大戦
25年前、コルネスとモルガンニカの間で戦争が勃発した。
モルガンニカは大半の国民が小人族。穏やかな性格で争い事などとは無縁の種族のように思えるが、魔術に関しては小国ながらレインセルと並ぶほどの技術があった。
当時コルネスはレインセルに対抗すべくモルガンニカを吸収しようと動いていた。遠く離れた大国とはいえ、コルネスには騎士は居ても魔術師は皆無と言っても過言ではなかった。
それに対してレインセルには優秀な騎士、そして魔術師がそろっている。リエナの父親であるファラク討伐など、コルネスにとっては夢のまた夢の話だった。
当時のコルネスの王はレインセルの功績に焦っていた。もしレインセルがコルネスに攻め込んでくれば確実に滅ぼされると。もちろんレインセルがコルネスに攻め込む理由など無い、しかしコルネス王は自国を守る力を手に入れる必要があると、モルガンニカに攻め入り魔術師達を拘束していった。
数の暴力だった。モルガンニカがいかに強力な魔術の国とは言え、コルネスとは明らかに兵の数で劣っていた。しかも大半の魔術師達は小人族で穏やかな性格の者ばかり。戦争とは無縁の存在だった。
モルガンニカの小人族達は争いをするために魔術を研究しているのではない、魔術を使って人々を救う術を模索している魔術師たちが大半だった。
そんな魔術師達は次々とコルネスに拉致され、研究を強いられていった。破壊を旨とする魔術を。
コルネスがモルガンニカへ攻め入り魔術師を拉致している。大陸を越え、レインセルにもその話は伝わってきた。
レインセルにとっては脅威にしかならない、そう判断した当時のレインセルの王、チェーザレの父親はモルガンニカの魔術師を救出するという名目でコルネスへの進軍を騎士、魔術師へ命じた。
「これは戦争か……?」
モルガンニカは小さな島国。レインセルから船で上陸した魔術師の船団を率いるゼシルは嘆いた。
傍らには15歳の少女、リエナ。その手は真っ赤に染まっていた。
モルガンニカの国民は大半が無抵抗でコルネスへと拉致されていた。その為油断しきっていたのか、モルガンニカへ攻め入るコルネスの船には騎士は数名しかおらず、大半の乗組員は魔術師達を詰め込む為の作業員だった。
ゼシル率いる魔術師達はそんな作業員も虐殺していった。
「もうここには用は無い。コルネスへと進軍する」
モルガンニカの民は怯える目でレインセルの魔術師を見ていた。
魔術で人を殺す。
その行為は悪魔の所業だと言わんばかりの目で。
コルネスへと進軍した魔術師の船団。当時レインセルはハッキリとジュールとマシルに別れていた為、騎士と連携を取ることなど、よほどの事が無ければあり得なかった。
リエナはファラクの体を受け継ぐ魔術師、そしてマシルの最高権力者に与えられるナハトという名前を冠していた。その為前線へ立ち、次々と騎士達を殺していった。
中には騎士とは呼べない人間も居た。リエナよりも年下の子供。ただ剣を持っているだけの子供。
そんな子供も容赦なくリエナは手を下さして行った。成長すれば脅威になるかもしれないと考えた。
それでも見逃していた。怯えて崩れ落ちる、自分と目が合っただけで泣きだしてしまう、そんな子供に手を下せるほど、リエナは強くも弱くもなかった。
リエナが繋がる物、それは血液。
人間は勿論、生きる者、生きていない者の血液と繋がり魔術を行使する。
人体を破壊するだけなら簡単だった。血液を固めてしまえばいい。または血管を破裂させる。
地獄絵図。破裂させ、飛び散った血液を再びリエナは氷柱状にして降り注がせる。
たとえ体を貫かれてもリエナは死なない。ただ武器が増えるだけだ。自分の血液ですらリエナは武器として扱った。
溢れる血液を矢として飛ばした。
はじけ飛ぶ血液を氷柱にして降り注がせた。
わざと恐ろしく見せた。
恐怖を煽った。
コルネスの騎士など眼中には無い。
騎士など残酷に殺して見せる。
自分よりも年下の子供の目の前で、大人の騎士達を残酷極まりない殺し方をする。
少しでも心を折る様に。
少しでもレインセルの魔術師に恐怖を抱かせるように。
同じように、リョウギの目の前でコルネス王を残酷に殺した。
しかしリエナも15歳。
当時はそれが一番いいと思っていた。
残酷に殺せば子供は怯えて心を折ると。それで終わってくれると思っていた。
だが子供達の中には復讐心を抱く者は当然の様に居た。
「立て」
悪魔のような形相でライガスに立たされるリーン。泣きながら言葉も出ない。ライガスは剣を握らせると転がっている死体に剣を突き刺させた。
泣き叫ぶリーン。ライガスが殺した魔術師に剣を突き刺す。
「分かったか、次は生きてる人間を刺せ」
リーンは首を振りながら剣を捨てる。
「なら死ぬ。全員あの魔術師に殺される」
それも嫌だ、と蹲った。
耳に届く叫び声。そこら中から騎士達や子供達の断末魔が聞こえてくる。
リーンは声が止むまで蹲り続けた。
ライガスはいつの間にか居なくなっていた。
耳を塞いで息を殺し、死体に紛れて隠れ続けた。
それから20年後
リーンはコロシアムで逃げ惑う観衆の貴族を仲間の盗賊達と共に殺した。
自分でも不思議だった。
あれほど怯えながら死体を刺していたのに、今では簡単に生きてる人間を殺せる自分が不思議でたまらなかった。
「あいつだ、あいつが私を壊したんだ……」




