コルネス
魔人を退けモルガンニカの港へと入港する船が一隻……
もちろんオルビスらコルネスの「王族」を乗せる船だが、モルガンニカの住人はその帆に描かれたコルネスの紋章をみると渋い顔をしていた。
「補給部隊行ってまいります……」
兜をスッポリ被った騎士数人がモルガンニカへと入る。
もちろんシェルスは留守番だった。隠れてコソコソと街に出るなど考える余裕は無かった。
先の魔人討伐騒ぎでオルビスに説教を食らい(食らったのは主にスヴェルだが)これ以上オルビスに心配をかけるわけにはいかないと大人しく船室で過ごしていた。
その時、シェルスの部屋をノックする騎士が一人。
「どうぞ」
シェルスが返事をするとその人物はドアを開けて中を確認しつつ
「シェルス……ちょっといいか……」
入ってきたのはスヴェルだった。海水で長い綺麗な髪はゴワゴワになっている。シェルスはそれを見ると洗って綺麗に梳かしたいとウズウズし……
「髪ですか? 髪ですよね?」
「あ?」
スヴェルは真顔でシェルスに首を傾げていた。
「何言ってんだ、少し耳に入れたい事があるんだが……」
ガタガタ、とスヴェルは椅子を引っ張ってシェルスの前に陣取る。
「モルガンニカとコルネスの関係について知っているか?」
もちろんシェルスも大戦の事は一通り知っていた。
コルネスがモルガンニカという小国に対して行った事も含めて知っていたが、それは悪魔で歴史の勉学という範囲だった。
「一応……、教えて頂ける事は全て学んだつもりです……」
「じゃあ、これからする話は知らんと思うから良く聞け……モルガンニカとコルネスの関係は、ハッキリ言って最悪だ。出来る支援はコルネスでもしている……が、政を担ってるのがオルビスと数人の老人なんだ、オルビスには悪いがカカシみたいなもんだ」
(本当に悪い事いうな……自分が仕える人に対してカカシとは……)
「その上……コルネスの騎士団を仕切っているのはオルビスでも老人数人でもない。アルフェルドっていうのと……ガウェインって奴だ」
シェルスは首を傾げる……ガウェイン……どこかで聞いた事があるような名前だった。
「スヴェルも騎士ですよね……?」
「もちろん、だが俺は王族専門の騎士……っていえば分かりやすいけど……要はオルビスとレベージュ専門の騎士だったんだ。これからはお前とオルビスだが……」
(そうか……コルネスでは聖女の変わりがスヴェルなのか……レインセルでは護衛も世話も聖女がこなしていたし……)
「それで……モルガンニカが、なんでしたっけ……」
「あぁ、モルガンニカから大戦時数千人と魔術師を拉致したのは知ってるよな。今ではコルネスの魔術師達を仕切っているのは……そのモルガンニカから来た魔術師の子供なんだ……ちなみにコルネスはもちろんレインセルの事も大嫌いってやつだから……」
(なんでそんな人がコルネスで魔術を仕切ってるんだろ……)
「まあ、つまり何が言いたいのかっていうと……とことんコルネスって国はバラッバラなんだ……騎士も魔術師も王族も……何一つ連携という物を取ろうとしない。レインセルのように騎士の要請で魔術師が動くなんてことは……まずないからな……」
シェルスはなんとなく予想は着いていた。しかしそんな修羅場に自分が投入されることで本当に上手くいくのだろうかと心配していた。
「まあコルネスまではここからまだかかる……その間に頭に入れておきたい事は入れていくつもりだから……」
シェルスはいつかのステアを思い出す。ラスティナにレインセルの基本的な構図を叩きこまれていたステアの気持ちがこうなのか、と……
同じ時刻、コルネス騎士団詰め所……の近くの草むら
「団長……団長? アルフェルド団長!」
一人の若い騎士が草むらで爆睡している騎士を起こそうとしていた。
「んぁ? ぁ、ごめんなさい……つい……」
その騎士は体を起こすと、大きくアクビをしながら周りを見渡す。
「あれ……なんで私こんなトコで……」
「大丈夫ですか……ガウェイン団長達が騒いでますよ……例の……ほら、レインセルの姫君が……」
「きた?!」
金髪で腰まであるであろう長髪の騎士は若い騎士にキラキラした目で尋ねた。
アルフェルド・マルカル
コルセル騎士団長の一人。騎士団長と言っても年齢は20代後半、大戦時はまだ乳飲み子だった。
「い、いや……まだですけど……その……ガウェイン団長が仕掛ける気マンマンなんですよ……レインセルの騎士団の……えっと、連隊でしたっけ……その騎士だった姫君に稽古を付けてもらうとかなんとか……」
アルフェルドはあからさまに嫌そうな顔をしながら立ち上がる。
「あいつ……私だって……私だって!」
「いやいや、落ち着いてください……ここは止める場面です」
「私だって……姫様とキャッキャウフフしたいのにぃ……」
若い騎士は言葉を失いながらため息を吐いた。
この人はダメな人だと。
アルフェルドが若い騎士に欲望を吐露している頃、もう一人の騎士団長、ガウェインは自身の愛刀を振るっていた。細い白刀 この世界には日本刀というものは無いが、それに近い武器を扱う珍しい騎士だった。打ち合えば折れてしまうのでは無いかと思えるほど、ガウェインの使う武器は頼り無かった。
「はぁっ! はぁ……っ! はぁ……ゴフっ……ヘホ……ゲホ……っ!」
「まあまあ、大丈夫ですか?」
素振りをしながら咳き込むガウェインを解放する、こちらも若い騎士。
「あ、あぁ……大丈夫だ……なんの花粉だ、ちくしょう……」
「花粉じゃないです、そんな格好で素振りなんかしてたら咳の一つや二つでますね~」
ガウェイン・ロイス アルフェルドと同じくコルネスの騎士団長である。
ガウェインは上半身裸、しかも水を事前に被って気合を入れていた。他の騎士達は理解しようともしないし理解したくもなかったが。
「気合を入れんと……姫様に殺られてしまうぞ……」
「特に団長は一番最初に殺されそうですね~ 変ですからね~」
ニコニコしながら若い女性騎士は答える。実はアルフェルドを起こしにいった騎士と双子の兄妹だったりする。
「変とはなんだ……俺はただ……」
と、そこにアルフェルドと……先程の若い騎士が連れ添ってガウェインの元へやってきた。
「ガウェイン! 話は聞いたぞ! 貴様、姫君に何をするつもりだ!」
「ふん、女の出る幕じゃない! すっこんでろ!」
ガウェインとアルフェルドに付き添っている双子の騎士は口をそろえて言う
「「レインセルの姫君も女なんですけど……」」
そして更に時を同じくして……コルネス大要塞の地下、そこに放り込まれた囚人二人を前に一人の男が興奮している。
「すばらしい……これは……なんてことだ……! 素晴らしい! これは……なんてことだ!」
(何回言うんだコイツ……)
そんな男を牢越しに見ているのは先日捕らえられた冒険者、イヴァン・アルベイン。
そしてもう一人……イヴァンとは反対側の隅で俯いている男。
「すばらしいぞ! おい、そこの君! 名前は何ていうんだい?!」
「あ? イヴァン……」
「イヴァン!!!! こいつは守護霊だ! 守護霊を纏っているんだ!!」
イヴァンは首を傾げている。何を言っているか分からない。
「あー! なんてこった……守護霊を纏うなんて……聞いたことが……あるような…ないような……。とにかく……研究だ……コルネスのカス共を実験台にして……レインセルのアホ共をエサにしてやる……おっと……そういえばもうすぐ来るんだったな、レインセルの姫君が……ククク…丁度いい……私の研究の成果の糧になるがいいぃ!」
イヴァンはアクビをしながら
「どうでもいいけど……飯は?」
「あぁ、持ってこさせよう……その代わり……君、イヴァン……ちょっとソイツと殴り合いしてくれないか?!」
イヴァンは同じ牢の反対側で静かに佇んでいる人物を見る。奇怪な魔術で不意と突かれたが殴り合いならば……と思うが
「断る……あいつが殴りかかってきたら相手になってやるよ」
いいながらイヴァンは自分から仕掛けたくないと言い放った。
「分かった! おい! そこの君! せめて名前教えてくれないかい?! その守護霊の名前はなんて言うんだ?! ぁ、そうか、まずは私からだな!? 私はレジナルドだ! レジナルド・サバトだ!」
レジナルドと名乗った男に顔を見せる様に……
ゆっくりと……
その「守護霊」は顔を上げる
「ン?! お、お前……まさか……そうか、そういうことか……!」
レジナルドは一人で納得しながら、自身のノートにメモを取る。
守護霊、ライガスと。




