友
コルネスへと向かう船の中の一室で、オルビスとシェルスは共に食事をしていた。
王宮での食事とは違い、船の中では質素な日持ちする食料ばかりだった。だがシェルスは高級食材で彩られた食事より、こちらの方が美味しいと思っていた。騎士として5年過ごしてきたせいか、荒い味付けの料理や庶民的な味が馴染んでいた。もちろんスコルアの聖女達が作る食事が不味いというわけでは無いが。
「あの……シェルス王女……」
オルビスがどこかソワソワした様子でシェルスへと話しかけた。シェルスは持っていた干し肉を置き、手と口を拭いてオルビスの目を見る。
「え、えと……そのですね……」
「オルビス王子はシェルス様が船から飛び降りないか心配なさっていました」
傍らに立っていたスヴェルが代弁し、オルビスが咽りながらグラスの水を飲みほした。
「なぜ私が……?」
シェルスは首を傾げながらスヴェルを見た。小さくため息を吐きながら首を振るスヴェルを見て、シェルスはオルビスが考えている事におおよその検討が付いた。
「あの、オルビス王子……私は身投げなどしませんし、逃げ出してレインセルへ帰ろうなどとも考えていません。貴方はあの夜言ってくれましたよね、私を守ると……」
それを聞いたスヴェルは拍手喝采……したい気分だったが、じっと佇み続ける。
「す、すみません……決して……シェルス王女を……信用していないわけでは……」
水をおかわりし、ゴクゴク水を飲み続ける王子……
(そんなに……私を連れて帰るという事が、この人にとってはプレッシャーに……)
コルネスではシェルスの事を英雄視する騎士団が居る。そして王子はその騎士団を束ねる為、シェルスを利用するとシェルス本人へ告げたのだが……
(この様子じゃ……利用する前に潰れちゃうんじゃ……)
「シェルス王女、暇つぶしというワケではないですが……私達の昔話に付き合って頂けませんか?」
スヴェルのいきなりの提案にシェルスは唖然としながら頷く
「ありがとうございます。そもそも私とオルビスが出会ったのは共に5歳の時です。ええ、私とコイツは幼馴染という奴で……今では騎士として仕えていますが……他の者が居ない場では普通にタメ口で会話していたりします、船の中では極力控えてますが……どこに耳があるか分かりませんからね」
「お二人は……同い年だったのですね……」
シェルスは佇まいなどからスヴェルが年上とばかり思っていた。だが昔話をしだすスヴェルはどこか幼げに見えた。
「ええ、共に25歳です。私は元々オルビスの側近となるべく教育されてきました。共に勉学に励み、剣の鍛錬をし……時には喧嘩も……」
「おい、ちょ……何話し出すん……」
オルビスが止めようとするが、スヴェルはお構いなしに
「オルビスが私と最初出会った時……なんて言ったと思いますか? あぁ、ちなみに私は5歳の時すでに……この髪型でした」
そう言われてシェルスは想像がついた。オルビスはしっかりしているが、レインセルを出たとたんに……正確にいえばスヴェルが傍に居るときは、どこか間が抜けていると感じていた。
「もしかして……女の子と間違えた……とか……」
「大正解です、オルビスは私の事を見るなり顔を赤くして……ちゃん付けで呼んで来たので、しばらく本当の事を隠して遊んでいたんです」
「も、もういい! それ以上は勘弁してくれ!」
オルビスはスヴェルに縋りつくようにして懇願する。その様子を見てシェルスは笑ってしまうが……
「はいはい、ではシェルス様……続きはコルネスへ到着してから、ゆっくりと……」
シェルスは縋りつくオルビスを剥がすスヴェルを見て、羨ましいと思ってしまう。
「あの、スヴェル様……」
「呼び捨てで構いません、というより……レインセルではどうだったかは知りませんが、王女が騎士や家臣に対して様付けなどするものではありませんよ」
「は、はい……スヴェル……あの、良かったら私の事も呼び捨てにしてもらっても……構いませんか? 勿論この3人の間でだけで構いませんので……」
スヴェルはその提案を聞き、シェルスの弱音を聞けたような気がした。自分も心を許せる友が欲しいと。そしてスヴェル自身、そう思われている事を嬉しく思う。
「わかった、シェルス。これからよろしく……あぁ、ちなみにレベージュ王女をお風呂に入れていたのは私だが……良かったらシェルスも……」
「大嘘つくな……安心してください、シェルス王女……ちゃんとコルネスにも侍女が……が!?」
ゴン……と、あろうことか側近の騎士が王子の頭を拳で叩いていた。
「話の流れを読め、お前がいつまでも王女王女言ってるから馴染めないんだろうが……もうお前はシェルスの尻に敷かれるのは決定済みなんだ、観念しろ」
シェルスは苦笑いしながら思いだす。シンシアに言われた言葉を。
さっさと王子を尻に敷けばコルネスも思うが儘……と。




