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侍女の嗜み

 侍女二人に叱られながら体を洗われた翌日。


「シェルス、シェルス……目を覚ましなさい……」


「ん……」


何者かに起こされるシェルス。目をゆっくりと開けると、そこに居たのは


「おはよう」


「………………え」


侍女の格好をしたリーンがそこに佇んでいた。


「昨日、やらかしたらしいな」


シェルスは半分寝ぼけながら、ゆっくり体を起こして背伸びする。


「ほら、目を覚ませ」


リーンから冷たい氷水を渡され、一気に飲み干す。寝起きで体が水分を欲しているからか、凄まじく美味しかった。


「昨日、飯も食わずに寝たらしいじゃないか。ルンルとマリムが悲しんでたぞ」


「あれ……そうだっけ……」


氷水を飲んでだんだんと脳が覚醒してくる。


「朝食の前に礼拝堂で祈りの時間だ。さっさと着替え……」


「リーン……侍女?」


今さら何を言ってる、とリーンは首を傾げながら黒いドレスを出してくる。


「どうだ、お前黒が好きだったろ。コルネスの貴族の間でも黒は高級品と決まっているんだ。ほら、さっさと顔洗って来い」


リーンに言われてベットから降り、用意してあった氷水で顔を洗う。冷たい水で一気に目が覚める。


「リーン、どうやって侍女に……」


「あー? 元貴族だしな。顔もレインセルの聖女に美人にされてるからな……さほど難しくなかったぞ。

ベディヴィア家のコネを使えばな」


(ベディヴィア……王家に娘が迎えられるほどの貴族……たしかにそんな貴族のコネがあれば……)


「ほら、さっさと着てる物を脱げ。ルンルとマリムが朝食の支度を終える前に祈りを捧げないとな」


「ぁ、うん……」


何はともあれ、シェルスにとっては気心知れてるリーンが侍女なのは助かった。


リーンに言われたとおりに寝間着を脱ぎ、ドレスに着替える。黒の肩だしドレス、騎士だったシェルスの事を思ってなのか、比較的動きやすいデザインだった。無論走り回れるわけでは無いが。


「似合ってるな。そのドレスもルンルとマリムが作ったんだ。あとで礼いっとけよ」


「凄い……あの二人なんでもできるんだ……」


リーンは薄く笑いながら、シェルスが来ていた寝間着を畳んで洗濯カゴに入れる。


「大戦時にモルガンニカから拉致されてきたんだ。あの二人は……口が悪いのはモルガンニカ独特の……方言みたいなもんだ、気にするな」


「え、拉致されてきたって……」


「まあ、今さら戻れないっていうのと……ほっとけない、おてんば娘が居るからな。あの二人は結構お前の事気に入ってるぞ」


シェルスは恥ずかしそうに笑いつつ、リーンと共に礼拝堂へと向かう。


中庭に一度降りて、礼拝堂の前へと歩いて行くと……正面でオルビスと貴族らしき男性が談話していた。


「おはようございます、オルビス……」


シェルスは挨拶しながらオルビスの隣にいる男性に目配せする。


「シェルス様、無礼をお許しください、おはようございます」


丁寧な挨拶をされてシェルスもお辞儀しながら返すが……


「シェルス、こちらカイギス家の長男、ディオール殿だ。私とは幼少の頃からの付き合いがある。そんな固くならなくても大丈夫だぞ」


シェルスはどこかオルビスの態度が堂々としていて安心しつつ、ディオールと紹介された男性を見る。


金髪で如何にも貴族といった格好、オルビスより背が高くスラっとしていて、女子にモテそうな容姿だった。


「はい、よろしくお願いいたします、ディオール様……」


「そんな、様付けは止めてください、私の事はディオールと……」


「あ、はい、ディオール……」


シェルスは今までレインセルでは貴族に対しても高官に対しても様付けをしていた。そっちのほうが楽だったからだが……これからはそうもいかないと実感する。


「では、シェルス。行くぞ」


オルビスと連れだって歩き、礼拝堂の中へと入る。


コルネスで信仰している神の下に膝まづき、祈りを捧げる。


(ルンルとマリム……二人には幸せになってもらいたい……結婚はしてるんだろうか……二人は姉妹なのかな……朝食……二人の料理だったら美味しそう……)


などと考えながら祈りを捧げる。


「では私はこれで……シェルス様、一週間後、楽しみにしております」


一週間後……? とシェルスは首を傾げるが、話を合わせる様にお辞儀する。


ディオールが立ち去るのを見届けたシェルスはオルビスに


「あの、一週間後というのは……」


「あぁ、結婚式……だよ……?」


ディオールが居なくなった瞬間……オルビスの態度がおかしくなる。挙動不審になりつつ、リーンに目配せしつつ……


リーンは空気を読んだのか、


「シェルス様、とりあえず朝食を取りましょう。昨日から何も食べてないんですから……」


「ぁ、うん……」


シェルスはオルビスも一緒に食べると思っていたが、オルビスとはその場で別れて自室へと戻る。


そこにはルンルとマリムがすでに朝食の支度を終えていた。


「おはよう。おら、さっさと食え、冷めてしまうぞ」


「残したら承知しねえぞ、全部食えよ」


朝食とは思えない量の食事が用意されていた。昨日夕食を食べずに寝てしまった事へ対しての仕返しだろうか……と思いつつ、シェルスは席に……


「あの、オルビスは……」


「あぁ、オルビスは朝食取らないんだ。ずっと部屋に籠って……老人をどう陥れるか考えてるんだろ」


リーンは侍女2名の前で普段と変わらない口調で話す。侍女二人も気にする様子はない。


「オルビス様には頑張ってもらわないと……お前も頑張って騎士団篭絡しろよ?」


「えっ……篭絡って……」


ルンルに言われつつ、卵焼きを口に運ぶ……薄味だが、どこか安心する味付けだった。


(なんか……聖女達が作るのと似てる……)


そう思うとシェルスは言われたとおり残さず朝食を平らげてしまう。空腹だったのもあるが、その食べっぷりに侍女二人も満足したようだった。





朝食を終えたシェルスは、リーンと共に中庭に出ていた。


「今日はどうする? 観光案内してやってもいいが……サンティアはとくに見る物もないしな……」


「街に降りてみたいけど……」


それを聞いてリーンは首を振る。それは止めておけと。


「もう少し時間を置いた方がいい。お前はまだ……レインセルから来た姫君って認識だからな」


大戦の名残がまだ残っているんだろうかと、シェルスはリーンの言う通りにする。


「騎士団の詰め所にでも行ってみるか? ルンルにも篭絡しろと言われてるしな……アルフェルドはもう篭絡済みだろ。ということはガウェインか……」


「え、あ、いや……別に篭絡したとかじゃ……」


たしかにアルフェルドのシェルスに対する態度は過保護な姉のような物だったが……


「ガウェインかー……あいつはどうやって落とすか……」


リーンが呟く。それを聞いてシェルスはガウェインという名前に違和感があるのを思い出した。


「ねえ、リーン……バラス島で私を助けてくれた時……ガウェイン・ロイスっていう魔術師が居たと思うんだけど……」


「ん? 例の聖女だろ? リュネリアだったか……なんだ、それがどうかしたか?」


「どうかしたかって……もしかしてガウェインって名前は……リーンが付けたの……?」


リーンはしばらく思いだすように考えた後……ハっとする。


「そういえば……いや、私は付けてないぞ……イリーナとリュネリアが……ん? そう思うと凄いな、あいつら良くコルネスの騎士団長の名前なんて知ってたな……それとも偶然か?」


(偶然……なのかな……もしかしてイリーナは知ってたんじゃ……)


「まあ……とりあえずガウェインの詰め所に行ってみるか? 今の時間帯なら……訓練してるかもしれんぞ」


どこか楽し気にリーンは言い放つ……シェルスは首を傾げながらリーンと共に東の詰め所へと向かった。






 要塞の東、騎士団詰め所前の広場で騎士達が訓練していた。


木剣を手に打ち合っている。その中にはガウェインが部下を悶絶させている姿も……


「お、姫君……じゃねえ、もう王女か……」


シェルスに気が付いたガウェインは近寄ってきては呟く。


「おはようございます、ガウェイン騎士団長、朝から精がでま……」


「ほら、相手してくれ」


と、いきなり王女に木剣を投げ寄越すガウェイン……それを見て流石にリーンは声を荒げ


「おい、貴様! いきなり何を言ってるんだ!」


「あ? 侍女は黙ってろ、俺はそっちの……」


リーンはシェルスの木剣を奪い取ると、ガウェインの前に立ち……


「私が相手になってやる」


それを聞いたガウェインは大声で笑いながら


「はぁ? 侍女が何を……分かった分かった……相手になってやんよ」


ガウェインはリーンの事を知らない。目の前の侍女がどんな体験をしてきたかなど。


その騒ぎに騎士達が止めに入ろうとするが……


「大丈夫ですよ~、そんな本気でやるわけじゃ無いですし」


どこか呑気な声が響く……いつもガウェインの傍らに着いているルージュ・アリアだった。


「当たり前だ、侍女なんかに本気だしていられるかよ」


ガウェインはバカにしながらリーンに近づく。


「ほら、間合いだぜ、侍女さん、打ち込んで……」



と、その時ガウェインの世界が一瞬で反転する。


リーンによって足を払われ、ものの見事に回っていた。


何が起きたのかガウェインも分からず、自分が地面に手を着いている事に気が付くと、リーンを見上げる。


「な、お前……」


「油断しすぎじゃないのか、騎士団長」


その状況に周りの騎士達は着いていけない。ルージュも言葉を失って苦笑いしている。


ガウェインは完全にスイッチが入り、勢いよく立ち上がると同時にリーンに打ち込むが……軽く躱され、先程自分が部下にしていたように、リーンの木剣が腹に刺さり……


そのまま悶絶する。


地面に膝をついて悶えているガウェイン。


「だ、団長?! だ、大丈夫ですか……?」


介抱しようとガウェインに近寄ったルージュを、勢いよくガウェインは木剣を振って突き飛ばす。


「うるせえ……! 下がってろ……!」


その様子にシェルスは、ガウェインに対して……


(子供……)


と、素直な感想を思っていた。


「まだやるか? やるならさっさと……かかってこい、雑魚」


その言葉にガウェインは頭の血管が千切れ、がむしゃらにリーンに走りこんで剣を振るが……


結果は目に見えていた。


今度は見事に気絶させられ、騎士団長の一角は地面に寝転がっていた。


(これが……今のコルネスの騎士団長の実力……ライガスさんの足元にも及んでいない……)


シェルスはかつて打ち合ったライガスを思い出すが、あの時は手加減をされていた。それでもシェルスは歯が立たないと感じてしまうほどライガスは強かったが……


「おい、ルージュ」


ビクっとルージュはリーンに呼ばれて、周りの騎士達に介抱されながら立ち上がる。


「こいつが目を覚ましたら言っておけ。今度王女に舐めなマネをしたら……」


「わ、わかりました! しっかり教育しますので!」


ビシっと敬礼しながら周りの騎士と共に逃げる様に、ガウェインを詰め所の中へと運んでいく。


「リーン……強いね、相変わらず……」


「お前には負けるがな」



いやいや、とシェルスは首を振りながらリーンと共に、その場を後にした。




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