが!』


老人は薄く笑いながら通信を一方的に切る。


「もうすぐじゃぞ……すべてだ……全て皆殺しにできる……」


老人は黒い渦を後方に出現させると、その中に消えて行った。








マリムの元に運ばれたシェルスは、数時間後に目を覚ました。


「シェルス王女……」


そこに居たのはディオールだった。


「ディオール……?」


「安静に……パーティー会場で……魔人が出現したそうですね……皆慌てていました……父も……」


ディオールはシェルスの手を握りしめながら


「貴方は……父の命の恩人です……ありがとうございます……」


その言葉を聞いてシェルスは安心する。


バハーラスは無事だと。


「おい! お前いつまで手握ってんだ! どけコラ!」


マリムに言われてシェルスの横から退くディオール。


そのままマリムはベットの上によじ登り、シェルスの熱をオデコを当てて測る。


「熱は下がったみたいだな。今日はもう寝ろ、腹減ったか?」


「少し……」


「よし、ちょっと待ってろ。ルンルに作らせるからな。おい、お前、しばらくシェルス見てろ」


ディオールに指示しながらマリムは部屋から出ていく。


シェルスはディオールの顔を見ながら


「ディオール……リーンやオルビスは……」


「オルビスは部屋で寝ているようです……リーンという女性も……先程マリムさんが話してましたよ、無事だったと……」


「貴方も……無事だったんですね……」


「あぁ、いえ……私は元々あの会場には……父に出ていけと言われた身ですし……」


シェルスは目を瞑りながら


「バハールト様の傍に……居てあげてください……あの方は……オルビスの……」


シェルスはそのまま静かに眠る。




「申し訳ありません……シェルス王女……私は卑怯な男です……」





ディオールはそのまま部屋から出ていく。




懐から、そっと宝石を取り出す。


暗い光を放つ宝石を。


魔人が宿る、暗唱の宝石。


それと同様の魔人が宿る宝石を。





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