過去の幻影
クローギス・ベディヴィアがシェルスと共に歩く。
オルビスの元へと辿りつくと、ゆっくりとクローギスはオルビスにシェルスを託した。
クローギスは会釈をすると席に座り、オルビスとシェルスは向かい合う。
神父は居ない。コルネスで信仰される神の足元で二人は誓いを立てる。
「私……オルビス・ガルバージェは……シェルス・ガルバージェの生涯を共にある事を……恩神サランハスクローツに誓います……」
シェルスは緊張して喉が縮んでいたが、精一杯の声を張り上げ
「はい、私、シェルス・ガルバージェは……貴方、オルビス・ガルバージェと共に……生涯を共にすることを恩神サランハスクローツに誓います……」
この時点でオルビスは安心する、夢のように断られるのではないかと思っていた。
オルビスはゆっくりとシェルスのベールを捲る。
シェルスは目を閉じ、オルビスは静かに唇を重ねた。
貴族達は拍手をしながら二人を祝福する。
その中で、妙なタレコミがあったと騎士団長二人、王族護衛団は睨みを利かせていた。
レジナルドも礼拝堂周辺に探索魔術を展開していた。
(妙な気配はする……が……なんだ……? 守護霊とも何か違う……どちらかというと魔人か……)
一通りの儀礼を終わらせたオルビスとシェルスが退場する。
そのまま礼拝堂の貴族は要塞の最上階にあるパーティー会場へと移動する。
スヴェルはオルビスの警護につきつつ、貴族達とは別のルートで移動していた。
そのスヴェルの緊張がシェルスにも伝わる。
「スヴェル……? 何かあったの?」
「ん?! ぁ、いや……心配するな、大丈夫だ……」
スヴェルは目を反らしながら答える。
二人を会場まで送り届けた時、新たな情報が届いた。
護衛団の兜をかぶった騎士がスヴェルへと耳打ちする。
「何……? 魔人……だと……」
披露宴の会場は最上階にドーム型のように作られていた。すべてカラスで組まれた壁で出来ていた。
すでに外は太陽が沈み、月明かりで会場を照らしていた。
それだけでも十分なほどだったが、天井からは巨大なシャンデリアが釣り下がり、会場を明るく照らしていた。
「俺は外で警備してる。オルビス、いざというときは……シェルスに助けて貰え」
「お、おい……一体なんの……」
オルビスは先程生涯を共にすると誓ったばかりではないかと思いつつ……シェルスの手を握る。
シェルスに守ってもらう為ではない、自分が守る為だと。
その頃レジナルドは、会場の中で一人のローブを被った女性を連れていた。
周りは怪訝な顔をする。レジナルドは元々変人扱いだったが、こんな会場にローブを被った奴を連れてくるとは何事だと言わんばかりだった。
会場で料理にがっついているイヴァンにレジナルドは話しかけ、
「おい、俺とコイツは外を見張る。お前は王女から目を離すな、いいな」
「あ? なんで俺までそんな事……」
「さっきも言っただろう、情報提供は貴様だ。これで何も無ければそれに越したことはないが……」
いいながらレジナルドとローブを被った人物は会場の外へと出ていく。
そこでレジナルドは会場の外に居る警備を見て
「バカな……おい、戻るぞ。騎士団も護衛団もバカばかりか」
戻ろうとドアに手を掛ける、が……
軽い火花が散り、侵入を拒まれる。
「結界だと……」
レジナルドはドーム型の開錠の周りを見渡す。
覆いつくすようにいつの間にか結界が張られている。外に出る者は無視し、中に入ろうとする者は徹底的に拒む結界だった。しかも外でどれだけ騒いでも中には伝わらない。
「気配殺し込みの結界だと……こんな物を張れるものが……」
この国に自分意外にいるのか、とレジナルドは頭を悩ませる。
「破りましょうか……?」
ローブを被った人物は赤い髪の魔術師、マクティベル。手を翳して結界に触れるが……
「やめておけ……何が起こるかわからん。この結界を張るほどの術者が……中にいる……」
レジナルドは破壊とは別の方法で侵入を考える。
異変に気が付いた騎士団と護衛団が口喧嘩し始めるのは、それから数十分経ってからだった。
「アホどもが……この警備の数を見て気づかんのか……どう考えても外に集中しすぎだろう……普段から連携とってないツケが回ってきたな……」
レジナルドは自分達、魔術師の事は棚に上げて言い放った。
『準備は整った。いつでもどうぞ』
そんな声がカイギス家の当主の頭に響いてきた。
オルビスを見る当主。
今はベディヴィア家の現当主と挨拶を交わしていた。
シェルスも共に居る。
(本当に……殺すのか……王権を握る為ならば仕方ないと以前は……この手も考えていたが……)
懐から宝石を出す。
この宝石に何が居るのかは分からない。だが殺されるのはオルビスだけでは無い。
下手をすれば会場にいる人間のほとんどが被害に会う。
『罪なき民を守る為だ。いつの時代も若者の犠牲は付き物なのだ、カイギス』
再び頭に響く声。
やるしかない、そう思った時だった。
「バハーラス殿、本日はありがとうございます」
オルビスが挨拶しに回ってきた。隣にはシェルスも居る。
「シェルス、こちらディオールの父君でカイギス家の現当主だ。私も幼い頃、よくこの方に叱られた。私の父親代わりになって頂いた方だ」
オルビスはシェルスに紹介しながら、本心から言い放った。
「本日はありがとうございます……バハーラス様……」
シェルスはゆっくりとお辞儀しながら挨拶する。
バハーラスは内心あせりつつ、宝石をポケットに仕舞い
「あ、あぁ、そんな、父親代わりだなんて……光栄の極みでございます……立派でしたぞ、オルビス王子……いや、失礼……もう国王でしたな」
「いえいえ、バハーラス殿には……オルビスと呼び捨てで叱って頂けた方が安心します」
オルビスは笑いながらいいつつ、シェルスと共にお辞儀をして次の貴族の元へと去っていく。
バハーラスは自分の心臓の音で周りの雑音が掻き消されていた。
息を整えて、再び宝石を手に取ろうとする。
だが躊躇ってしまう。
(ディオールには……あれだけの事を言いながら……このザマか……器が知れる……)
バハーラスは宝石をポケットに仕舞ったまま手を抜いた。
『所詮その程度か、全くだ、器が知れるな、カイギス』
頭に響く声
そしてポケットの中の宝石が無くなっている事に気が付く。
「まさか……」
バハーラスはオルビスを見る。
黒い、小さな炎がオルビスの背中へと近づくのが見えた。
「オルビス!」
思わずカイギス家の当主は走り、振り返るオルビスを突き飛ばす。その瞬間、オルビスに近寄っていた黒い炎が炸裂する。
バハーラスは吹き飛ばされ床へ転がる。
一瞬、時が停まる。
周りの貴族達は唖然とした顔で転がったバハーラスを見つめている。
一番早く反応したのはシェルスとリーンだった。
「何してんだ! 騎士団はどこだ! 手当を……」
リーンが叫び騎士団を呼び出すが一行に姿を現さない。
シェルスがオルビスから離れ、バハーラスの元に駆け寄って抱きかかえる様にして介抱する。
「大丈夫ですか……?! 一体何が……」
シェルスは治癒魔術で全身に火傷をおったバハーラスを治療するが……
「王女……ディオールに……すまないと……」
「バハーラス様……?! っ……!」
その時シェルスは気づいた。バハーラスの腹は炸裂した炎で吹き飛んでいた。
もう、助からない……
そう思うシェルスの脳裏に、かつてレインセルでシェルスの治療を拒否して死んだ騎士の姿が映る。
「まだ……間に合う……自分で謝ってください……!」
シェルスはバハーラスの腹を抑え、治癒魔術をかけ続ける。
だが、突如として会場内に黒い渦が出現する。
巨大な渦から出てきたのは魔人。
かつてレインセルを襲った魔人、グラスパがしたように魔人が出てくる。
強大な牛の頭を持ち、巨大な斧を持った魔人。
「なっ……なんで……っく……」
しかしシェルスならば問題なく撃破できるレベルの魔人だった。だが今は手が離せない上に武器が無い。
逃げ惑う貴族達、会場の外へ出ようとするが……結界はいつの間にか中の人間を閉じ込める性質に変わっている。
外にいた騎士達は外に出ようと泣き叫んでいる貴族達を見て、歯ぎしりしながら
「おい! レジナルド! 結界を破壊しろ!」
スヴェルが要請する。
だが
「もうやっている……この結界は無理だ……」
レジナルドは結界の性質を見て確信する。
「魔人の混血が中に居る……そいつが張った結界だ……こんな魔術を人間が使えるわけが無い……」
それを聞いていたマクティベルはフードを捲り
「なら、私なら……」
赤い髪の魔術師がベジナルドへと進言する。
その魔術師の姿を見てスヴェルは、コルネスの怪談を思い出し同時に5年前の惨劇を連想した。
マクティベルは魔術を展開する。
彼女が繋がるモノは地脈。
この星その物と繋がると言っても過言ではない力。
魂が帰る、その場所の力を振るう。
「行きます」
「待て! 中の人間ごと吹き飛ばす気か!」
レジナルドの嘆きも空しく全力で結界を攻撃するマクティベル。
激音が要塞から街へも響く。
巨大な稲妻の矢を結界へと突き刺すが……
「ダメですね……」
「ダメで良かったわ! 殺す気か!」




