メッセージ
王宮は未だ隠蔽の結界に包まれていた。その中で淡く光る一つの遺体。リーンによって、魂の祝福と言われる魔術がライカの亡骸に掛けられていた。ライカの遺体は静かに光と共に消えていく。
「シェルス様……私が守ります、貴方は中へ」
信頼し合っていた騎士が死んだ直後だというのに、ガインは冷静な声でシェルスへと話しかけた。シェルスはそんなガインに嘆くように尋ねた。
「貴方は……貴方達の目的は……なんなのですか……ウォーレンは……一体なにを……」
ガインはウォーレンの遺体を見る。リーンはその遺体を見下ろしながら、こいつの祝福はしないと部屋に戻って行った。
「私達の目的は王権の復活です。だが、グリス隊長と……この男の目的は違ったようですね……ともかく……ここは危険です、私が部屋を守ります」
結界からの脱出は危険だとガインは判断した。今この結界の中で無理に動こうとすれば敵の思うツボだと。
「この結界を張っているのは……誰なんだ……」
リーンは部屋の中からガインに尋ねた。ガインは首を横に振り、分からないと嘆く。
だがシェルスには心当たりがあった。マシルの魔術師でなくとも、騎士の中に結界を張る者が一人だけいると。
「ナハト……あの守護霊を、誰かが使って……」
その言葉にガインとリーンはシェルスを見る。もしそうなら、使用しているのは間違いなくグリスだと。
もし本当にグリスが使っているのならば、最悪だとシェルスは考える。レコスが乗っ取られていた時ですらシェバが圧倒されていたのだ、それをグリスが、隊長クラスの実力者がナハトを宿したらどれだけ厄介な存在かと。
「他の幹部達は……シェバは……どこに監禁されているのですか?!」
ガインにシェルスは問う、ガインはしばらく考えた後
「ジュールとマシルの大聖堂にそれぞれ……ですが、ナハト様だけグリス隊長が……」
シェルスは歯ぎしりする。マシルの最高権力者がグリスの手に落ちている。
「彼らの目的が何かは分かりませんが……シェルス様、もう少しでコルネスの王家がこのレインセルへと赴きます、彼らが到着すれば……貴方の安全は……」
「ふざけないで!」
シェルスはガインに叫ぶ。自分だけコルネスへと避難しろと言うのかと。この訳の分からない事態から自分だけ逃げろと言うのかと。
「おい、ガイン。今すぐ監禁した騎士や魔術師を解放すべきだ。グリスとウォーレンがグルなら……またシェルスやチェーザレの命を狙いに来るぞ。そうなったら私達で守り切れるとは思えん、こんな結界を張るような守護霊を有しているのならなおさらだ」
リーンの言葉に、ガインは一瞬悩むも静かに頷いた。
スコルアから北の農村、クラリスとラスティナが手錠を解読していた。
「おー、これは凄い……見た事ない式だな……ゼシル様にご教授頂きたいなー」
クラリスは言いながら手錠に手を翳しながら解読している。ラスティナはクラリスほど魔術の知識はない。ユミルから教えてもらった魔術は、基本的な物がほとんどだった。クラリスに任せるように手を引くと、自分の無能っぷりに頭を抱える。
「ん? どうした、ラスティナ?」
クラリスは手探りでラスティナの手を取ると、手のひらに人差し指を当てる。
「私は魂の専門家だからなー、お前の魂が悲しそうな色してるのは分かるぞー」
いいながらラスティナの手の平をなぞる様に、一つの式を書く。手の平で淡くクラリスが書いた式が光っている。
「この魔術は隠蔽だなー。何かを隠そうとしてる……私達の気配や魔術の痕跡を隠すためのものじゃないなー、だとしたら……」
クラリスはニヤっとしながら、ラスティナの手の平に引き続き式を書き足していく。
「ゼシル様は、解読しやすいようにしていたのかもなー、こんなあからさまに……お? これは……面白いパズルだー、ラスティナ、やってみる?」
クラリスは手錠から手を引き、ラスティナの手を無理やり引っ張って翳させる。
ラスティナは難しい顔をしながら、手錠に掛けられた式を解読する。ゼシルが何か仕込んでいる事は間違いない。だがそれが何なのか、ラスティナは一つ一つ、解読を進める。
「これ……まさか……」
クラリスが首を傾げながらラスティナの様子を伺う。ラスティナは何か気が付いたように
「クラリスさん……もしかしてこれって……ゼシル様からのメッセージかも……」
ラスティナは紙とペンを出して式を紙へ書き殴っていく。
「クラリスさん……この中から隠蔽の魔術が掛けられた式を消してください!」
クラリスは言われたとおり、隠蔽の式が関係していると思われる式を消していく。すると文章が現れてくる。
「あー……えっと……」
クラリスが出来上がった文章を読んで首を傾げた。
「なんだこれ……」
ラスティナも、その文章を読んで首を傾げる。
「なんで……?」
二人で顔を見合わせつつ、ゴクっと唾を飲みこんだ。
『じっとしていろ。余計な事はするな』
誰に向けたメッセージなのか、二人はすぐに分かったが……
「これって……私達も込みなのか……?」
「さ、さあ……明らかに……ナハト様へのメッセージだと思いますけど……」
二人はとりあえず宿屋の外で警戒しているイリーナ達へと報告する。
ゼシルからの意味ありげなメッセージを。




