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勉強

 シェルス達一行を乗せた船はモルガンニカで補給を終えると、コルネスへ向けて出港する。


ここからあと10日ほどでコルネスだ。その間、シェルスはスヴェルからコルネスの現状などを学ぶわけだが……


ここにも学ぶ者が一人。


シンシア・オルレアンの元に弟子入りしたステアである。





レインセル、マシル大聖堂の大書庫


ステアとラスティナ、そしてマリスにユミルが机に向かっている。それを監督しているのがシンシアだが……


(なんでコイツまで……)


シンシアは半分呆れた顔でユミルを見ていた。少女に囲まれるようにユミルも勉学に勤しんでいる。


「ねー、ユミルー。守護霊の作り方ってこれでいいんだっけ?」


マリスがユミルへと質問する。ユミルは「どれどれ」と優しい兄のようにマリスが書き込んだノートを覗き、アドバイスをしている。それを見てシンシアはため息をつきながらステアのノートを後ろから覗き込むが……


「ん? ステア……全然進んでないじゃないか……」


「えっ?! いや、考え中……」


慌てふためくステア……シンシアに言い訳しつつ、頭を抱えて唸る。ラスティナに助けを求めようとするが、こっちはこっちで夢中になってノートに何やら書き込んでいる。


「ラスティナは物覚えがいいな。マリスもなかなか理解力がある。んで……」


シンシアはステアを見つつ


「ステア、お前私のいう事聞いてたか……? そこまで難しい問題じゃないと思ったんだが……」


本日の課題は守護霊の精製、および運用についてだったが……


「い、いや……聞いて……ましたよ……」


ステアは頭を抱えている。聞いてはいただろうが、頭の中で理解が及んでいない。元々魔術などステアの中では別世界の物だった。


「わかった、もう一度噛み砕いて説明してやるから……おい、ユミル、ちょっと手伝え」


マリスとラスティナの間に座っているユミルを3人の前に座らせる


「これからユミルを守護霊にするとしたら……」


「えぇ?! ちょ……ナハ……シンシア様……」


「様はいらん、シンシアでいい。本当にするわけないだろ、例題だ」


かなり不安が残るユミル。椅子の上で足の上にこぶしを乗せて震えている。


「では……そもそも守護霊とはなんだ、ステア」


いきなり指名されたステア、不安げに……


「えっと……死んだ魔物とか……魔人とか人間とかの魂が……神殿に宿って顕現した……ヤツ……」


答えはするがステアには意味が分からなかった。この回答もノートに書きなぐった物だったが……


「正解だ。理解しているかどうかはさておき……ではラスティナ、神殿とはなんだ」


次にラスティナが指名される、ラスティナは夢中になって書きなぐっていたノートから目線を上げ


「守護霊が生前の姿を、器を介して顕現する際に必要な媒介です」


それを聞いてステアは更に頭が混乱する。


「大正解、では例えばの話だが……ユミルが今ここで死んだとする」


ポン、とナハトはユミルの肩を叩きながら言い放つ。ユミルはガタガタ震えている。


「もしユミルの魂を守護霊として使役したい場合……もちろん神殿も必要だが、もう一つ必要になってくるものがある。それは何だ、マリス」


マリスはユミルをどこか楽しそうに見つめながら


「ユミルの魂を守る為の触媒~」


「その通りだ」


楽しそうに足をブラブラ振りながら椅子に座るマリスを見てユミルは苦笑いしている。シンシアは再度ステアに問う。


「さてステア……、ではユミルの魂を天国に行かせない為にはどうする。天国そのものがあるかどうかはさておき、放っておいたら見失ってしまうよな。さて、どうする?」


ステアは、その説明はさっき受けたはずなのに頭が理解してないせいか答えれない。


「ステア、難しく考える必要はない。お前なりの言葉で説明してみろ。別に間違っていても私は怒ったりせんぞ」


シンシアはユミルの肩にひじを置いて寄りかかる様にしながらもたれる。ユミルはビクビクしながらステアに早く答えてほしいような目で見つめ……


「え、えっと……ユミルの魂を……その、生前愛用してた物から魔力的な……物を採取して……宝石やらなんやらを、疑似的な体に見立ててやる……?」


「なんだ、分かってるじゃないか」


シンシアは嬉しそうにステアの頭を撫でまわす。そんなステアをラスティナはニコニコしながら見つめ、マリスはどこか羨ましそうに眺めていた。


「今のステアの回答はほぼ正解だ。ようは魂が宿りやすくしてやるわけだが……それでも問題はある。ラスティナ、魂が逃げてしまわない為に必要な物はなんだ」


ラスティナはステアから目を外し、シンシアの目を見ながら答える。


「守護霊によって変わってきますが大半は生前の記憶です。核となる守護霊の要素を触媒に組み込んであげれば……」


「うんむ。その通りだが……ユミルの記憶はどうする。例えばこのメガネを使った場合、採取できる魔力ではそこまでの記憶は汲み取れないだろう。他にユミルに関する遺物も無い場合、どこからその記憶を持ってくる?」


3人は首を傾げる、それを見たシンシアは嬉しそうに……


「よし、ユミル……これはお前の専門分野だろ。説明してやれ」


ユミルはずれたメガネを直しつつ、3人に説明を始める。


「え、えっと……そもそもが記憶、形に無い物だし他人にどうこうできる物でもないんだけど……僕を守護霊としたい時にエサに使う記憶は……別に僕の記憶じゃなくてもいいんだ……」


ステアは腕を組んでユミルの説明に耳を傾けている。これ以上マリスとラスティナに置いて行かれるわけにもいかない。なにせノルマを達成しないとマシル大聖堂に缶詰にされる。


「たとえばラスティナやマリス……の、僕との思い出を使ったっていい。多少美化されていても僕の魂が満足する記憶なら、その触媒に宿り続けるだろうね……」


「ん……でもそれって……なんか可哀想……」


マリスがポツリと言い放つ。ユミルを哀れな目で見つめる様に……


「あぁ、マリス……僕をそんな目で見ないで……」


一人悶えているユミルの後頭部をシンシアは本で殴りつつ、説明を続けさせる。


「え、えっと……でも嫌だったら魂はいつでも触媒から逃げれるんだ。天国があるなら行ってもいい。でも、守護霊によっては現世そのものに留まりたいって触媒に宿りつつける場合もある……」


ラスティナはクエレブレの触媒を懐の中で感じながら思いだす。広大な空を楽しそうに滑空するクエレブレ。シェルスが初めて召喚した際には素晴らしいと歓喜していた。


「まあ、言い方わるいけど未練かな……? 守護霊を繋ぎ留めておくのは……もちろんそれ以外もあるよ? 強い目的とか……」


「なあ、ユミルの兄さん……じゃあ、あの英雄ナハトってやつは……? どうやって守護霊になったんだ?」


ギクっとユミルは目を泳がせる。


「あ、えっと……あれは~……」


「ステア、良い質問だが……そもそもアレは疑似的な魂だ。魂と言っていいのかどうかも分からん。だがナハトを繋ぎとめていたのは……リュネリアの魂だ。リュネリアが知っているナハトの英雄伝やらなんやらに奴は繋ぎ留められていたんだ」


ステアは一瞬首を傾げるが、何か気づいたように頷き始める。


「じゃあ、もうナハトは逃げちまったのか……」



英雄ナハトが宿った剣にはもう気配は残されては居なかった。リュネリアの魂が抜かれた以上留まる事もできずに霧散していた。


「さて、じゃあ今日はここまでにするか、そろそろ飯でも……」


「あ、師匠……その前に……ちょっと聞きたいんだけど……」


ステアが挙手して質問してくる。珍しい事にシンシアは喜びながら


「なんだ、何でも聞いてみろ」


「さっきユミルが未練で触媒に宿るとかなんとか言ってたけど……それだったら結構……死んだ奴ほとんど守護霊になって残ってるんじゃ……」


その質問にナハトは嬉しそうにステアの頭を撫でまわした。


ラスティナとマリスもステアを見つめている。羨ましそうに。


「イイトコに気が付いたな~、ステア。そうだ、お前の言う通り死んだヤツを放置してたら、その辺の物に宿って悪さをするかもしれん、そうさせないためにも、魂の祝福という魔術がある」


3人は顔を見合わせる。



「魂の祝福とは、体から魂を切り離して地脈に降ろさせてやる魔術だ。地脈について説明しだすと長くなるからまた今度にするが……要はこの星に流れる血液みたいなもんだ。そこに魂を還してやることで、その辺りに憑りついたりするのを防ぐわけだ。ついでに死んだ肉体を魔力に分解して還す事もできるから、魔人を討伐した時に主に使われるな」


「ん……あれ、でもあのディアボロスってヤツは……? ちゃんとリエナの姉さんが祝福で消したって……」


ステアのその質問にシンシアはポリポリ頭を掻きつつ


「さっきも言ったが、悪魔で地脈に返すだけの魔術だ。地脈に帰った魂がどうなるかなんて分からんからな……まあ、だから完全な対処法ではない……というのが正確だな……」


そのシンシアの言葉に3人は不満そうな顔をする。


「じゃあ魔人がいつでも守護霊として蘇ってくるって事も……」


「あるかもしれん」


「先日のナハトみたいな事も……」


「あるかもしれん」


「死んだ人間がいきなり蘇ったり……」


「あるかもしれん」




3人の不安にシンシアは答えつつ


「その不安だ。それを解消するために私達は研究し続けるんだ。完璧な魔術なんてこの世に存在しないが……少しでも安心できれば、それに越したことはないだろ?」


3人は静かに頷いた。真面目に勉強しようと思いつつ……













時を同じくして、聖女の元に老人が訪れていた。



聖女リュネリア。暗唱の宝石を使用してバラス島を消し飛ばし、最悪の魔人にスコルアを襲わせる事になった。


そんな聖女の元にゼシルが訪れる。


「調子はどうじゃ、リュネリア」


リュネリアはかつての師であるゼシルの顔が見れなかった。


あんな事をしたのだ、まともに顔を合わせれるわけがない。


「ゼシル様……私の処分は……」


「まだ決めかねておる。バラス島に住んでおった人間は全て死んだ。お前のやった事は許される物では無い。だが魔人にそそのかされて行ったという……」


「あれは……私の意志です……」


ゼシルはその言葉にため息を吐きながら


「どちらにせよ、すぐに決定が下る案件ではない。しばらくは大人しくしておれ。処分が下れば……追って伝える」


ゼシルはそれだけ言うと立ち去る。リュネリアはベットの上で俯きながら



「姫様……シェルス……」



コルネスへと旅立った娘の事を思い出す。


この後に及んで腹立たしいと思いながら……







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