贖罪
王宮内、王子の部屋からガインは通信魔術で、共にクーデターを起こした騎士達へと状況を説明した。ウォーレンがシェルスを殺そうとした事、グリスもグルである可能性が高いということも。
『も、もしそれが本当なら……と、とんでもないことですね……というか……ウォーレン元騎士団長は……?』
通信魔術の相手はサリスだった。彼女もクーデターに参加していた。
「私とライカで殺しました。ライカもその際、死亡しました」
淡々と語るガイン。サリスはそんなガインの言葉に何かを感じ取ったのか、素直に監禁している騎士、魔術師の解放を認めた。
『わ、わかりました……それでは……ゼシル様へ連絡して……魔術で全ての手錠の開錠を……き、きをつけてくださいね、ナハト様が何をなさるか……』
「分かっています、私はあの人の事はそこまで悪く思ってないですよ」
そのままガインは通信を切り、待機しているシェルス達へと報告する。
「まもなくゼシル様により、手錠の全てが開錠されます、その際多少混乱は生じるでしょうが……」
リーンはそんなガインへ尋ねる。お前達の目的は結局なんだったのかと。
「私達の目的は王権の復活、ただそれだけです……。時期にコルネスから王族が到着するでしょう。解放した騎士や魔術師の中には、シェルス様を渡さまいと……攻撃するものも居るかもしれません。もしそうなれば……再び大戦が起こります……」
「脅してるつもりか、大戦を起こしたくなければシェルスにコルネスへ行けって事だろ」
ガインはシェルスを見ながら頷いた。まさしくこれは脅しだと。だがシェルスは
「結局……私は騎士にはなれないんですね……ライカ隊長の言ってた意味って……冒険者から騎士に……」
「それは違います、シェルス様」
ガインはベットに座るシェルスの前に膝まづいて語る
「ライカは貴方が拉致された一年間、他の騎士達を抑え込んでいました。それはイリーナの覚悟を知ったからです。民と貴方を天秤に掛けてイリーナは民を選んだ、その意志を踏みにじるわけには行かないと。ですが、我々には騎士としての資格は無いと……あの一年間で悟ったのです、貴方を助けに行けない自分達が、騎士を名乗るなど……」
シェルスは黙って聞いている。リーンはあからさまに怪訝な顔をしていた。
「おい、お前等本気で言ってんのか? イリーナの決断に寄り添ってるだけじゃないか」
「まさにその通りです……我々に……今回のクーデターを起こす権利など無かった……ですが……我々にはこうするしか無かった……貴方の騎士に……なりたかったのです……」
ガインは頭を下げてシェルスに懇願する。貴方の騎士にしてくれと。
「結局……私の……我儘だったんですね……騎士になりたいなんて……」
シェルスは嘆くように言う。自分に騎士として生きる道など許されなかったと。
「おい、シェルス……そんな奴のいう事……真に受けてどうする……お前が勝手に決めればいいことだろ、別に今回コルネスと大戦になったとしても……別にお前には何の責任も……」
「ありますよ……私は……レインセルの姫として……王家に迎えられたんですから……」
その言葉にガインは顔を上げ、今一度シェルスへと誓う。この命は全て貴方の為に使うと。
その時、結界が破壊される。
『ガイン隊長、ゼシル様が開錠なされました、結界も破壊されましたが……ナハト様の行方だけ分からないと……』
通信魔術で部下の騎士からガインへと報告される。ナハトだけが居ない。ガインは部下の騎士に、グリスを探せと命じる。
『了解しました。グリス隊長を見つけ次第……殺害します』
部下の騎士は一方的に通信を切る。グリスとウォーレンがグルになってシェルスを殺しに来た事で、激昂していた。
王宮、地下。限られた者しか知りもしない牢獄があった。その地下牢の中に、ナハトは監禁されていた。ゼシルが魔術でスコルア中の手錠の開錠を行ったが、この地下牢には特別な魔術が施してある。
いまだナハトの手には、ゼシルの作った手錠が掛けられていた。
しかし、それだけではない。ナハトは手錠を天井から釣り下がったフックに掛けられ、宙釣り状態にされていた。全裸にされ、体中にはムチで打った傷が付けられている。
「ウォーレンめ……抜け駆けしおって……」
グリスはムチを片手に、酒を飲んでいた
「始まる……大戦がはじまるぞ。シンシア」
グリスは宙づりにされているシンシアを見上げながら酒を煽る。
「もはやレインセルの騎士は止められまい、シェルス姫を渡すまいとコルネスの王家を攻撃する。そうすれば……大戦は勃発する」
シンシアは俯きながら黙って聞いている。
「シンシア、お前も許せんだろ。あの一年、何も出来なかった自分が」
グリスはムチを構え、シンシアの体を打つ。だがシンシアは声一つ上げない。
「レインセルはもう一度……やり直すのだ。大戦で全てを破壊し、騎士達も裁きを受ける」
グリスは一人で喋りながらシンシアの体に新しい痣を作っていく。ムチで何度も打ち続ける。
シンシアはそれまで無反応だったが、ゆっくりと声をあげる
「お前の言う通りだ……グリス……」
初めて声を聞いたグリスは、ムチを撃つのをやめる。
「私は許せない……こうやってお前が拷問してくれるのはいいがな……温いぞ。もっとだ……シェルスは内臓を引きずりだされ、戻され、熱した熱を当てられ、腹の中に悍ましい昆虫を埋め込まれたりした。こんなムチを撃つだけの行為なんぞただの自慰だ、私にシェルスと同じ事を……ブラグがした事と同じことをしてくれ……でないと……私は自分を許せない……」
グリスは顔をしかめる。挑発のようなナハトの発言に剣を抜いて答える。
「これは拷問ではない。あの方の……シェルス姫君の命令で処刑される為の布石だ。あの方は怒り狂うだろう、この光景を見たあの方は……私を処刑しろと……」
「ック……アハハハッ!」
シンシアは笑う、グリスも自分の言ってる事が可笑しいと釣られて笑ってしまう
「お前の言う通りだ……これはただの自慰だな……」
グリスは剣でシンシアの手錠を切断する。
「シンシア、私はこれより……ナハトとしてレインセルの敵になる。時期にここに助けもくるだろう。シンシア、ナハトと化した私を殺せるのはお前だけだ。限りなく残酷に、この世に生まれた事を後悔するほど無残な殺し方をしてくれ。頼んだぞ」
それだけ言うとグリスは剣へと念ずる。
このレインセルの敵となれと。
剣から黒い闇が生まれる。グリスを包み込むようにして、ナハトが顕現する。
ナハトと化したグリスは、静かに地下牢から出て行く。
それを見送るシンシアは小さく嘆いた。
「だったら自殺でもしてろ……死にたがりめ……」
シンシアは手錠を見る。ゼシルからのメッセージはすぐに解読した。
余計な事をするなと。
ゼシルは予見していたのだ、あの時、イリーナが姫を助け出したあの時から、こうなることを。
騎士達が、シェルス本人に裁かれたいと願っている事を。




