子供と親
要塞内、礼拝堂にてオルビスが誓いの言葉を告げる。
「私は貴方と共に……永遠であることを誓います」
シェルスはウェディングドレス姿でオルビスに頷きながら返事を返した。
「御断りします……私……もっと頼りになる方がいいので……」
「うわああぁぁあああ!!!」
奇声を上げながらオルビスがベットから跳ね起きる。汗だくで息を切らしながら、窓の外から流れてくる冷たい空気で朝だと気づく。
「ゆ、夢……? は、はぁああ……」
大きくため息を吐くオルビス。
「いい朝だな。良い夢が見れたようで何よりだ……」
いつのまにか部屋の中にいるスヴェル、オルビスは睨みつつベットから降りる。
「お前……俺がどんな気持ちで今日まで……」
「知ってる知ってる……愚痴でも弱音でもいくらでも聞いてやるから……」
スヴェルは紅茶を煎れ、オルビスの前に出す。
「頼むから結婚式で……今みたいな悲鳴は出すなよ」
オルビスは顔を両手で塞ぎながら、ゆっくり頷いた。
オルビスが悪夢を見ている頃、シェルスは侍女3人と共に早起きし、準備していた。
「いよいよだなぁ……結婚か、イリーナが悔しがるだろうなぁ」
リーンがニヤニヤしながらウェディングドレスの仕上げをしているルンルとシェルスを眺めている。
「うん……そうだね……イリーナとシェバは結婚式とか……してないみたいだし……」
「違う違う、お前の晴れ舞台を見れなくて悔しがるんだよ……イリーナの奴まだ泣いてるんじゃないのか?」
シェルスは泣き虫な母親を思い出す。確かに別れる時泣いていた、と。
「大丈夫だよ、レインセルには……頼りになる人が……」
どこかシェルスは寂しそうな目で自分の顔を見る。
(酷い顔だ……もっと……いい顔しないと……)
そんなシェルスの顔を見て、リーンはドレスの裾を掃いているルンルと、装飾品の確認をしているマリムを抱きかかえる
「ん?! ちょ、お前……何すんだ!」
「忙しいんだよ! 降ろせコラ!」
そのまま二人を脇に抱えたリーンがシェルスの隣に立ち、
「頼りになる人ならここにも居るだろ。騎士団長フルボッコにした侍女と、なんでもこなす可愛い侍女が……」
ルンルとマリムはそう言われると顔を見合わせて
「そ、そうだぞ、お前も色々あるだろうけど……」
「元気だせ! なんだったら私の息子紹介してやってもいいぞ!」
二人の侍女は交互に言いながらシェルスを元気付けようとする。
「うん、ありがとうって……マリム……子供居たんだ……」
「ん? あぁ、レジナルドだ」
リーンとシェルスは固まる。
レジナルドが小人族の子供だとは聞いていた。そして背が高いとも聞いて違和感があったが、まさかマリムの息子だとは思っても居なかった。
「まあ……大戦の時に出来た子供だし……」
「っていうか、そろそろ降ろせ! 時間無いんだ!」
いまだにリーンに抱えられていたルンルはジタバタしながら降ろすようリーンに催促する。
リーンは二人を下ろして、シェルスの化粧の準備に取り掛かった。
一方、オルビスも準備を終え礼拝堂へと先に入場していた。
礼拝堂の周りには既に数人の貴族が集まってきていた。
オルビスはスヴェルと友に貴族へと挨拶をしていく。その中にはカイギス家当主の姿もあった。
懐に怪しい宝石を隠しつつ、当主は無表情で息子と同い年のオルビスを数歩離れた位置から見ていた。
どこか同情するように。
これから、今日一日が惨劇に変わる。
カイギス家の当主は脳裏に幼い頃から自分の息子と一緒に走り回るオルビスの姿が浮かぶ。
大戦で父親を殺され、母親もオルビスを産むと静かに息を引き取った。
そして唯一の兄弟である兄のリョウギは、レインセルで殺された。他ならぬあの姫君に。
カイギス家の当主は今さらながら迷っていた。王家を奪うだけならば他にも方法はいくつもあるのではないかと。
何も、殺すことは無いのでは、と。
礼拝堂へと貴族達や幹部が集まってくる。その中には参加を渋っていたレジナルドの姿もあった。そしてイヴァンの姿も。
「な、なんで俺まで……」
「情報提供してきたのはお前だ、責任を持って見届けろ」
イヴァンは礼服に身を包みながら礼拝堂の長椅子に座る。レジナルドの隣を陣取る様にしつつ、周りにはコルネスの貴族が詰めていく。
今この場には護衛団や騎士団長は当然の事、警備は厳重にされている。こんな中でオルビスを殺そうとするのは自殺行為だとイヴァンは思うが
「恐らく……次のパーティーだろう……私も確認したが、妙な動きがある」
レジナルドが静かに言うのを聞いてイヴァンはあからさまに嫌そうな顔をする。
「おい……じゃあ別に俺……ここに居なくても……」
レジナルドはメガネを直しつつ、静かにしろとジェスチャーする。
イヴァンは心のそこから帰りたかった。
シェルスは礼拝堂へと向かう。すでに貴族や幹部達は礼拝堂へと入場していた。その扉の前でシェルスは立ち止まる。
「シェルス、本来なら……お前の父親が隣を歩いてオルビスに渡すんだが……」
「ん? あぁ、リーンが歩いてくれるの?」
リーンは鼻で笑いながら
「それもいいがな……おい、こっちだ」
リーンが手まねきする。すると一人の中年男性が近寄ってきた。黒い髪でオールバック、無精ひげを生やし、身長は180を超えておりシェルスの頭一つ分高かった。
「お前は昔から変わらんな、シア」
「悪かったな。こういう性格なんだ」
シェルスはシアと呼ぶ男性とリーンを交互に見る。
リーンの事がバレている、しかも本名を知っている。
「シェルス、こちら……私の実の父親、クローギス・ベディヴィアだ。といっても……ベディヴィア家当主の座を自分の妹に丸投げした腰抜けだがな」
「なんとでも言え、お前だけには言われなく無いがな……」
リーンは男性に笑いかけながら
「シェルス、お前はレベージュと入れ替わって……この国に来たんだ。まあ、レベージュと私の父親で不満だろうが……コイツがお前の父親代わりだ、我慢してくれ」
「余計な御世話だ……王女、心の準備は宜しいですか?」
シェルスは二人のやり取りに唖然としながら、
「は、はぃ、大丈夫です……」
「ならば参りますか。私が王女の隣を歩いているのを見て……周りの貴族共の顔がどう変わるか……見物ですな」
クローギスは自分の腕を差し出し、シェルスは腕を組む。
そんな二人の様子を見ながら、リーンは後ろから微笑ましい物を見る顔で
「親父……娘二人とも親不孝者だったが……よかったな。娘と歩けて……」
「…………」
クローギスは無言のままだった。シェルスはそっと顔を見上げる。
その顔は無表情だったが、シェルスは泣いている、と思った。
リーンを大戦に参加させ、レベージュをかつての敵国へと送った。
リーンは娘二人とも親不孝者と言ったが、クローギスの内心は恐らく真逆だろう。
礼拝堂の扉がゆっくりと開かれる。
拍手と共にどよめきが起こる。王女の隣にベディヴィア家当主の座を降りた男が立っているのだ。
「行きますか。堂々と振る舞いましょう。我が娘達の為にも……お願いします」
クローギスはシェルスへと言い放つ、シェルスもクローギスの胸の内を分かっているのか、静かに頷きオルビスの元へと歩きだした。
オルビスは祈る。
あの夢が現実にならない事を。
覚悟を決めて、シェルスとクローギスの姿を見つめる。
少しずつ二人は歩いてくる。
その様子を見守る様に、袖から赤い髪の魔術師が見守っていた。
自分もいつか、愛する人と共に式を挙げたいと思いつつ……




