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傷跡

 スコルアから、農村へと逃れてきたラスティナ達3名。月が村を照らす頃、ガリス隊らから説明を受けていた。


「最初に異変が起きたのは、お前達がラングスへ向かった直後だ。幹部が抑えられてな。そいつらはシェルス達一行を預かっていると言ってきた。逆らえば殺すと言われてほとんどの幹部は大人しく捕まった」


イリーナは淡々と説明する。ラスティナ達は息を飲みながらその説明を聞いていた。


「その時私とガリスは、コイツの隊から応援要請があったんで……」


こいつ、とイリーナはクラウスを指さし……クラウスは怪訝な顔をするがイリーナは無視しつつ


「魔人の討伐だ、大した事は無かった。だが討伐した直後に通信が入ってきてな、レコスから。それから私達は、クラウスの隊と一緒にスコルアに潜りこんだんだが……お前達を助けれたのも、その時に残ったクラウスの部下のおかげだ、奴らが事前に色々と準備しててくれたんでな」


レコス……と聞いてステアは、そういえば居ない、と気づく。


「なあ、あの姉ちゃんは居ねえのか?」


「姉ちゃん? ああ、レコスか、奴は自分の意志で残った。シェルスが人質と聞かされていたからな」


イリーナは説明を続けながら、村の料理のパイに口を付ける。


「食わないのか? なかなかイケるぞ」


3人はそれぞれパイを一切れずつ取って食べる……クラリスは甘さが足りんといいながら完食するが……


「あの……私達が見た魔術師の集団の事ですが……」


ラスティナは、旅の途中で目撃した集団の事についてイリーナに聞く、あの時ゼシルにも通信して確認したのだ。まさかゼシルも敵になってしまったのかと心配しながら


「ああ、いや、意地悪爺さんはこちら側だ。その通信は脅されてたか……それとも何か考えがあったのかは知らんが……その集団もスコルアに到着するなり、抵抗する騎士や魔術師を攻撃していた」


「シェルス様……」


ラスティナは今捕まっているシェルスの事を思う。どんな扱いを受けているのか、と。


「奴らの目的は……なんなんだ」


ステアが呟くように言う。ラスティナもイリーナを見つめながら……


「王権の復活とか言ってたな……用はシェルスやチェーザレに王家に戻れと言ってるんだ」


ステアは聞きなれない名前が出てきた……と思ったが、うんうんと頷いている……話の流れから言って王家の人間だと思いながら……


「あー? チェーザレって誰だっけ?」


クラリスが言い放った時、ガクっと肩を落とすステア


「シェルスの義理の弟だ。本来の王家である……今は亡き女王から生まれた子供だ。ナハトも他の幹部達も……今はマシルに在籍してるとはいえ本来の王家の血筋なんだ、チェーザレが人質にされれば……大人しくしているしかないだろうな……」


ラスティナは怪訝な顔をし……


「あの、それなら私達を助けたら……シェルス様やチェーザレ様が危ないのでは……」


イリーナはラスティナを見ながら、パイを一口食べ……


「シェルスはともかく……チェーザレは殺せない、奴らにとっては人質が生命線だ。グリスはバカじゃない……それくらいの事は……」


「おい! シェルスならともかくって……お前の娘だろ!」


ドン! とステアは机を叩きながら訴えるが……


「すまん、言い方が悪かったな……私だってシェルスを見殺しにするつもりは無い。いざとなれば……」


一瞬だけ……イリーナの目が闇に落ちた。その雰囲気にその場にいた者が息を飲むが……


「ああ、あと……お前達を助けろと要望してきたのは……コイツでな」


ゴト……と机の上に暗く光る宝石を置くイリーナ。それは暗唱の宝石。ラスティナとステアは目を見開き、クラリスは異常な気配に気づく。


「な、なんでこの宝石が……」


ラスティナは宝石を見つめながら問う。


『数日振りだな。我が会いたかったのは魂に愛でられし……お前だ。ラングスを従える魔術師よ』


ビクっとクラリスは震える……見えない目でも、そこに居るのは魔人だとすぐに気づいた。


「まさか……暗唱の宝石……? ということは……グラスパか……?」


『その通りだ、流石だな。シンシアから聞いているぞ。お前の事をな』


クラリスはシンシア……と聞いて顔を俯かせる。この宝石は知っているのか、と。


「どこまで聞いたんだ……?」


『お前が魂と同調出来る事、そしてシンシアと血が繋がっている事も含めてな』


ラスティナとステアはクラリスを見つめる、あの最高幹部と血が繋がっていると聞いて……


「で、でも……家名とか……全然違うんじゃ……」


「腹違いなんだ、私とシンシアは……」


クラリスは答えながら、魔人に問う


「私を助けるように要請した理由はそれか?」


『それもあるがな、お前にやってもらいたい事がある。お前なら可能だろう。ナハトの剣に眠る聖女の魂を救う事が』


その話はシェルスから聞いていたクラリスは頷く。しかし……


「肝心の剣はどこだ?」


イリーナは渋い顔をしながら……


「今は無い……お前達を助ける時、ついでに盗もうと思ったんだがな。グリスの奴が常に持っていてな」


イリーナは立ち上がり……


「他に質問なければ今日はもう休め。私達が変わりで見張りをする。とりあえず手は打ってある。それにもよるが……今後の方針も明日からだ」


「手って……なんだよ……」


「ん? 旧友に……ちょっとな」


部屋を出て行く騎士達、暗唱の宝石もモールスに鷲掴みにされて退室する。


「なあ、これからどうなるんだ……」


ステアはラスティナに尋ねる……ラスティナは首を振りながら


「そんなの……わからないわよ……」


そんな暗い二人を慰めるように、クラリスは言い放つ


「ばあやに言って……風呂でも沸かして貰うか?」


ステアとラスティナはクラリスの頭をクシャクシャに撫でた。







 シェルスは手錠を外されていた。もう逃げる事は出来ないというグリスの判断だった。

実際逃げれば義理の弟が殺される。それだけは避けたかった、シェルスは窓の外から月を見上げる。


「ラスティナ……ステア……それにクラリスに……イリーナも……無事なのよね……」


シェルスは安堵していた。ラングスから全く会っていなかった3人が心配でならなかった。


月は静かにスコルアの街を照らしていた。とても騎士の半分以上が寝返っているとは思えないほどの静けさ。


(結局……私達……姉弟は王家なのね……人質としてこんなに……)


シェルスは最初は悔しいと思っていた。自分に人質の価値は無い、そう言い放って突入してくる騎士達を想像していたからだ。だがそんな動きはない。唯一イリーナがラスティナ達を助けたくらいだと。


 だが今は違う。シェルスは悔しい反面、嬉しくもあった。騎士となった自分はまだしも、弟のチェーザレはまだ子供……その義理の弟の事を大切に思ってくれている人が大勢いると。


「チェーザレ……」


昔は本当の姉弟だと思っていた。自分がバラス島へ拉致され、救出された後もチェーザレは毎日のように自分の所へお見舞いに来てくれた。


「でも……本当の……お姉ちゃんじゃないもんね……」


シェルスが義理の姉だと知らされたチェーザレとは、ぎこちなくなった。シェルスが話しかけても、素気ない返事が返ってくるのみ……シェルスは寂しかったが……


「仕方ないよね……でも……私にとっては……たった一人の弟……」


シェルスはチェーザレの事を思う。今何をしているのかと。自分と同じように……月を見ているのかもしれないと。





コンコン……


こんな夜中に部屋をノックされる……シェルスは怪訝な顔をしながら……


「はい……」


返事をすると、ドアが開かれる。


「失礼します」


そう言って入ってきたのは……


「あ、あなた……なんで……」


「静かにな……ようやく忍び込めたんだ……」


そう言って入ってきたのは、聖女の格好をした


「リ、リーン……どうして……」


「いや、また金で雇われてな、お前の母親に……」


そういいながら、リーンは短刀をシェルスに持たせる。


「どこでもいい、隠しておけ、いざというときに使えるかもしれん。あとこれも……どこか体に仕込んでおけ。」


渡されたのは通信をするための触媒……シェルスは胸の中に隠しながら……


「何かあれば知らせろ。私はこれから少しずつ時間を掛けてお前の弟の情報を集めてイリーナに流す。バレたらトンズラするがな……何か欲しい物は……デザートとか言われても……出せんが」


思わずシェルスは笑いながら、リーンにお礼をいいつつ……


「あの……イリーナからはなんて……」


「ああ、チェーザレを助け出せとな、お前の事は別にいいって言われた。チェーザレさえ助ければ勝手に逃げるだろってな」


思わず苦笑いするが……シェルスは嬉しかった。実力を買われているようで……


「チラっと見てきたが警備は盤石だ。時間はかかるだろうが……じゃあな。私はしばらく聖女として潜入してる。さっきも言ったが……何かあれば知らせろ」


リーンはそれだけ言うと、さっさと出て行く。シェルスは受け取った短刀を枕の下に隠し……


(通信魔術の触媒……見つかるわけには行かない……絶対に見つからない所に仕込まないと……)


シェルスは枕の下に隠した短刀を再び取り、トイレに行く。


そして、服を脱ぎ……昔ブラグによって付けられた、腹の消えない傷跡を短刀で抉った。


「っ………!  んっ……!」


歯を食いしばり、血が零れる傷へと触媒を埋め込む。そして治癒魔術で止血し、傷を塞いだ




(チェーザレ……)



シェルスは触媒を埋め込んだ傷をなぞる。忌々しい拷問によって付けられた傷を

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