コルネスの王女
一連の騒ぎが収束する。だが全てが終わったわけでは無い。
王宮の会議室で、シェルスを上座にして幹部達が並ぶ。そこにはゼシルやシンシア、ガインの姿もあった。
「して……コルネスの王族はどうしますかな……姫様。騎士達の中には追い返すべきだという声も上がっているとか……」
ゼシルは向かい側にいるジュールの騎士達に向かって言い放つ。騎士達は口を開かない。
「もう結論は出てるみたいだが……? 姫様、貴方の意志は……」
シンシアはシェルスに向かって発言する。シェルスは赤いドレスに身を包んでいた。
「私は王女として……コルネスへと赴きます」
その言葉に騎士達の幹部は何も言わない。震えながら耐え忍ぶものも居れば、涙ぐむ者もいた。
「じゃが……その場合、この国の王家は……」
「チェーザレを王子として……ジュール、マシルの双方から代表者を選出してください、その二人を王子の柱とします」
シェルスは予め、ゼシルに相談していた。チェーザレにこの責務を負わせてしまっていい物かと。だがゼシルは即答した。チェーザレ王子はシェルスが考えているより王家よりの人間だと。
「姫様、提案があるのですが……」
シンシアが手を上げ、シェルスへと発言を求める。
「どうぞ……なんですか?」
「私は……ナハトの位を降りようと思います、もとより私のような人間に勤まる物でもない……それで……」
「ちょ、ちょっと待て! ナハト! 何を……」
その提案に騎士達は頷いていたが、マシル側の幹部達は慌てる。特にゼシルは。
「何って……そのまんまだ、良い機会にマシルの代表を変えてみてはどうかと……」
ゼシルは頭を抱える、またこの娘の悪い癖が出たと。ここまで言い出したらもう何を言っても曲がらない事も知っていた。
「そこでだ、私が推薦するのは……クラリスだ、他に推薦する者は居るか?」
ゼシルは更に頭を抱える。なぜナハトに推薦されるのは変人ばかりなのかと。元々変人が推薦するのだ、仕方ないかもしれないが
「あの……シンシア……」
シェルスはナハトの事を本名で呼ぶ。ナハトを降りると言った以上、本名で呼ぶべきだと。
「提案というのは、それだけですか? 今はコルネスの事案についての会議です……もしかして……」
「ああ、はい、私もコルネスに同行しま……」
「「それだけは許さん!」」
ジュールの幹部の騎士、そしてゼシルが同時に言い放つ、シンシアはやっぱり……と言いたげな顔だったが
「まあ、まて……まさかお前等……王女を一人で行かせるつもりか? それなりの実力者が護衛として着くべきだろ、そのままコルネスで王家の一員になるとしても……敵は多いだろうし……」
元々コルネスとは大戦で戦った間柄なのだ。今は形だけ友好に接しているが、お互い腹の探り合い状態だった。
「それはそうじゃが……貴様が行ったら問題起こしまくるじゃろうが……それなりの実力者で護衛の勤まる人間など……他にいくらでも……」
ゼシルは本音を混じらせながら、誰か居ないかと考えるが……
ジュール側の幹部の側に座っていたガインが発言を求めた。シェルスはガインに許可する
「失礼します。ジュール側からの護衛としては、やはり連隊長クラスの実力者が赴くべきでしょう。そこで私は……私を推薦します」
時間が止まったような気がした。ゼシル、シンシア、そしてシェルスは首を傾げ……
「ぁ、立候補ですか……?」
シェルスがマヌケな声で返した。
「そうです、立候補です。どうでしょう、幹部のみなさ……」
ジロ、とガインを睨む幹部達。ガインは思わず口を紡ぐが……
「まあ、ガイン殿なら……実力的にも礼儀作法的にもいいでしょう、問題はマシル側か……」
シンシアの中ではすでにガインに決定している。それだけでもうジュールの騎士達も折れたようにガインの肩を叩いていた。
「ちょっと待て、話を進めすぎではないか? こちらが赴く話ばかりしているが……要は王女の交換じゃろ、コルネスの狙いは」
「おい、口を慎めよ、意地悪爺」
ゼシルにいつもの調子が戻ってきたとシェルスは笑っている。シンシアはそんなシェルスを見て、少し安心する。あの処刑以来、思いつめたように伏せっていたからだ。
ジュール側の幹部騎士が頭を掻きながらゼシルを見ていた。
「あの、ゼシル様、例えばですが……コルネスの王女がチェーザレ王子と王家を継ぐとして……その場合、ジュール、マシル双方の柱の話はどうなるので……王子もまだお若い、王女の年齢……によっては……」
「ああ、それなら大丈夫だ。コルネスの王女もチェーザレ王子とそう変わらん年齢だ」
シンシアの言葉に一同は、ああ……それなら……と安心するが……
次の瞬間、全員が身を乗り出しシンシアに説明を求めるようにヤジを飛ばす
「ああ、もう……五月蝿い……聞いての通りだ。向こうの王女も10台そこそこだ。レインセルの王家としては最少齢だな……」
シンシアはあっけらかんと言い放つが
「あ、あの、シンシア、その話は何処から……私も知らなかったんですが……」
シェルスがシンシアへと質問する。シンシアは渋い顔をしながら
「情報提供者が……その……いまして……」
「ちょっと待て、誰じゃ、その提供者とは」
「言ったら怒るだろ……」
ゼシルはシンシアの言葉に突っ込みたくなるが、自分の心臓の為にも追及したくなかった……
『盗賊だ、その妹が王女らしい』
シンシアの懐に入っていた暗唱の宝石が言い放った。シンシアは頭を抱えた……黙ってろと言ったはずなのに、と。
「き、貴様! 会議の場に何持ちこんどるんだ!」
シンシアは観念するように暗唱の宝石を机の上に置く。
「盗賊とはなんじゃ! なぜその妹が……」
「すみません、その話は私から……」
ガインが挙手し、発言を求めて立ち上がった。
「この場に居られる方は報告を受けていると思いますが……念のため……。今回のクーデター騒ぎ……私も参加した一人ですが……実はイリーナがかつて、シェルス王女をバラス島から救い出した時に雇った盗賊……その盗賊を再度イリーナが雇い、聖女として今回のクーデターへスパイとして潜りこませていました」
周りの幹部達はそれは知っていると頷くが
「ここからは……まだ報告してませんが……彼女は私に出生を尋ねられた際、口を滑らせ本名を語りました。その時に言ったのです、シア・ベディヴィアと」
その名前に幹部達は反応する。ベディヴィア家と言えばコルネスでも有数の貴族であると
「ちょ、ちょっと待ってくれ……ベディヴィア家じゃと……?!」
「その妹が……今回王女としてこちら側へ来るそうだ。レインセルの王女してな」
シンシアに言われ、シェルスはリーンの妹……と、再会する姉妹を想像してしまうが、リーンは顔を聖女に変えられて、戻せないようだった。その聖女はシェルスの部屋へと駆け込み、背中に剣を刺された、あの聖女だった。
「という事は……コルネス側も護衛の一人や二人連れてくるじゃろうな。まあそれは構わんが……ただの護衛ならばの話じゃが……」
ゼシルの言葉に周りの幹部達も渋い顔をする。その護衛は幼い王女の信頼を得ているに違いない、そうなれば、その護衛の意志がそのまま政に影響する恐れすらある。
「だがこちらも同じ条件だろう、シェルス王女がコルネスの王子をさっさと尻に敷けばいい。そうなればコルネスも思うがままだ」
「し、尻に敷くって……」
シェルスはシンシアの言葉に呆然とする。
そんな幹部達があれやこれやと会議している最中……
一隻の船がレインセルの東の港へと到着する、そこからスコルアまでは目と鼻の先だった。
「ここがレインセルだよ、レベージュ」
一人の20代前半くらいの成年が、10台前半の少女の手を引いて大地へと降り立つ。
レベージュと呼ばれたのはコルネスの王女。ただ大地を踏みしめ、立ち尽くしている。
「レベージュ……? 大丈夫、すぐに慣れる」
青年はコルネスの王子。レベージュの肩を抱くようにし、慰める。この王女はレインセルとの交換材料にされるのだ、無理もないと王子は思うが……
「オルビス様……きぼじわるぃ……」
王女は船酔いに苦しんでいた。




