レンセルの敵
スコルア、王宮の地下から以上な気配を放つ騎士が一人、姿を現す。
漆黒の鎧に身を包み、ローブを羽織った騎士。かつてレインセルを救った英雄が、明確な「敵」として姿を現した。その気配に騎士達は背筋を凍らせる。
(何だアイツは……)
ウォールグに赴いた騎士、報告を受けた騎士はすぐに気が付いた。あれはナハトだと。
その場に居合わせたサリスは騎士達に命ずる。
「総員抜刀! 迎え撃て!」
号令に一斉に騎士達は抜刀する。それぞれの武器を抜き、目の前の敵を見据える。
『顕現せよ、ディアボロス』
サリスは耳を疑う。今確かに聞こえた、ディアボロスと。
目の前の空間に亀裂が走る。守護霊が召喚される前触れ、サリスは盾を構え警戒する。周りの騎士達も、異様な空気に圧倒されながらも後退することは許されないと身構える
巨大な腕が勢いよく空間を破って出現する、その割れた空間から姿を現す巨大な影。
以前報告を受けたディアボロスより、はるかに巨大な姿。
王宮を一撃で葬り去る事が出来そうな斧を持った怪物が、スコルアに出現した。
「サリス、あいつの相手は俺がする」
そう言いながら騎士の前に立つ男が一人。サリスは思わず安心してしまう、それほどこの男は信頼することが出来た。
レインセル最強と言われる騎士、シェバがディアボロスの正面に立った。
「よう、3回目だな。正直飽きてきた。これで終わらせるぞ」
シェバは宿敵へと言い放った。
スコルアより北に潜伏しているイリーナ達。ゼシルからのメッセージを解読したラスティナ達からの報告で正直困惑していたが、
『まずい、顕現しているぞ。ナハトにディアボロスだ』
暗唱の宝石に宿る魔人が言い放つ。イリーナ達は一瞬耳を疑うが
「予想より早いな、状況についていけん」
クラウスは言い放つ。イリーナも同意見だったが
「ラスティナ、これをお前の器で顕現させてくれ。それなり使えるようになるはずだ」
ラスティナはイリーナの角笛を受け取る。しかし今は夜、太陽が出ていないとラスティナはあまり期待できないと思うが
「そうだ……ステア、月と同調して! それで私に前みたいに……」
「へ? い、いきなり言われても……同調って……」
以前同調した時は偶然の産物だった。まだ魔術師の卵以前のステアにとっては、同調の仕方すら分からない。
「いい? 月に手を翳して……それで想像して、月を自分の一部だと思って……」
ステアはいきなりで混乱しながらも、言われた通り月へ手を翳す。そして想像する、月が自分の一部と。
「んー…… よくわからん……」
「大丈夫、同調できてる」
へ? とステアはマヌケな顔をするが、ラスティナがステアの手を取り、村から走り出る。
「おー、あの二人は仲いいな?」
クラリスがボソっと言いながら、イリーナは見えてるのか? と疑問を持つが……
「いきます! イリーナ様!」
ラスティナが合図を送り、角笛を吹く。
すると地鳴りがする。村人達も何事かと家から出てくる。
「おい、イリーナ……まずいんじゃ……」
「だ、大丈夫だろ……たぶん……」
地鳴りはだんだんと近づいてくる。イリーナはやっぱり自分がやったほうが、と後悔したが
もう遅い。
「ガァアァア!」
大地で構成された巨大なドラゴンが地面を突き破って姿を現す。その姿はスコルアの王宮を丸呑みできるのでは無いかと思える程だった。
イリーナ達一行は、顕現したドラゴンの背に乗る。魔術師達は騎士達によって抱えられ、ラスティナの合図と共に、巨大なドラゴンを助走を付けてスコルアへ飛び立った。
スコルア王宮付近で、巨大な魔人と一人の騎士が戦っていた。
一方が巨大な斧。一方はハルバート。一見すると同じような武器に見えるが大きさが段違いだった。
シェバは怒号を上げながらディアボロスの斧を弾き、一気に接近し足を薙ぎ払う。
ディアボルスは踏みとどまり、シェバの頭上へ斧を振り被り一気に落とす。
「一年間も戦ってたんだ、俺はお前の事結構気に入ってるんだぞ」
言いながらシェバは斧をスレスレで躱しつつ、足を掛けて踏み台にする。そのままハルバートを高く掲げ、気に入ってると言いながら容赦なくディアボロスの頭を砕いた。
『ガァァ! ハハハ、オレモダ! コレダ! ヤハリコウデナクテハ!』
ディアボロスは嬉しそうな声を上げながら、レインセル最強の騎士との死闘を楽しんでいた。
一方ナハトと化したグリスは、集まってきた騎士達を次々と切り伏せて行った。
「固まるな! 連携を……」
騎士達へ指示するサリス、その指揮官へとナハトは疾走した。
「っく……! 私が抑える! そのスキに私ごと切れ!」
サリスは疾走してくるナハトへ盾を構え、片手剣を逆手に構える。
ナハトがサリスへ迫り、斬りかかろうとするその瞬間、サリスは盾を至近距離からナハトへと投げ渡した。ナハトは盾を剣で屠るが、次の瞬間甲冑越しにサリスの鉄拳が炸裂する。
そして坂手に構えた剣をナハトの足へ突き刺した。
そのままサリスはナハトの残った足を抱え込み、倒す。
「やれ!」
サリスはナハトに抱き付くように抑え込み、一斉に騎士達がサリスごと切り伏せようと接近する。
だが、騎士達は失念している。目の前の黒い鎧に身を包んだ英雄は、魔術の根源たる暗唱の宝石を使いこなしていたことを。
黒い霧が辺りに広がる。騎士達は、その霧に触れて気づく。鉄という鉄が腐っていく。
「なっ……」
サリスの剣、鎧も腐っていく、ナハトの魔術が辺り一面へと広がる。騎士達は丸裸にされていく。
サリスはナハトに力で起こされ、鉄拳で応戦するサリスの首を鷲掴みにする。
そして自らの剣、霧の中にあって唯一腐っていない剣で、サリスの胸を刺し貫いた。
その光景を見た騎士達は激昂する。黒い騎士に向かって武器も持たずに、サリス仕込みの鉄拳で殴りかかる、だが空しく切り伏せられていく。
霧が晴れた頃には、サリス隊、連隊騎士の亡骸があたりに転がっていた。
ハナトは、死体を踏み越え進む。レインセルの敵として。
その時、夜の月明かりが巨大な影で隠された。
『久しいな、いや、お前は童話のナハトだったな』
声がした。ナハトは見上げる、夜の空を。
そこには巨大な大地で構成されたドラゴンが空を覆い隠さんとしていた。そのまま巨大なドラゴンはラスティナにより触媒へと戻され、イリーナ達一行がナハトの前へと飛び降りる。
そしてクラリスを抱きかかえながら降り立つイリーナはナハトへと話かけた。
「おい、どうせグリスだろ、何が狙いか知らんが今すぐナハトの顕現を……」
『無駄だ、イリーナ。目的を達成するまで術者の意志など無い、ウォールグの時と同じだ』
イリーナは一応言ってみただけだと言いながら、転がっているサリスの死体に気が付く。
「サリス……隊長……」
イリーナは嘆くように、剣を抜く。だが
「お前はシェルスの所に行け、お前が居なくても騎士がゾロゾロと集まってきているぞ」
クラウスがイリーナの前に立ちはだかり、言った通りナハトを取り囲むように騎士達が包囲していた。
「わかった……クラリス、ラスティナにステア、私に付いて来い」
イリーナは魔術師3人を連れ添い、やや大回りしつつ王宮へと向かう。
残されたクラウス、ガリス、モールス、そして包囲するレインセルの騎士達。
「サリス隊長がやられたか…… 私が奴を抑える、お前達は私ごと奴を切り捨てろ」
クラウスはサリスと全く同じ事を言うが……
「マジか、喜んで」
「滅多にない機会だ、確実にあんたの息の根を止めんとな」
ガリスとモールスは、抜刀しながら言い放つ
「おまえら、覚えとけよ……」




